グラストヘイム騎士団。 その場所に、アサシンとローグの2人組が入っていった。 「ナリィ、危ないと思ったらすぐに蝿で逃げよう。 その後合流、いいね?」 茶髪のローグが言った。 ナリィと呼ばれた方がアサシンである。長い、紅色の髪をしている。 ナリィは女性ではあるが、ローグのアウエルマンは彼女の判断力と、相手の弱点を一瞬で見抜く力を高く評価している。 その能力は、女性の非力さを補うには十分と自他共に思える程だった。 ナリィはアウエルマンの言葉に頷いて見せる。 すぐに、アウエルマン達の前にレイドリックが姿を見せた。 彼等に気付き、ナリィに向かって走り出す。 ナリィとの距離が1m程になると、レイドリックは大剣を一瞬で振り上げ、 ナリィがいると思っているであろう場所に向かって振り下ろす。 石床が砕ける音。 小さな音と共に、レイドリックが横に身体を崩しかける。 大剣が垂直に上がった時に既にレイドリックの横に回った、ナリィの蹴り。 そして、そのレイドリックに合わせ、後ろに回っているアウエルマンが胸当てと兜の間を強く短剣で突き刺す。 否、突き飛ばす。 レイドリックの兜が胸当てから離れ、兜が床に落ちる。 それに続き、鎧の全てが床に落ちてゆく。 それを見たナリィとアウエルマンは顔を合わせ、無表情で頷く。 もう動かないだろう、のサインだ。 アウエルマン達に襲い掛かるモンスターの大部分はその手法で処理されていった。 ライドワードはナリィの蹴りがカタールによる縦斬りに変化する、と言ったところである。 その場合、他のレイドリック・アーチャーと比べ、相手のバランスの崩し方が大きく違うが、 アウエルマンは難なく当てていく。 カーリッツバーグの場合は、ナリィとアウエルマンで共に関節と思われる部分を叩き斬り続け、 相手の動きが遅くなった、とアウエルマンが判断した時にレイドリックのように兜と胸当ての間を突き飛ばす。 レイドリックよりもずっと面倒だ、とナリィは思う。 モンスターを処理しながら歩いている時、馬の猛々しい鳴き声が聞こえた。 「どうする?」 そう尋ねたのはナリィである。 「姿を消して行ってみるか・・・。」 気だるそうにアウエルマンが言う。彼は続けて逆に訊いた。 「アーチャーがいたら飛ぶ?」 ナリィは横に首を振った。 「素早くアーチャーを倒してから、もう1度消えて、考えましょう。」 その言葉に、心配そうにアウエルマンが溜息を漏らす。 そして、2人は姿を消した。 鳴き声の主が、上にその巨大な身体に相応しい、大きな騎士乗せていた。 2mはありそうな、大剣を持っている。 姿を消しているナリィとアウエルマンは、レイドリックアーチャーがいない事に安心する。 姿を消したまま、ナリィが深淵の騎士に近付く。 大剣の間合いに入らない、ぎりぎりの位置だ。 「私がこのまま姿を見せるから、アウエルマンは後ろに回って、馬の片足を斬る・・・切断して。」 やめろ、と言おうとしたが、既にナリィが姿を見せていた。 決してミスをするな! 凄まじい大剣の速さに、ナリィは驚く。 隙はない。 (どうにかして、騎士に飛びかかれれば、そのまま殺せるかねぇ) と、ナリィは思った。 しかし、飛びかかる前に、大剣に斬り落とされるのは目に見えている。 その時、騎士諸共馬の身体が崩れる。 ナリィに向かって馬の足が飛んで来た。 アウエルマンが足を切ったのだ。 即座に騎士が後ろを向く。 否、その前に既に大剣がアウエルマンを横から斬るように振り回される。 避けきれない。 バックラーを構えろ! 隙だらけよ・・・。 金属がぶつかり合う、高い音。 そして、崩れた為、低い位置に来た騎士の頭を後ろからナリィのカタールが貫く。 そのままカタールを振り切り、騎士の顔を断った。 アウエルマンは、バックラーで受けたものの、大きく吹っ飛び、倒れる。 その時バックラーは既にアウエルマンの手から離れていた。 「何とか倒せたねぇ。」 ナリィがそう言い、続ける。 「カーリッツバーグを召喚されないで良かったよ、本当。」 身体が動かない。 終わったな・・・。 肉が潰れる音。 その音のした方をナリィは見る。 音が繰り返される。 血が舞っている。 痛み。 背中から矢が飛んで来た。 腹部と右胸を貫く、2本の矢。 いかなる魔法・技術を用いても、もう繋がらないだろう、アウエルマンの身体。 否、肉片。 ナリィは2体のレイドリックアーチャーに向かって走る。 視認出来る。なら、避けるのは容易い。 蛇行して走り、そのまま飛び蹴りを浴びせる。 倒れたレイドリックアーチャーに馬乗りし、首と思われる部分を、斬り着ける。 今度は左肩を1本の矢が貫く。 止まらない肉の音。 もうやめて! 立ち上がり、鎧を8回突き刺す。 もう十分だ。 大剣を振り続けるレイドリックに向かう。 また飛び蹴りを浴びせる。 腕、足、首、関節らしい部分を何度も斬り、突いた。 終れ。 アウエルマンを見た。 酷い姿だ。 涙が零れる。 全てが真っ赤になっていて、もう表皮なのか、肉なのかも判らない。 眼球も見つからない。 私も終わろう・・・。 何となく、カタールの刃をアウエルマンの血に浸す。 そして、その刃で自分の首を切った。 ナリィの身体が、首が、アウエルマンの肉片に落ちる。 何処までも落ちていきたい。 もう二度と、上がるのないように。