〜策謀の手のひら5〜 いつもは訪れる人も少ない王都から外れた衛星都市。それも深夜ともなれば見かけるのは 夜警か物の怪ぐらいである。だが、今宵は違った。荷物の輸送に扮した傭兵部隊が王立防疫研究所を着々と包囲する。 この異様を誰何する騎士団所属の衛兵はどこにも見あたらなかった。兵達は音も無く馬車から降り、 包囲の輪が閉じたところで扉を蹴り開けた。 「な、何だね、君たちは!ここが王国の研究施設だと」 「誰もアンタの意見が聞きたいわけではない。貴様らは秩序安寧を脅かす重罪の嫌疑が掛けられている。」 抗議するアルケミストに部隊の長らしい剣士がシミターを突きつけ制する。 次々に石弓で武装したアーチャーやシーフ、ハンターが入って列を組み、それぞれ狙いを付ける。 研究所側も、長らく武器を取っていないとは言え、一流だ。強酸入りの瓶を油断無く握る者もいれば、 ホムンクルスの召喚態勢をとる者もいる。一触即発。その中を悠然と一人のプロフェッサーが歩み出た。 「これはこれは、穏やかでは無いですな……。王国臣民の為に薬学や疾病を研究している等機関に  『秩序安寧を脅かす重罪』とは。とにもかくにも、飛び道具を突きつけられては話せるものも話せませんなぁ。」 余裕綽々に見えるヴラドレンも心は穏やかではなかった。見た目は傭兵隊だがこの水際だった展開は確実に私兵だ。 相当有力貴族がバックについていると見える。笑みを浮かべる所長に対し、剣士はあくまで仏頂面だ。 「こちらで研究結果を押収させて頂く。そちらが協力的に行えば万事問題は無い。だが……」 「わかったわかった……。そんな物騒なものを見せんでも包み隠さず開示させて頂きますよ。おい、  資料室の鍵を持ってこい。我々が潔白であることを証明してやれ。」 一人のアルケミストに書庫の鍵を取りに行かせた。先ほどまでの緊張が一瞬薄れる。そこに ズドンッ! にらみ合っていた研究員の一人が脳漿をぶちまけながらよろける。後ろに倒れ込み、薬品の乗った試験台を 倒しながら盛大に転倒した。指弾――。お互いの陣営が理解した瞬間、研究所は戦場と化した。 「誰が攻撃しろと……!」 傭兵隊長の怒声もすぐに掻き消される。盛大に投げつけられる塩酸瓶、斉射される太矢。 隠れていた研究所用心棒も飛び出して白兵戦が展開される。 「!!、下がれ!マリンスフィアが来るっ……」 「でありぁああぁあぁぁぁあぁ!」 大きな火柱が上がり、赤い血潮を巻き知らして傭兵が吹っ飛ぶ。リヒタルゼンの生体工学研究所と変わらぬ 光景がそこに現れた。 同刻、大聖堂側廊。 「正面への増派はまだか!?」「アルニム隊、配置につきました!」 鐘を叩く音と、慌ただしい人の動き、それと戦いの音で目が覚めた。駆け足で外を騎士達が走り回っている。 3人も起きているみたいだ。みんな落ち着かない顔をしている。何が、起きているんだろう。 「侍祭様ぁ…。」 「大丈夫、ここは大聖堂なんです…。騎士様も、魔法使いも、いっぱいいっぱい居るんです。大丈夫……」 自分に言い聞かせるように励ます。そもそも大聖堂での戦闘自体がおかしい。戦争をしている訳でもないのに。 震える孤児達を抱きしめて、少しでも恐怖から逃れようとする。 そうしていると、乱暴に扉が開かれる。反射的にそっちを向くと、肩で息をしたセレステさんがいた。 こんな真剣な目をした彼女は見たことがない。 「みんなは大丈夫!?」 「えっ……あ、はいっ。で、でも、何があったんですか!」 「……賊が侵入したの。これを。」 賊って。そんな、馬鹿な。そう言って投げよこされたのはチェインだ。でも、こんなの使ったことがない。 4人の恐怖はつもってゆくばかりだ。遠くでは斬り結ぶ音と、怒声が聞こえてくる。 そんな僕たちの表情を見て取ったのか、セレステさんは優しい笑顔を浮かべて、 「絶対大丈夫。私たちが守る。必ず――」 その後ろにアサシンが音もなく現れて――! 