>>787様気付いてくれた上、アドレスまで貼って下さって感謝感激であります。
しかし最初の“h”を抜いた方が、スレに負担がかからないので良いかもしれませんね。
「串刺し」の名の通り、自分はプロキシ刺しててスレに直接かき込めません。
なので787様のように、代わりにサルベージしてうpして下さると本当助かります。

>>789様。
偉大で慈悲深く、大金持ちの(ryキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!
しかもクルセ子キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!
なんてか、もう、ツボ抑えまくりですね。
盾とか剣とか、そういう小物が空しく叩き折られて、その様を「え…」てな呆然とした表情で見つめながら絶命…芸術です。
そして素晴らしいSS、なんか続きが早く読みたくてしかたありませんぬ。



三部作、これで完結です。
めっちゃ長くなってしまった。
        砂に埋もれた鈍色

フェダーイーの頂点であるクロス。その候補者であった“先生”の死は、少なからずアサシン暗殺教団の“長老組”と呼ばれる神官たちを動揺させた。
先生がクロスに至る為に生贄として選んだ、彼女の教え子である2人は、しかし生贄の羊が狼を噛み殺すが如く、絶望的な状況を打開し、彼ら自ら師範である先生を葬るに至った。
本来ありえぬ状況下、長老組は生き残った二人の処理を考慮した末、先生の死亡から二日後、彼らを正式にフェダーイーとして認める決断に至る。
生き残った二人からしてみれば、重要な戦力たるクロスを殺めたのだから、教団から命を狙われ、追われる覚悟を決めていただけに、その報告は至極意外であると言えた。
しかし、アサシン暗殺教団において“信仰、力、正義”とは同義であり、彼らの活動の動機であるから、教団が2人の能力を認め戦力として採用するのも、その性質からして見て当然の事だった。

そして、生き残った二人は…

 「………コッチは配備終了だ…大将?」
 「何だ」
 「久々のプロンテラだ。終わったら飲み行こうや…」

血生臭くも強情に、そして強かに生き抜いていた。




ミッドガルド王国の首都、プロンテラの裏通りは治安が悪く、夜ともなればそんな場所を出歩く者は疎らで
そこに店を構える汚らしい酒場は、その外装内装共に汚らしい事が当然であるように、何故今まで潰れずに残っているのか分からぬ程の客足であった。

 「この店、まだ残ってたんだな」
 「はっ、汚ぇだけあって、しぶとさもゴキブリ並さ」
一仕事終えた2人…アサシン暗殺教団のフェダーイーを意味する、クローキングスーツと呼ばれる黒装束に身を包んだ大将と帽子の男は
数年ぶりに訪れたこの酒場を、やや無礼な態度で表現するが、この世の中の最低辺に位置するこの酒場においては、それさえ褒め言葉であった。
数少ない客の顔はどれを見ても、この世の全てに失望したような表情をし、街中で人々が目にすれば直ぐにもそれをそむける、2人の禍禍しい男達がやって来ても、客達は眉一つ動かさない。
その酒場はそういう場所だった。

店内の端の方、窓も無い、煙草の煙で淀んだ空気の充満する辺りのテーブルに、つっぷする形で酔いつぶれている老人を見た大将は、何やら安心したような表情をする。
 「オヤジさんも相変わらずだな」
 「あぁ、まだ生きてるな」

その酔いどれは二人とは古い仲で、彼らがまだ駆け出しの盗賊だった頃、店で偶然出会ったこの老人が「次来た時にはまだ生きているか」という
いかにも“帽子の男が考えそうな賭け”を通して知り合い、今に至るも、帽子の男がその賭けに勝った事はない。
 「くそ、また大将の勝ちだ…さっさと死ねよあのジジイ」
 「長生きするさ…」

賭けに負けた帽子の男は、その負け分を酔いどれ老人に酒代で支払うべく、店で一番高い値の酒を丸一本、バーテンに注文する。
大将は、肩を落としてバーテンに金を支払う帽子の男の背中を見つめ、緩く微笑んですぐ側のテーブルに着こうとするが…
 「うわっ!」
彼が余所見をしながら腰を下ろした、その座席には既に先客が…
もう随分出来あがって目の座った、金髪のツインテールを垂らした女ハンターが、グラスの中身を胸元にぶちまけ、綺麗な顔立ち(酔っていなければ)に青筋をたてて歯軋りしていた。

