「何を書いているんですか?」 「!!た、隊長っ!?あ、は、えーっ、そうであります、に、日記です!はいッ」 いきなり後ろから声をかけられて素っ頓狂な返事をしてしまう。書くのに夢中になっていたのもそうだが、 「あ、え…そ、そう。でも、そんなに驚かなくても……」 なにより話しかけられたのが、あこがれのリースヒェン部隊長であったということである。 あわてて日記帳を閉じて振り返り、不動の姿勢を取る。俺の奇行に隊長はやや面食らった、というか退いているか? だがすぐにいつもの優しく、凛々しくそして凛々しい表情に戻る。いやぁ、本当に冷静な人だ。 「ごめんなさい、邪魔をしたわね。随分と書いていたようだけど、任務には支障のないように、わかりましたか?」 「ハッ、了解であります!――あの、」 「何でしょう?」 よ、呼び止めてしまった!どうする、頭の中真っ白なのに。あーと、えーと、その。そうだ! 「いえ、隊長は、その、日記を付けたりするのかな、と愚考いたしまして……」 「愚考って……。日記は、ええ、つけてますよ。私のは大きいから戦地には持ち込めないけれど。」 「そうですか。隊長の日記って、報告書みたいなイメージがありますね。」 今、さらっと凄く失礼なことが口から零れたんじゃないか?あ、ちょっとムッとした。 「む、父上と同じ事を言う。……まぁいいです。それでは明日にしっかり備えてください。点検を怠らないように。」 「ハッ!」 そう言って隊長はそのままブロンドのロングへアをなびかせてテントの中に姿を消した。 指揮官はこれから作戦の最終確認かぁ。たかが猿狩りなのに周到な準備をすると思う。 ウンバラで定期的に行われているウータン狩りだが、なにもここまで大がかりにする必要もないように感じられる。 だが、そんな事より。 「そうか、隊長も日記をつけてるんだなぁ……」 まぁ、この問答を見ていたらわかると思うが、俺はリースヒェン隊長の大ファンだ。 間違いなくプロンテラ騎士団で一番の人物だと確信している。 あんな完成された性格で、顔よし、腕よしって、どういう事だろうね。天は三物を与えたんだろうか。 首都保安の二線級部隊でくすぶっていた俺をして死ぬ気で鍛錬させてここまできたのも、ひとえに隊長に近づくためである。 日記もけっこうな割合が隊長のことについて書かれている。だから見られると非常に困るのだ。 さてさて、今日は凄かった。なっといったって下っ端騎士の俺にが声をかけてくださったんだから。 顔も勝手にほころんでくるというものだ。 このこともしっかり書き残しておかないと。さいさきいいスタートだな―― *    *    * そう、なんのことはないウータン狩りのはずだったのだ。普段なら考えなしに、 手当たり次第に襲ってくる連中だ。人間よりふたまわりくらいの大きさで、体力も人間を凌駕するが 基本的な連携をしかければ手こずることはない。 特に問題なく進んでいた作戦に、異常は俺が伝令に派遣された所から始まった。 「では3班が全く見あたらない、ということですか?」 「はい。会合点の辺りを少し探してまわったのですが、影もかたちもありませんでした。」 不測の事態に備えて、定期的に包囲する各班で連絡をとりあう事になっている。 だが、俺が打ちあわせどおりの場所に行っても情報交換するべき第3班が見あたらないのだ。 道を間違えたかと思ったが、地図とコンパスを比べても間違いないはずだった。 「戦闘の痕跡もなく、忽然と消えたか……。分かりました。」 隊長は少し悩んで、命令を下した。 「もう一度私と、マウロで会合地点の辺りを探してみます。グレゴール、一時指揮をとって。  彼の報告が本当であるとしたらただ事ではないわ。」 「……了解しました。お二人ですので、気を付けて。」 *    *    * やった、うまく二人っきりになれたぞ!初めてだ。どうせ何かの行き違いなんだ、楽しまなくては。 その時は、なんの不安も俺にはなかった。任務中に無駄口を叩くわけにはいかないのだが、せっかくだし。 作戦に関係のあることなら大丈夫だろう。こんな事は二度とないかもしれないのだ。 「隊長、ウータンあんまり出てきませんね、さっきここを通り抜けたときも遭遇しませんでしたが。」 「そうでしょうか?あまり数が増えていなかった、という事だといいけれど。」 「なんでしょうかね。」 おお、まともに会話が続いている。そうこうしているうちに会合地点についた。密林が途切れ、空き地になったような所だ。 ここで間違いないことを確認すると隊長はペコペコから降りて地面を調べている。何が分かるんだろうか。 「3班は騎兵中心の追撃部隊です。それなのにペコペコの足跡がほとんど見あたらない。ここはまだ通っていないみたいですね。」 「引き返したんでしょうか?」 「何かあったとしても、我々に全く連絡がないのは……」 ! 瞬時に二人は飛び退いた。その直後、我々の旧位置に3発の石丸がたたきこまれた。 リースヒェン隊長は受け身を取って発射地点を特定、すぐさま反撃に移った。 俺も援護に走ろうとして、広場全体から囲むように放たれた殺気に愕然とする。 「か、完全に包囲されている!?」 「統制が、とれている。そ、そんな、これまで……」 ウータンファイターの攻撃を紙一重で回避しながらも隊長の顔には焦りが浮かんでいる。 今までの傾向からはありえない事態だ。部族を形成しているらしいことは判明していたが、草むらからの奇襲と、完全な包囲。 人間とほぼ同じ戦法で確実にこちらを葬り去ろうとしているのだから。 「何を企んでいるか知りませんが、基本は変わらない。行きます!」 「はいッ!調子に乗るなよ、猿どもめ!」 円包囲は、包囲側が圧倒的に有利なようで、実はなかなか難しいものだ。獲物をどのように追い込むか、包囲の環をどのように 狭めるか。これは高度な訓練を必要とする。知能を付けたようだが一朝一夕で猿まねできるものではない。 俺たちは包囲陣を引っかき回すことで、ほころびを作らせようとした。 ウォォォオォォオォォゥ!! ウータンが凄まじい雄叫びをあげて殴りかかる。ぶっとい筋肉から繰り出されるストレートの威力は脅威だが いかんせん技巧がない、ただ早いだけのパンチだ。予備動作からわかる。一度避けてしまえば懐に入り込んで 脇腹や首に自慢のツルギをカウンターでお見舞いできる。数が多くても十分勝機はある。 「バカめ!」 大きく振りかぶられてきた横殴りを最低限の後退でかわして、腕が通り越した後の無防備な身体に斬撃をくわえる。 呻き声をあげて反撃しようとするが、無視して次の目標へ移る。伊達に騎士をやっていない。 人間型のモンスターなら急所もだいたい同じようなところだ。すぐに倒れて動けなくなるだろう。で、隊長は? 「ふっ!」 凄い。俺は回避、次いで反撃と二段だが、隊長は拳が繰り出される時点で位置をずらし、 相手の攻撃と同時に踏み込んで致命傷を与えている。今の相手にも長い腕と交差するように突入して首を落とした。 盛大な血が吹き出る。連中が知性を持ったことには驚いたが、やはりたいしたことはない。 手負いの奴が破れかぶれに大きく構える。あれはリーチ長いから、大きく後ろにジャンプすればたやすく避けられる。 果たしてリースヒェン隊長はそのようにした。だが、 「なっ……」 ズガァアン!! 「隊長ォ!!!」 刹那だった。大きく余裕を持って後退跳躍した隊長を、空中でウータンシューターが狙撃したのだ。 浮かんでいる間は当然足場がないから軌道変更は出来ない。理論上は可能だが――連中はスナイパーか!? 