「あっ!」 「!!」 ズシャァッ! 目にもとまらぬ速さで振り向きざまに抜き打ちで……斬り倒した。その後何事もなかったかのように 振り返る。返り血を浴びていたけど、禍々しさは感じられない。純粋な強い意志だけが伝わってくる。 「必ず、守るから。コルネリアの為にも。あなた達には指一本触れさせない。少しの間、我慢できるね?」 みんなで頷くとよしっ、と言って頭を撫でてくれた。やっぱり、セレステさんは弱くなんか無い。 「もう前線と後方の区別なんて無い!各々はダンジョンにいるつもりで行動して!」 「はっ!」 セレステさんには凛々しく命令すると、扉を閉めた。僕にもあのくらいの力があれば、シスターを守れたのかな……。 「うぁ……あ……た、隊長ォ!アイツ、アイツはッ……!」 あり得ない。こんな莫迦な事があって良いのか。そもそも、信じられない。あれが、同じ人間、なのか? 月明かりが雲に遮られながらも照らす大聖堂正面の広場。そこに浮かび上がるのは鉄仮面を被った、ブラックスミス。 いや、最早ブラッディマーダーとでも呼んだ方が正確だろう。 既に修道騎士団の精鋭と倍給傭兵の併せて8人があの凶刃の餌食となった。禍々しい剣からはたった今屠った 騎士の血が滴り落ちている。頭から唐竹割りにしやがった。その剣は兜と頭を砕いただけではなく 鎖帷子を引き裂いて、胴体まで達してやっと止まった。それをずるずると引き抜く。内蔵がからまりついた鉄剣。 全身返り血を浴びた姿……。仮面で中は窺えないがこれは確実に言える。 アイツは笑っている、と。 「クソ野郎!これ以上はやらせねぇ!連携を仕掛けるぞっ!」 「よくも……みんなを……許さない!」 若いチャンピオンが女剣士と女ハンターともに合図して同時攻撃を仕掛ける。 ふた方向から駆け込まれ、弓で狙われるも、あの悪魔は微動だにしない。最初にほぼ同時に放たれた二本の矢が命中する。 続いて完璧なタイミングで右から鉄拳、左から斬撃が叩き込まれる。普通の人間相手なら確実に死んでいるだろう。だが、 「えっ……あ……うぁぁあぁあぁあぁあぁぁ!!」 ブラックスミスの右手がかき消えた直後に、剣士は絶叫しながら転倒する。よほど鋭利な剣なのか、切断された 膝から下の彼女の両足は踏み込んだ体勢で残っていた。そしてチャンピオンの拳は、右手の中にしっかりと捕らえられている。 「なっ、拳が、通用しな………」 丸太のような腕は愕然とするチャンピオンの首を掴み、メキメキと音を立てながら持ちあげる。 苦しみに顔を歪めながら鋭い蹴りを食らわせるが、全く動じる気配はない。ゆっくりと右手に持った剣が向けられ。 「ごふっ…がぁ、やめろ……うげぇぁ、あっ、がっ、うぁぁ……!」 ドン、ドンという音に合わせてチャンピオンの身体がガクガク揺れる。そのたびに腹に剣が埋まっては引き抜かれれる。 足を伝って流れ落ちる鮮血。飛び散る肉片。4度貫いた所で腕が突き抜け、背中から腕が生えた。 興味を失ったかのようにチャンピオンを投げ捨てる。腹を貫かれただけでは死なない。いや、死ねない。 その叫び声が響き渡る。そして両足を失い倒れた女剣士に視線を移せば、 「ぅぁ……来るなぁっ!……嫌っ…来ないでぇっ!」 駄々をこねる子供のように剣を振り回し、一歩一歩近づいてくる敵方の傭兵達を威嚇する。 何とか逃れようと脛しかない足で、血をまき散らし続ける足で必死に後退する。 だが、それも意味を成さない。やがてマーチャントに馬乗りにまたがられ、剣を持った腕を押さえられて スカートの中に、刀が埋め込まれた。 「ひっ、ひぎぃぃやぁあぁぁあぁ……ぁっ……ぉっ……ぅぁっ…」 断末魔をあげる余力すら残されていない。刀が捻られるたびに、淫靡な声を上げるが、それもやがて止まる。 突き刺さった刀はそのままにして立ち上がる。次の狙いは、女ハンターだ。 あれだけいた前衛は、皆殺しにされた。所々で呻いている奴もいるが些細な事だ。 