 「ちょっとちょっとぉ!どこ見てんのよ!」

酔った女ハンターの酒臭い声が店の中に響き、料金をボロうとするバーテンに酒代をしぶる帽子の男は、狼狽する相棒に気付いてクスクスと笑う。
 「最近の難破は手が込んでるねぇ」

 「護衛の仕事の依頼主が、変な黒服の連中にアッサリ殺られてさ、腹いせで飲んでたのに、アンタの所為で最悪の気分だわ!」
 「す、スイマセン…」
 「謝れば済むと思ってんの!?少しばかり顔が良いからって調子に乗るんじゃないわよ!」
 「スイマセン…」
 「服の洗濯代払いなさいよ!今すぐ!」
 「あ、ハイ………すいません!財布忘れちゃった………とりあえずコレで今は、必ず払いますので!」
そう言って大将は、首から下げていた古いペンダントを女の手に渡す。
大して値打ちのある物とは思えないが…

 「オフクロの形見です…今度弁償しますので、その保証に…」
 「…………バッカじゃないの…こんなの受け取れるワケ無いじゃん」
女ハンターはそのペンダントを大将の手に押し戻すと、何やらしらけた様に声を落とし、未だオロオロとうろたえる彼の様をマジマジと見つめた。

 「あんたその格好…フェダーイー?…ひょっとして私の依頼主殺ったの…」
 「違います誤解です!本当勘弁してください!」
その暗殺者らしからぬ大将の様子に、女ハンターはようやっと疑いの目を解き、しかしそれでも苛立たしげに彼をイビり続けた。
 「まぁ良いわ…だけどねぇ、ちゃんと洗濯代は支払って貰うからね!明日の昼、中央広場で待ってるから、すっぽかしたらタダじゃおかないよ!」
 「はい、スイマセン…」

ぷんぷんと鼻息を荒げながら店を出ていく女ハンターの背中を、心底参ったような表情でしゅんと見つめる大将の肩を、帽子の男はやや強めにトンと叩き
大将は一切加勢に現れなかったその相棒に対し、苛立ちを隠せない様子だ。
 「何で助けにこないんだよぉ!あの子、今日の俺達のターゲットを護衛してた傭兵の一人だぞ!?」
しかし只管狼狽する大将に対し、帽子の男は相も変わらず、助平に且不真面目に
 「へへへ、良い女だったねぇ」
等と茶化しながら答える。
そしてその女ハンターに、無理やり明日の約束を取りつけられた大将は、やはり不安の色を隠せない様子だった。
 「どうしよう、あの子本当は気付いてるんじゃないか?明日会いに行ったら俺…殺されるかも…」
 「何、仕事が終わりゃ、結果がどうあれ水に流す…傭兵ってのはそう言うとこサバサバしてるもんだ」
例の如く嫌らしい程勘の良い帽子の男は、あの女ハンターが大将を呼び出す本当の理由を目ざとく嗅ぎつけ、大将を安心させるようにそう言った。

彼らが店にやってくるより一時間程前、プロンテラ中央の一角で発生した猟奇殺人。
その被害者の宗教家が、以前から国教会に対し、批判的な発言を繰り返す人物であった為、アサシン暗殺教団の関与を噂する者は、一人や二人ではなかったが
例の如く確実な証拠は見付からず、やがてその噂も噂のまま消えていった…





 「…遅い」

翌日の昼、約束の場所に、約束の時間より10分遅れてやって来た大将は、そこで腕を組み、凄みのある声で唸る女ハンターに睨まれ、その迫力に圧倒されるように硬直していた。

 「す、スイマセン…ポータルサービスが込んでたみたいで…」
昨日の続きを再開するように、必死の表情で頭を下げながら、大将はポケットから財布を取り出し、現金を支払おうとする。
しかし女ハンターは
 「あの服はもう捨てちゃったわよ!新しいの買うから付き合いなさい!」
と啖呵を切り、相変わらず受けっぱなしの大将は弱々しく
 「な、何で俺まで付き合わなきゃ…」
と言いかけるが、女ハンターはそんな彼の反論を許さず
 「女の私に荷物持たせようっての!?」
等と前にも増して強い語調で放った。
なので大将はその日1日、彼女に言われるがまま買い物に付き合わされ、引きずり回され、食事を奢らされた。
これを世間ではデートという。