完璧にリースヒェン隊長の顔面をとらえた石丸はキャベツ大の巨大なもの。我々なら投石機で打ち出すくらいだ。 「う――ぐぅ、ぁ……いっ……、こ、この……」 受け身も何もないまま、大木に叩きつけられ、そのままへたり込んでしまう。 「このぉッ、どけよ!俺の隊長に何をするんだ!」 今すぐにでも駆け寄って助け起こしたいが、それをさせまいとするウータンがわらわら湧いてくる。 クズ共め、クズ共めぇっ! なんとか、隊長はウータンが距離を詰める前に立ち上がった。これで一安心だ。いくら手負いとは言っても、回避に専念するくらい、 ゴォォォォオォォォォオオオオ!! 広場が急に明るくなった。凄まじい炎。何が起こったか一瞬理解できなかった。 あれは……、フレイムシューター!?そして、炎に包まれたのは――! 「うぁああぁぁぁ―――!!熱いッ……はっ、はぁあ―――助け………」 火だるまになって転げ回るリースヒェン隊長にウータンが迫る。くそ、駄目だ、まだ近寄れない!このままじゃ! グシャァ! 「―――ッ!!?ぁああぁああぁあぁあ!!!」 ウータンの重い左ストレートが隊長の右肩から腕にかけての部分に直撃した。 再度絞り出される悲鳴。凄まじい反動で、身体がそり上がった。さらにオマケとばかりに再度火焔が浴びせかけられる。 「おぁ、ぁぁっ……やけ、うっ、ぅぅうぅぅ!?はぁぁっ、うぁあッ、熱い――あつァッ!」 「猿共がぁーーーー!!!」 自分でも信じられないほどの勢いでウータンを血祭りに上げて行く。 しかし執拗に下等生物は行く手を阻んでくる。畜生これじゃ、いつまでたっても近づけない! ドォォン! 「あがぁッ!も、もぅ、許し……おぇえぇっ……あッ―――!」 今度は左足の脛のあたりへ鉄拳が落ちた。胴体を狙わないのは、余裕だとでも言うのか。 「生意気なんだよぉぉお!!」 なんとか隊長の下へたどりついた時には15、6体はいた包囲陣は崩壊して、生き残りも森の奥へ逃げ出していた。 そして、最後に。 「よくもぉ………!!」 フレイムシューターを真っ二つにしてやった。コイツだけは絶対に許せなかった。 だが、人の倍くらいはあるウータンを輪切りにしていたツルギは耐えられず根本から折れてしまう。だが、そんなことはどうでもいい。 周りの確認もそこそこに急いで駆け寄る。まだ火の手は衰えない。 「いま、いま消します!!」 「ぉぁ…………ぁっ、ぁっぃ…………ぅぁぁぁ、ぁ………」 とはいったものの、出来ることとはマントでバタバタ叩くという古典的な方法しかない。 フレイムシューターの火焔放射器は、液体系のものに火を付けて使うものらしく、燃えるものがなくても火を灯し続けた。 鎖鎧の上から隊長を蒸し焼きにし続けたのである。 *    *    * ……ヒュゥ………ヒュゥ………ッ、ヒュゥ……… すきま風があばら屋を通り抜けるような、そんな嫌な音がしている。 リースヒェン隊長の呼吸の音だ。喉も火傷したらしく、一呼吸ごとに顔をしかめている。 当たり前の呼吸すら苦痛とは、どんな気持ちなのだろうか。 すぐに来るだろうと思っていた救援は来る気配もなく、日は暮れてしまった。 夜になると森は極めて危険だ。はやく同盟ウータンのウンバラへ引き揚げなくてはならないのだが。 「うっ……む、無理、です……あ、足が……あがっ……ぐ………」 「やっぱり駄目ですか……」 左足が完全にひしゃげており、肩を貸しても歩くことは出来ない。 脛当てがアメのようにぐんにゃり曲がり、骨もそれに併せて骨折、一部が肉を破って出ている。 その上に焼けこげているとなると、もう何がなんだかよくわからない。 「ぁ…………ぅぐぅ……………焼ける………あ、つい………………」 全身大やけどで衰弱しきった状態では、森を突破すること自体、不可能だ。