完全に戦意を失った彼女は背を向けて逃げ出すが、それは許されるはずもない。影のようにアサシンが浮かび上がり、 肩口に短剣を突き刺す。あれは心臓にもとどいたな……。押し倒されて、服を、剥がれて……。 何か、人の名前……恋人………? 腰の部分から下のないその騎士はそこで事切れた。 俺は大聖堂左翼側の側廊までなんとか辿り着いた。ここに来るまでに数回浸透してきたアサシンやチェイサーと交戦した。 行く先々に死体が転がっている。特に一線で戦わないプリーストやマジシャンの単独行動が狙われているみたいだ。 それにさっき作戦図で部隊が配置された所を通っても誰とも会わない。すでに予備を置く余裕やが無くなっているのか? 右手にグラディウス。左手にはふくれあがった紙袋。しかし、よく大聖堂で使う気になったもんだ。 「はぁあぁあぁあぁ!」 キィン!ガンッ! おっと、この次の扉が最前線か。やることは簡単だ。ドアをそっと開ける。 中を窺うと、満身創痍のクルセイダー4騎に対して敵兵は14…15人か。しかしまだ増えるだろう。修道騎士のうち一人が ギザルムで武装しているから、それを振り回して敵を寄せ付けないようにするが……時間の問題だ。そして一人が俺を認める。 「ッ!後詰めかっ!?」 「ま、そんな所だ、仲良くやりな!」 そう言って紙袋を思いっきり次の部屋へけり込む。全部は折れないだろうが、これで相当数の古木の枝がバラバラになったはず。 戦っているクルセイダーを助ける気は毛頭無い。そのつもりでガードナーも俺を派遣したはずだ。 スケルプリズナー、インジャスティス、サイドワンダーなどが次々召喚される。なんだアンデッドが多い。皮肉か? 「おっ、な、貴様っ、何を……」 そうこうする間にモンスター共がクルセイダーに、敵のアサシンに、群がり始めた。敵方も思わぬ増援にたじろいでいる。 完全に不意をつかれたクルセイダーが背中からサイドワインダーの集団に絡み付かれるた。 「うわぁっ!、寄るな……離れろぉ、あぁ…あ、ひぃ……、うわぁあぁあぁあぁぁあぁ!」 振り解こうとするも二本の腕だけではとても叶わない。他の騎士も自分のことに精一杯で全く助ける余裕が無い。 次々と甲冑の隙間から忍び込まれ、体中が不自然に蠢いている。鋭い牙で噛み付かれるたびに嗚咽を挙げ、 転げ回る。と、最後に思いついたのかグランドクロスを発動しようとする。それは不都合だ。 「っ!?」 手投げナイフで眉間に一発。即死の筈だ。主戦場に目を向ければ、まずモンスターを潰そうと、 奇妙な共闘関係が結ばれている。ちっ、バカ共め。言ってやらなきゃわかんねぇのか。 「おい、もう左翼に増援は無い。ここの守りがコイツらなんだ。共闘する相方を間違えんな。」 「何ィっ!?……最初からそう言え、このカスがッ!ヴァイツェン!ダリオ!最初のお客さんを叩くぞ!」 モンスターに向かっていた修道騎士が敵兵に斬りかかる。あの指揮官、飲み込みが早いな。助かるぜ。 ダリオと呼ばれた騎士は骸骨に押さえ込まれて奮戦していた敵シーフを袈裟懸けにする。 「ぐぁあぁっ、テメェ!それでも聖騎士かぁっ!」 「さっきまで刃を向けた者のセリフか!魔物に構うな、皆殺しにしろぉっ!」 極めて複雑な三つ巴えが展開される。さて、長居は無用だ。一体のエンシェントワームがコッチに気づいたしな。 ドリルのような牙には人間の破片がこびり付いている。連中も大聖堂で魔物と戦うことは夢にも思わなかっただろう。 最後にこの左翼防衛線に閂を掛けなくてはならない。さっき投げたのとは別の枝を懐から取り出す。 こっちはランダムじゃねぇ。確実に"騎士"の増援が来るようになっている。奈落から這い出てきた漆黒の騎士が。 あった全てを踏み折って引き揚げる。これは10分の時限式だ。ちょうどこっちの騎士が全滅する辺りに湧いてくるだろうよ。 それにしても奇妙な光景だ。