丁度その頃帽子の男は、ソグラド砂漠の砦の自室で、自分の寝こみを襲おうとした赤毛の女(もはや少女であった頃の面影は無い)との一戦を終え
“自分のモノでも他人のモノでも、兎に角血を見なければ燃えない”と言う、悪癖をもったその病気持ちを、御望み通り痛みを伴うやり方で拘束し、熱く滾った肉棒でもって愛撫していた。
これが赤毛の女なりの愛情表現であり、営みの最中でさえ浴びせ合う罵声も、彼女からして見れば性欲をかききたてる為に耳に吐きかける吐息のようなモノだった。

 「ひぎぃ!…あぅっ!…た、短小野郎め!……大将のケツ…の穴にでも…そのロウソクぁぁああああ!」
 「喚くなbitch! この腐れマ○コが、こういうのがイイんだろ、ええ?」
赤い髪を引っ張って顔を上げさせ、筋肉質な右足太股に痛々しく刻まれた、スティレットによる刺し傷に爪の汚れた指を食いこませ、中をかき回す。
激痛に悲鳴を上げる赤毛の女は、しかしその恍惚とした表情から見て取れる通り、満更でもないらしく、帽子の男の肉棒をぐいぐいと絞めつけた。
帽子の男と赤毛の女の中に、こういった倒錯した愛情が成立したのはいつ頃だったか、どちらかが半殺しになるまで本気で痛めつけ、先に倒れた方を残った方が散々弄るように犯す。
今現在、帽子の男の戦績は4勝2敗。
前回等、完全に不意を突かれた帽子の男は、両肩を外され猿轡をされた状態で自室に監禁され、大将が気付いて救出に来るまでの間丸1日、赤毛の女にされるがままいたぶられた。

 「女運ねぇよなぁ…大将巧くやってるかな」
 「へへへっ!やっぱ大将のが具合イイのかい!?妬けちまうぎゃぁあっ!」
 「殺すぞ病気持ちが!」

だから彼は赤毛の女を相手にする時、いつも必死である。




翌朝砦に帰って来た大将は、妙に疲れた顔をしていた為、出迎えた帽子の男は益々嫌らしく口元を歪ませてほくそえむ。
 「朝帰りたぁ、大将もヤリてだねぇ!けけけ!」
 「そんなんじゃない…」
大将の話では
 「散々プロンテラ中を歩かされて買い物に付き合わされ、高級レストランで食事を奢らされて、終いには酒場で大酒を飲んだイリーナ(女ハンターの名)は酔いつぶれてしまい
仕方なく宿を一晩とって翌朝別れた」
との事だった。

 「言っとくが何もしてないぞ!詫びで付き合わされただけなんだ。翌朝だって彼女、凄い怒った様子ですぐ帰ったし…」
 「そりゃ、何もしなかったからだろ!」
 「彼女、まだ怒ってるみたいで、来週また会おうって…今度こそ殺されるのかな俺…」
大将は心底大真面目な顔で洩らすが、米神を抑える帽子の男は
 「大将、わざと言ってるだろ」
と低い声で唸った。


流石に半年もこんな状態が続けば、正直の上に馬鹿が突くほど真っ直ぐで純粋で鈍感な大将も、その女ハンター“イリーナ”の寄せる好意に気付き、2人はめでたく交際する事となった。
帽子の男は2人の交際を、概ね好意的に受けとめていた。
恋人が出来た事により、アサシン暗殺教団での後味の悪い仕事の後、その仕事に関しての愚痴を長々大将から聞かされる役が、そのイリーナに移ったからだ。
大将もこの辺りは心得ているようで、仕事の詳しい内容に関して部外者の彼女に洩らす事もなく、それでも帽子の男より幾分か人間的に接してくれる者が出来た為、精神的負担も軽減され
その後の仕事における大将の反応も、ある程度ポジティブになった。




戦闘スキルにおいて大将は、かつての師範である“先生”に匹敵する程で、教団内において彼の名が“クロス”の候補に挙がるのは、想像に苦しくないだろう。
しかしその影では、帽子の男が例の如く嫌らしく忙しく動き回り、大将の活躍をより一層際立たせるべく、必要以上に残虐な方法で犠牲者を辱めていた。

 「大将には是非、クロスになってもらう」
帽子の男は、何時もの如く危険を伴う情事において、赤毛の女にそう洩らしていた。
その病的な性癖から、いつも生傷の絶えない赤毛の女は、痣だらけになった顔を猥褻に歪ませて笑うと、自分を犯し続ける帽子の男に言う。
 「ヒヒヒ!大将が嫌がったらどうするのさ」