なんとか捜索が来るまで ここで耐えなくてはならない。俺はなんとかなるけど、隊長は今にも死にそうである。 一応目立つ広場からは移動して、木の根が複雑に入り組んだ窪地に隠れたが、いつ見つかるか分からない。 12時間0交代の不寝番を、しなくてはならないようだ。 「とりあえず、眠ってください。寝ていれば、きっと痛みからは解放されます、多分。」 「ん………はっ、い…………」 ……ヒュウ………ヒュ、ヒュゥ…………ヒュゥ…………… 一晩中、隊長の静かな悲鳴は消えることがなかった。聞くのは忍びないが、生きているという証でもあるのだ。 月明かりの下で、日記の存在を思い出す。だが、今日の出来事を文字に起こす気にはなれなかった。 朝日と共に目覚めた。絶対に寝るまいと思っていても、戦闘の疲れから居眠りしていたらしい。 隣を見れば、隊長が、昨日と同じ体勢で背中を丸めて横たわっている。 なんでも背中をひどくやられていて、そこを下に眠れないという。 「あの………なんでしょう、おはようございます。えっと、気分とかは……?」 我ながらアホな質問をしている。悪化こそすれ、治療無しでは良くなるはずがないのに。 「はっ……はっ……痛い、のと……か――か、ゆい、かゆいです……。とても……」 首を少しだけ起こして、応えてくる。意識ははっきりしているようだが、逆にそれは辛いかもしれない。 こちらを向く顔も凄まじい状態だ。右反面は焼き切られて、生の肉と、かさぶたと、焦げ目が入り交じった 赤茶色をしている。右目は黄ばんできっと、何も映していないだろう。とっさに防いだ左側だけが かろうじて端正な素顔を残していた。だが、打ち倒され、炙られた今では本来の強い意志を感じさせる目ではなく。 死んだ魚のような疲れ切った、ただそれだけの目があった。流れるような長髪も、焦がされて見るかげもない。 「か、かゆい………からだ、じゅう……うぁぁっ………いやぁっ…………」 「えっ、ど、どうしたら……」 唯一動く、左手で身体をかきむしろうとするが、真っ黒に焼けこげた鎖鎧がそれを阻んでいた。 それでも掻こうとして、爪を立て、指を痛める。 「駄目です、我慢してください!日が昇りましたから、すぐに捜索がきますから!」 「………そ、そんな………でも、これは駄、目………本当に、ひぐっ………かゆい、かゆ、いっ……!」 どれだけおさえても、身体を引っ掻こうとする。指の爪は一部剥がれ、血が出てきていた。 ひっかいても傷口に良いわけがない。しかしずっとおさえているわけにも行かない。 仕方なく。 「あっ……や、これ、は」 左手にマントの一部を破いてぐるぐる巻き付けたのだ。右手は動かないから取り外すことは出来ない。 うー、うーといいながら小刻みに身体を震わせている。痛みは耐えられよう、しかし痒さには しかもそれをどうすることも出来ないもどかしさには耐えられまい。身体をよじりながら悶える 姿は見るに堪えず、水と助けを求めに行くと言ってそこを外した。 近くの泉から水を水筒にすくう。彼女は喉を潰して、唯一の慰めは水を飲むことだった。 飲んでもすぐに吐いてしまうが、それでも飲み続けた。飲んでは咳き込み、飲んでは戻した。 「ごほっ、ゲホッ、こほっ――んっ……んっ………ん!、かはっ、げほ――ッ」 「………」 泉へ行くときに周りを窺ったが、ウータンだらけだ。割合近くの泉に行くときでさえ慎重を期さなくてはならない。 剣はもう無い。護身の短剣では流石に勝てる気がしない。一か八か短剣のみでウンバラまで抜けようかと考えたが、 「お願い、します……はっ……置いて、いかないで……ヒュッ……置いて………」 こう懇願されてはどうしようもないではないか。 水くみに行く20分でも不安でたまらないそうだ。何も出来ない、虫の息の状態でここに放置されては誰でも不安になろう。 