「俺たちが最後なんだぞ!?なんとしても撃退しろ!」 行く手を遮るクルセイダーが叫ぶ。ここまで来るのに随分こっちもやられたが、もう大勢は決した。 さっきからこんな戦闘ばかりだ。こちらのパーティーに対して、落伍したり、他の隊と合流しようとする連中を嬲り殺す。 名にし負う修道騎士とは言え、数の威力には打ち勝てないと言うことか。 「おい!セシール、どうした、返事を……」 そう言って騎士が振り返る先には、巨大な石柱。それに身体を完全に貫かれて、四肢を力無く垂らして息絶えているのが 同僚と理解するまでに数秒かかったようだ。セシールと呼ばれた女クルセは、唇の端から一筋の血を流し、 目は大きく見開かれたままになっていた。そして、股ぐらから突き上げたアーススパイクは、 へその辺りを破って真っ赤に染まった先端を覗かせている。握られていた剣が手から離れ、石畳を叩いた。 「くっ…!貴様らぁ……!うおぁあぁあぁぁあぁ!」 剣術では右に出る者の無い騎士と正面からやり合う気は無い。注意を惹くだけ惹いてクラウンに殺らせる。 自慢のレイピアが振るわれる前にこの騎士も蜂の巣にされた。弾幕に晒され、ガクガクと奇妙な揺れ方をした後、 断末魔をあげることもなくその場に倒れ臥す。その死体は針山のようだ。 「ひゅ〜♪いつ見てもアローバルカンは凄いねぇ。10…15…数え切れねぇや。」 「気を抜くんじゃないぞ。この扉の奥に何が居るかわかんないんだ。バカが。」 うちの隊長に怒られた。自分の古巣を襲ってるのにいつもと変わらず沈着冷静でいらっしゃる。 黒の僧衣に担いだ大メイス、"グランドクロス"が不釣り合いだ。アレで何人の聖者を挽肉にしたことだろう。 さて、目の前の扉だが。ここは事前の情報では、それなりの広さを持つ広間になっている。大聖堂で戴冠式が行われたりするときに 武装の騎士、兵士の待機所として使われることもあるらしいが、今はどうなっているのか。 「よし、ドク、お前が開けろ。他は突入待機。」 しゃあねぇ、と、取っ手に手を掛け思い切り開け放つ。 バンッ! そこには人が充満していた。だが、完全武装して出撃を待つ精兵ではなく、血を流し、息絶え絶えの負傷者達が。 どうも救護所のようらしい。プリーストや医者がこちらに絶望の眼差しを向けてくる。残念だったなぁ。 「うぁ……痛ぃ………腕が、うでがぁぁっ!」 床に寝かされたアーチャーが叫ぶ。腕って、おさえている右腕は肘から下が無いじゃないか。まったく何を言っているんだか。 まぁいい。クライアントからの指示は撤退命令が出るまで片っ端から殺せ、だ。こいつらも楽に……。 「待って下さい。この方達に戦う力は残されていません。」 「あぁ?」 「どうか……お見逃し下さい。」 目の前に大きく手を広げて俺らの行き先を塞いでいる。青毛でセミロングの女プリースト。 その双眸には強い意志が宿り、侵入を拒んでいる。優しいけど気の強い女。好みだねぇ……。こういう娼婦には 絶対いない女をヒィヒィ言わすのがいいんだよなぁ。ちょっと相手をしてやるか。 「それでも……通るって言ったら、どうするよ?俺らといっちょ剣を交えるってか?」 「医療に従事する者は武器を携えません。それに私たちは、敵味方の区別無く手当をしているのです。  負傷した人を助けて、健常な人を傷つける道理があるでしょうか?」 あくまで、武器は使わず引き取って貰おうってか。俺たちが騎士だったら通じたかもしれないが、考えが甘かったな。 それにこっちはガキじゃねぇんだ。睨み付けられても何ともないぜ。 一歩踏み込む。ほぉ…俺のコワードを突き付けても全く動じないってか。コイツは本物だな。じゃ、これはどうだ! ズシャッ! 「くぁっ……!」 「へっへっへっ……通せん坊し続けると痛い目見るぞぉ?」 右腕を切りつけると痛みに顔を歪めるが、開いた腕はそのまま。一歩も下がらない。その顔、たまんねぇ。 「そりゃっ!そりゃぁっ!」 「っはぁっ、っくぅっ!」 今度は左肩を突き刺す。すぐに引き抜いて今度は脚を縦に切り開く。斬る度に声を洩らすが、そのまま踏みとどまっている。 こいつ……やるじゃねぇか。 「こうやってどかすんだよ。」 ゴスッ  ドッシャァァ! 目の前からシスターが消えた。左に首を回して見てみると、ぶっ飛ばされて腹を押さえながら呻いている。 「あっ……かはっ……ごほっ、ごほっ……あ……ぐ、ぐっ……ぅ…」 隊長がグランドクロスでぶっ飛ばした。甲冑着込んだ騎士相手でも致命傷を食らわすあいつをモロで受けたんだ。 口から血をたくさん吐いている。腹の中はぐしゃぐしゃだろうよ。おーおー、顔に赤い痣を作って涙を流してるぜ。 それでも、なんとか立ち上がろうとするが、身体が言うことをきかないようだ。手をついて何とか起こそうとするも叶わない。 石畳に立てた爪が無念さを表している。そこへ隊長がつかつかと歩いて行く。 「この人……達、には……ごほっ…手を」 破砕音がして、声が止まった。大きな十字架がシスター様の頭を砕いている。青髪が血と共に地面に広がって行く。 同じプリーストなのに容赦がないぜ。全く。おれ、修道騎士団が雇った方の傭兵隊じゃなくて本当に良かったよ。 その潰れた頭にツバを吐きかけた後、隊のアルケミストに毒殺するように命じた。 「一人一人斬るのは面倒だ。そろそろ撤退合図もあるかもしれん。ガスを発生させろ。」 「でも、アタシらの兵隊もいるんでしょ?いいのかい?」 「廃兵なんぞ、いらん。」 「ハイハイ、じゃ、バカ、アンタも下がりなさい。一緒に死ぬわよ。」 バカじゃねぇ。俺はシーフの中のシーフ、ドクだ。……突っかかっても仕方がない。救護所を見回して帰るとするか。 お、アコライトと気の弱そうなプリが抱き合ってるぜ。眼福眼福。ああいうのもいいなぁ。 『はらはらと涙を流して、迫る最期の時を待つ……』ってか。 そろそろ準備が終わる。アレは目も潰す強力な奴だ。しかも無風の室内。これは地獄だね。 俺が部屋から出た後で、二、三のボトルが割れる音がして同時に黄色い霧と叫び声、咳き込むが一斉に上がった。 さてさて、制限時間いっぱい暴れ回るとするか。 ========================================================= 策謀の手のひら5と6の間に収まっていたエピソードです。毒ガス発生の理由として挿入しようと思いましたが テンポや、キャラが増えるetcでカットしました。でも、話は好きなので外伝ならいいかな、と。