ソルジャースケルトンと、クルセイダーが倒れ込んだマジシャンに同時に剣を突き立てるというのは。 じゃ、せいぜい時間稼ぎをしろよ。 とりあえず、片づいた。敵の第三派を何とか凌ぎきったのだ。魔術師中心で編成された一隊は極めて組しづらかった。 乱戦の最中、炎属性を付与された剣で切られた傷がジクジクと痛みを訴える。鎧には右肩口から左脇に掛けて 一文字の切断面がある。火傷は痒くて痛い。今にでも引っ掻きたいが傷を広げるだけだ。我慢、我慢……。 ヒールでどうなるものではない。火傷が広がりすぎた。一時全身に炎が回ったときは、業火に焼かれたような心持ちであった。 「はぁ…はぁ……はぁ……」 「軍旗騎士殿、一旦後退された方が。もう次はお命が……」 そう言って心配してくれる騎士も相当手ひどくやられている。私の隊に配属されたプリーストは、なかなかの武闘派だったが 今はそこ、廊下の外壁にもたれ掛かって息をしていない。死んで尚、その手にはしっかりとメイスが握られている。 「今は、抜けられないよ……。きっと中央でも、うぐぅっ……ぐ、ん…ぐっ……ひぐっ……」 「軍旗騎士殿!?」 無意識に左肩を押さえて座り込む。駄目だ。さっきソウルストライクにやられた激痛が酷すぎる。 やせ我慢にも限度がある。戦っている時は無我夢中で痛みなど感じている暇が無かったが、肩鎧があるとは言え直撃だ。 今はその鎧のプレートが肩にめり込んでいて、絶えず耐えがたい痛みを持続させている。 「うぅっ……もう駄目…。お願い、左の肩当を外して。ちょっとキツいから……」 「今すぐに。サヴェーリ、周りを見張ってくれ。では、失礼して……」 留め金が外され、肩当がそっと取り除かれる。完全に内側にひしゃげた甲冑は取り外されるとき、私の肉を引っ剥がした。 焼けるような痛み。歯を食いしばって悲鳴を堪える。モーニングスターで削られたような感覚。 「〜〜〜〜っ!」 なんとか外れたそこを見ると。掌ほどのくぼみが出来ていた。今まで鎧の死角で見えなかったが、 肉は焼き切られ、赤と肌色の入り交じり、血がにじんで溢れたクレーターから、白いものが覗いている。 日焼けしていない白い自慢の肌に、ぽっかりと赤い穴が空いており、血と爛れた皮膚を垂れ流している。 これって……鎖骨じゃぁ……。あははは、通りで左手が動かなかったんだ……。 ふっと暖かくなる、ヒールを掛けてくれたようだ。だが表面が多少マシになったくらいだ。申し訳ないがクルセイダーの ヒールなど、しかもこれだけ心身共に疲労困憊の状態では効果が薄い。その後に包帯を手早く巻いて貰った。 「ありがと……はぁ……はぁ……」 上がった息がなかなか収まらない。それに心臓の打つ音がやけに大きく感じられる。 包帯からはすぐに血がにじみ出てくるがその内固まる、と思う。左腕は蒼白になった腕に紅の血が幾筋も流れている。文字通り満身創痍。 何度ヴィンセントに頼る事が頭をよぎったことか。彼……じゃなくて彼女か、はアコライトながら良い腕を持っている。 だが、それは出来ない。こんな光景を、見せるわけにはいかない。危険に晒すわけには絶対いかない。これは私の意地だ。 もう無用の長物となったガードを捨てる。こんなに重い楯を装備して、よく左腕が脱落しなかったと感心する。 「とにかく……次来られたら、確実に終わる。ここを3人では無理。後退、しよう…。」 「肩をお貸しします、さっ、どうぞ」 「いいって、自分で歩けるから……。」 本当はここを死守したかった。なぜなら、もうひと区画後退する事は、あの子たちの前で戦うと言うことだから――。 首都警護執務室は、重苦しい雰囲気と苛立ちが立ちこめている。幕僚も参謀も信じ難い情報を受け入れられずにいる。 そのとき、執務室の天井で鳴子が音をたてる。全員に緊張が走る。衛兵が大音声で 「モロク鎮定せる我が隊はッ!」 「……行くところ我が神兵を阻むもの無し……」 符号一致。戦況を天井裏から確認しているガードナーのアサシンだ。