こうなっては、捜索が来るのを待つしかない。それにしても、連中は何をやっているんだ。 何故来ない!明らかにおかしいではないか……。 *    *    * ついにウンバラで孤立してから夜を再度明かすことになってしまった。 今すぐにでも死んでしまいそうだが、なんとか水だけでまる一昼夜耐え抜いた。 表面を焼かれはしたが、創傷などで内臓を傷つけられたわけではないので、なんとか持っているのかもしれない。しかし、 それでも衰弱は限界に近いところまで来ている。大聖堂の秘術でもない限り回復は見込めない傷を負ったのだ。 ポーションもいくらか持っているが、飲めないようでは用をなさない。出来ることは元気づけることぐらいだ。 「……なんだ、か。養われて、いる、ろ……老人に、なった気分で、す………」 「そんな、恋人時代や、新婚時代をスキップしてですか。ちょっと飛ばしすぎですよ。」 「――そう、ですよ、ね……?は、ははっ……うっ………」 力無く笑う。しかし、また絶えず襲う痒さの波に堪え忍ぶ顔に戻ってしまう。 昨日はまだ、ぐるぐる巻きにされた左手で患部を擦ったりしていたが、その力も失われたようだ。 ときおり痙攣したように身体を震わせるが、それ以外は殆ど動かない。 「んっ――ま、まただ……何か、動いて……」 正午頃、身体の変調を訴えだした。何か、虫のようなものが鎧の下、お腹の辺りを蠢いているというのだ。 まさか、ようなもの、ではなく『そのもの』なのではないか。 「調べてみますので、極めて失礼ながら、その……」 頷いた。極めてひどい状態にある身体を晒すことに、恥じ入らないわけがない。 だが、それを表情で訴えることさえも焼けこげた火傷が許さなかった。 鎖帷子のスカートをお腹までまくし上げる。そのとき。 「っ!いッ、いったぁっ――痛い、ひっ……うぐぅっ……!」 鎖が皮膚にくっついていて、持ちあげたときに皮膚を引っ剥がしたのだ。 鎖鎧全体が大きな焼きごてになったかたちとなっている。 これは後で脱がされるときに、全身の皮膚を剥がれるような気持ちになるだろう。 「あ、すみません!……しかし、これは……」 歯を食いしばって悲鳴と、恥辱に耐えている。鎧の下だから、素肌を直接焼かれた太股にくらべればマシかと思ったが。 「ひどい……」 潰れた水ぶくれ。流れ出した皮膚。とろけたチーズのような皮下組織……。そして、黒々とした火傷の跡。 ところどころに雪のような素肌が残っているが、腹部全体を焼け、ただれた皮膚だったものがほぼ全体を覆っていた。 「―――っ!」 そして。そこには、小指大の白い蛆が、数は少ないものの、彼女の肉を食いつまんでいた。 すぐさま自分の手甲を外して、虫をつまみ出す。つまんでは潰した。よりにもよって、 まだ生きている隊長に取り付くことはないじゃないか! こんな小さい虫さえも、一人ではどうすることも出来ないとは、さぞかし無念だろう。 「……うぅっ…………なんで、こんな……………っ…………」 小さいなりに爪を持っていて肉を少しずつ持っていく。しかし感覚はもうほとんど無いみたいで、気にした様子はない。 それよりもこの耐え難い辱めに、心までは負けないようにする事で精一杯のようだ。 「多分、これで全部だと思います、が。あとおかしな所はないですか?」 「…………」 「あ、あの?」 端から見たら、十人が十人俺が、隊長に乱暴しているように見えるだろう。 潰された右の肩当ても外して、はだけさせたり。その、見ないようにしているとはいえ スカートをたくし上げて、体中をまさぐっているのは事実である。急いだが思いのほか数がいて 始末に悪かった。胸の方は大丈夫だと言われたので、完全に鎧を脱がせる必要はなかったのだが…。 「もう大丈夫なようでしたら、着衣を整えますけど。