 「……」
 「……」
暫しの沈黙の後、彼らはお互いの腹の底に沈む薄汚い本音を察し、悪意に満ちた微笑を交した。




 「俺は、クロスにはならないよ…」
長老組からの推薦を得た大将は、しかしその資格を真っ向から拒否し、当然の如く辞退した。

クロスとなるフェダーイーには、高い戦闘能力と、それに相応しい強靭な精神力が要求される。
その為彼らは、迷い、恐れ、良心の呵責等を完全に克服する為、彼らの大切な物や、愛する者親しい者、その想い出までも捨て去り
氷の如く自らの心を凍らせて、完全な戦闘機械に至る。

数年前クロスの候補に挙がりながら、それに至る為に自ら育てた教え子を生贄に捧げようとし、その大将自身の手にかかって死亡した“先生”は、大将が憧れつつ恋焦がれる女であった。
そんな大将がそのような事を認められるはずもなく、彼の辞退を聞いた帽子の男は、しかし別段感情的になるわけでもなく、一つ小さく鼻で笑って肩を叩く。
 「は!大将らしいや!まぁ、これからもヨロシク頼むぜ」
 「あぁ…あぁ、そうだな!」

しかし、ようやっと表情の明るくなった大将が去ると、帽子の男はほくそ笑むのを止め、背筋も凍るほど冷酷で邪悪な何かを秘めた、濁った瞳の眼差しを、その腐れ縁の相棒の背に送っていた。


歪んでいるが故に、他の歯車とは噛み合わず、にも関わらず、同士であれば示し合わせたように組み合う二つの歪んだ歯車。
だが回り続ける歪んだ歯車は、いつしか根元のネジが緩み始め、静かに軋み始めていた。




 「なぁ、相談なんだが…」
 「あぁ?」
いつもの酒場で、いつものように賭けに負け、いつもの酔いどれ老人に酒をおごる帽子の男に、大将は唐突に切り出した。
彼は懐から汚い紙切れを取りだし、それを酒場の汚れたテーブルの上に広げる。
 「何だいこりゃ、コケシか何かか?」
紙に描かれた奇妙な道具に、帽子の男はいつもの如く嫌らしく放つ
が、その形に妙な見覚えを感じ、紙を逆さにしてから大きく唸った。

 「こいつは」
 「そう!あの砂漠の遺跡で見付けた白骨が持ってたのと同じ奴だ!」 

2人がフェダーイーになるきっかけとなり、またあの“先生”と初めて出会った場所でもある砂漠の遺跡。
その隠し扉の奥で眠っていた骸が、手に握っていた金属製の奇妙な道具と、全く同じ物が、その紙には描かれていた。

 「アサシン暗殺教団は、砂漠の遺跡の奥で何かを隠していた。俺は最初、それが古代の財宝か何かなのだろうと思っていたんだが…
この紙に描かれているこいつは、数百年前にミッドガルドでも使用されていた、火薬を使う武器で、銃と呼ばれている」
 「数百年前?」
 「俺達がゲフェンの図書館で見付けた遺跡の文献、丁度それが書かれた頃のもの…
俺達同様、古代の遺跡を求めてあの遺跡を訪れ、結局そこで命を落とした盗掘家が、当時の武器を持ってあの部屋で眠っているのさ」

大将は声を殺しながらも、その語気には抑え難い興奮が見え隠れし、今にも叫び出しそうな勢いだったが、それを聞く帽子の男は逆に不似合いなほど真剣な表情をして言う。
 「ちょっとまて…アサシン暗殺教団がコイツを必死になって隠してるって事はだ…この武器は」
 「凄い武器なんだろ…」
そこで一度声を区切った大将は、やはり帽子の男のように危機迫る表情して
 「少なくとも、この王国にとって、危険を伴う程の…」
と、恐れるように声を落として言った。

 「大将、お前“まさか”…」
 「その“まさか”だ」
大将はそう言うと、並々とビールが満たされたコップをグイと引っ掛けた。
その様子に帽子の男はおおいに笑い、同じようにコップの中身を飲み干す。
 「昔を思い出すな大将!気軽で好き勝手な盗賊時代に逆戻りだ!これが手に入ればもう、フェダーイーで危ない橋を渡る必要もなくなるってもんだ
買い手はいくらでもいるぞ!いくらでも金を出すぞ!酒に女、何処にだって行ける!何だってできる!」