一応、安堵する。今日、対アサシン戦術講義をした彼女である。 だが彼女が来て更新される情報は常に悪化している。全員の顔は冷や汗が浮かんでいる。既に最悪の戦況がどう悪くなるのかと。 無言のまま、全員が囲み、様々な書き込みのされた見取り図に歩み寄る。 「で、最新の様子は。」 当初は余裕の笑みすら浮かべていたガードナーも真剣そのものである。彼は有りとあらゆる手段を使った。 古木の枝を皮切りに地下に待機していたBOT部隊も中央戦線に投入。幕僚からも陣頭指揮に行かせた。 そしてその一人たりとも帰ってこなかった。 「……」 アサシンの手が動いた。中央戦線にあった青い駒が3つ、赤が4つ彼女の手によって地面に落とされた。 「なっ……!何かの間違いだっ。守将アウグストは戦役を生き残った歴戦の勇士だぞっ!?」 「静粛に。情報に文句を付けても始まりません。続けろ。」 彼女はあくまで淡々と木箱に収めてあった赤い駒を6つ取り出して、それを随所に配置してゆく。 この期に及んで敵の後詰め。全員が声を失う。ガードナーも血管が浮き出るほど組んだ手を握りしめる。 「……っ。」 その後、微調整を始める。青い駒が全体的に押し込められるようにこの執務室に向かって後退し、赤の駒がそれを追撃する。 左翼には未だ白の駒……モンスターが健在。こちらからの突破はどうも諦めたようだ。 右翼のセレステ隊も奮戦しているが、退く一方である。 「プロンテラ騎士団はなぜ動かない!この喧騒が届かぬとでも抜かす積もりか!」 プロンテラ騎士団は全く動いていない。これは気づいていないのでない。確実にそうである。 それであるならば、 「王国の大権か、兵部卿の特命で出動が停止されている、と見るべきです。」 「ガードナー府長、それはどういう!?」 口々に幹部はそういうものの、心のどこかでその可能性は考えていたのだろう。驚きというより諦めに近い顔をしている。 「問題は原因ではなく、結果です。ここを切り抜けなくては何も始まらない。」 そうは言うものの、動かせる手駒は全くない。予備はとっくの昔にそれぞれ振り分けられた。 地図を睨んで、瞬きしても味方の駒は増えない。もはや戦略というものが消滅しつつある。それを象徴するように 「ガードナー府長、私の部下は殆ど逝きました。私とて傭兵の端くれ。彼らだけに戦わせるわけには参りません。」 ツヴァイハンダーを担いだ傭兵隊長がガードナーの方へ向く。 純粋な傭兵部隊を示す緑の駒は先刻全て落ちたのだ。それを黙ってガードナーは聞く。 「既にここからどうにか出来る状況では無い。……儲けましたな将軍方。俸給を受け取る雇い兵が全滅するのですから。」 「……許可する。武運を。」 「では、一矢報いてみせる。赤い駒2つくらいは道連れにして見せよう。」 颯爽と従卒を連れて傭兵騎士は執務室を後にした。そして、報告は終わったとばかりにアサシンも天井へ戻って行く。 残されたのは、何も出来ない指揮官と、出す命令のない伝令だけだ。そして誰も口を開かない。そうしたまま時が流れた。 ギィィィッ 今一度、執務室の扉が軋みを挙げて開かれる。番兵の取り次ぎは無かった。傭兵隊長が忘れ物でもしたのだろうか。 数人が扉の方を力無く見やり。そこに立った男を認め 「きっ、貴様、何者だ!」 「…………」 私は立ち上がって伝令騎に倒すように命じる。ついに司令部にまで敵が来るようになったのか。 だが、たった独り、倒せぬ事は無い筈だ。老いたとはいえ騎士の称号を持つ幕僚も自慢の宝剣を抜き放ち構える。 だが、何だ。この感じたことのない殺気と、逃れられぬ恐怖は―― ========================================================== 激しい戦闘の情景が多少は伝わったでしょうか?皆様の想像力で補って頂けると幸いです。 場面が変わりすぎて読みにくいかなぁ…。