今、この瞬間にも救助が来るかもしれないんですし。」 ふるふる 俺と目を合わせず、苦しそうに首を横に振った。左目尻には大粒の涙が溜まっている。 まだいるらしい。既に、その、下半身を晒すというこの上なく恥ずかしいコトをさせているが、それ以上の部分が? 「このままというわけには、行きません。言って頂かないと」 「……………な、なか…………で…………動いて……………………」 ふらふらと左手が彼女の下腹部を指さした。なかって。まさか―― 多分思っていることが俺の顔に出たのだろう。それを読み取った隊長は、ついに耐えきれなくなった。 「うぅ、ぅぅ……………女として、こんな………屈、辱が……ぐすっ……初めてが、こんな………なんて…………  うっ、うぁぁぁぁぁぁ………ぁ………ぁぁ…………」 左手で顔を覆って泣いている。隊長は良家の出身だと言うことも聞いたことがある。 本人がその話を嫌うからあまり知らなかったが、それでもプライドというものがあるだろう。 それが、こんな下っ端に何から何までしてもらわなくてはならなくなった。 そして、自分の、一番大事なところさえ―― 「…………では、失礼、します」 なるべく感情を殺して、迅速に取り出す。これしか彼女の為に出来ることはない。 「………ひっく……ぐす………うぅっ……ぅっ、ぅぁぁぁ、ぅぅ……」 見ないようにしていたが、結局こうなるのか……。意を決してリースヒェン隊長の、女の部分を見る。 太腿は一部炭化するぐらいだが、股ぐらはそうでもない、と思う。しかし、頭髪と同じように陰毛も焼かれ、縮れている。 おそるおそる手を伸ばして、彼女のなかへと指を進める。 ビクンッ 「あっ――」 「す、すぐに………」 幾ら指を入れられているとはいえ、こんな状況じゃ強姦よりタチが悪い。感じる以前の問題だろう。 おそるおそる人差し指を膣内でぐるりと回す。特にそれらしいものは……ある。結構奥まで行ってやがる。 くっそ、逃げるなよ。これは遠慮してやっていては逃げられてしまう。隊長には悪いけど、ちょっとばかり強引にほじる。 「……うぁっ………痛っ………んっ、んんっ―――っ!」 少しでも奥へ指を立てようと荒々しく突き立てる。その度に嫌悪の呻き声を洩らす。 リースヒェン隊長の名誉のためにも、艶やかさがその中に含まれていたとは思いたくない。 よしっ。上手いこと捕らえた。そのまま指を鉤型にして引きずり出す。外の虫と同じだ。やってくれるぜ……。 そのまま指で潰す。こわばっていた隊長の身体から力が抜けた。 「終わりました。今、鎧を整えますね。」 「うっ……ひっく…………」 隊長の装備を調える。いつ救助が来てもいいようにしなくてはならない。 右肩は……どうしようもない。血が通っていないから、既に壊疽が始まっている。肩から下がだんだん腐っているのだ。 切断も考えなくてはならないか。 それから夕方までそれこそ呼吸の音がしなければ死んだように横たわったままだった。 よほどショックで、堪えたのだろう。だが日が沈む頃には少しは落ち着いたと見え、ぽつぽつと会話があった。 「……ごめ、なさい………」 そんな涙で目を腫らした顔で言われたら、本当に咎があっても怒ることはできないだろう。 「いえ、気にしないで下さい。」 「………辛いのは、私、だけじゃない………のに……うっ……」 身体を少しずつ起こして、俺の目を見てくる。右目は何も見えていないそうなので、俺が瞼を閉じさせた。 「いえ、隊長の方が何百倍も辛いはずですよ、自分は五体満足ですし、怪我もたいしたこと無いですから。」 少し間があってから、 「あの、……いいでしょう、か」 改まってなんだろう。こちらもしっかりと隊長を見つめ返す。 「名前で、呼んでくれ、ますか?その「隊長」じゃ、なくて……」 えっ……それって、どういう。いや、しかし、ナイチンゲール症候群の事あるし、自信過剰はよくないぞ。 「駄目、でしょうか……」 「いえそんなことは、………リ、リースヒェンさん」 理由がなんであれ、今、彼女が望むことで俺ができることをやらない理由はないのだ。 そう言って布を解いて左手を取る。向こうからも少しだが、きっと精一杯で握り替えしてきた。焼かれてから今まで苦痛と憔悴しか 浮かべなかった顔が、少しほころんだ気がした。 ……ヒュゥ………ヒュゥ………ヒュゥ……… その夜、よくわからないが、不寝番をリースヒェン隊長がやると言って聞かない。 身体に障ると何度も言ったのだが、そこを頼み込んできた。 「では、私は寝てしまっていいんですか?しかしやはり夜通しはそのお体には……」 「いいです、昼間、寝ていましたから。大丈夫、です。何かあったらすぐに、起こしますから。」 「……リースヒェンさんが、そこまでおっしゃるなら、お言葉に甘えます。では、失礼して。」 「「おやすみなさい」」 声が重なった。お互いに微笑する。こんな事は作戦前は考えられなかったなぁ。 身体を横にしてみると、口ではああいったが疲れが溜まっていたようで、すぐに深い眠りに落ちていった。 捜索隊は来ない。もう、これは確信になりつつある。そして今まで偶然なのかここはウータンに襲われなかった。 明日は同盟ウータンの集落まで走――る、か――― *    *    * 次の朝、目を覚ますと、何か違う。静かだ。いや、森特有の鳥のさえずりや木の葉の擦れる音はするのだが。 リースヒェン隊長は身体を起こして外を眺めている。本当に不寝番を続けていたみたいだ。静か、静か…… 『……ヒュゥ………ヒュゥ………ッ、ヒュゥ………』 呼吸の音が、聞こえない!? 「リースヒェン隊長?………隊長!?」 揺さぶってみると、もう息をしておらず、鼓動無かった。既に冷たくなっている。急いで全身を確認。喉が腫れている。 「こ、れは……」 フレイムシューターに火炙りにされたときに、喉にもひどい火傷を負った。それによって呼吸も一苦労するように。 そして、それが進行して完全に、気道を、ふさいだ? 頭を思いっきり殴られたような、そんな絶望感が体中を覆った。後悔、悲哀、悔恨……様々な感情が吹き出してくる。 訳も分からず隊長のなきがらを抱きしめた。 パサッ 「?」 左手から、何か落ちだ。俺の日記帳だ。なぜ、自分の日記帳が隊長の手に? そうおもって雑嚢を調べるとインクと、ペンも消えていた。 周りを探すと、それらはすぐにあった。地面がかたく、月明かりがよく入る所に置いてある。 急いで開いてページをめくる。そしてそれは見つかった。俺が宿営地でつけた最後のページ隣に。 date:最期の日  私が左利きであったことにこれほど幸運を感じた瞬間はありません。  一瞬の隙と慢心から致命傷を負ってしまい、部下であるマウロ君には筆舌に尽くしがたい 苦労と手間をかけさせました。重度の熱傷で身体は苦痛と、耐え難い痒さを私に与えるだけ のものとなりました。     そんな何もできない私に、危険を顧みず付きっきりで看護してくれた彼には、本当に申し 訳ないと思いつつ、全ての行動に私への思いやりと、優しさがあり、それがとても身にしみ ました。そしてこれらの優しさが、決して負傷してからのものではなく、随分前から向けら れていたことに驚き、それに気がつけなかった自分を大いに呪いました。  神の慈悲というものがあるのなら、私とマウロ君が一緒に笑いあっている、そんな夢を最 後に見せてほしい。最初で、最後の願いです。 FIN 〜後書き〜 グRO妄想スレッド長しといえど、焼死ネタは無かったはず。ということでヤってみました。 どーだったでしょうか?