2人の会話に水を差すように、酔いつぶれていた老人が目を覚まし、弱々しく語り出す。
それはまるで独り言のようでもあり、昔話を孫に聞かせるようでもある。
 「アサシン暗殺教団は、その武器の力を恐れていた。美学に反するとな…奴らだけじゃない、騎士団、国教会、この国全体が、その武器の影響力を恐れた…
銃は全ての者にとって平等だ。平等に死と破壊と力を齎す。金持ちも貧乏人も、貴族も農民も、騎士団もアサシン暗殺教団も…
皆々ひっくり返ってまっ平らだ…神話の戦争の再来だ…偉大で慈悲深く、大金持ちでサディストな誰かさんも、さぞ慌てる事だろうさ…」
 「……」
 「……」
老人はその後、何事もなかったように再びつぶれ、寝息を立てはじめた。

 「連中は何も分かっちゃいねぇ。美学だか何だか知らねぇが、武器は強力ならそれで良いのよ、野郎の得物と同じさ」
老人の寝息を聞いていた帽子の男は、彼が既に5Kzを支払って酒を飲ませているその酔いどれを見つめながら、まるで愚痴るように言った。

 「俺はただ、もうこの仕事を続けられなくなっちまっただけだ…金を手に入れてイリーナと一緒に海外に逃げるよ」
人を殺す事に苦痛を感じ始め、自らが所属する組織の存在意義に疑問を感じ始めていた大将は、今まで言えなかった事を相棒に告白する。


 「幸せにな、大将…」
口元を歪ませ、並びの悪い黄色い歯をちらつかせて祝福の言葉を送る帽子の男は、しかしその汚れた帽子の縁の奥に、膿の溜まった吹き出物よりも醜い、捻じ曲がった性根を隠し持っていた…




 「貴様の話を信用しろと言うのか…あの大将が、遺跡の地下に眠る銃を狙っていると?」

暗い部屋。
壁にかけられた、たった一つの松明だけが、汚れた帽子を被る男と、神官の姿を照らし出す。

 「例の資料は、ゲフェンの図書館禁書棟で見付けたらしい…明朝スケと一緒に忍び込むそうだ」
 「あの大将が、な…」
 「奴の実力は知ってるよな?あの先生を殺った程だ…下手に手を出して人的被害が出てもつまらんだろう?」
 「お前なら、巧くやれると言うのか?」

帽子の男は頬を猥褻に吊り上げ、目は帽子の影に隠すようにして笑う。
 「俺は奴の事を知ってる…俺は、もっと巧くやる…」




翌朝、プロンテラ中央広場にて帽子の男と共に待つ大将は、ようやく現れたイリーナに、自分の相棒を紹介する。
 「こいつが俺の相棒…盗賊時代からの連れだ」
 「初めましてイリーナ」
 「…よろしく」
帽子の男の、心底醜く胸糞悪く、断じて信用ならない声を初めて聞いたイリーナは、やはり当然の如く生理的不快感を感じ、虫唾が走るのを感じた。

 『この男は、絶対に信用出来ない』

その心の声は、しかし彼女の表情にもろに表れ、それを察した帽子の男は、尚も醜く頬を吊り上げる。

 『イイ…イイ女だな大将…本当に、イイ女だ』

 「遺跡には常時数名の見張りがいる。どうやって忍びこむの?」
帽子の男から直ぐにも目をそむけたイリーナは、大将の顔を見上げるようにして問うた。
だがそれに応えたのは、聞きたくもない帽子の男の声だった。
 「手は打ってある」
どうせこの男の考える事だから、ろくでもなく悪辣で意地汚い策なのだろうと、イリーナと大将は高をくくっていたが、やはり全くもってその通りであった。




タウンポータルサービスを利用してモロクに到着した彼らは、古巣であるその砂漠の街に、妙なほど人が増えている事に気付く。
彼らは殆どが商人であったが、盗賊や、騎士を連れた貴族、その他様々な顔が混じって、皆々殺気だって鼻息を荒げているようだった。

 「まさか、お前が打った手っていうのは…」
呆れたように向けられる大将の視線に対し、帽子の男は
 「ふふん」
と不愉快に鼻で笑って応えた。


 「うわぁぁ~!何で今日は人が多いの!皆とはぐれちゃったよー!」
どうやら仲間とはぐれたらしく、周りの様子を伺おうと背伸びするも届かず、人ごみに飲まれるように揉みクシャにされているアコライトの少年が一人。
半泣きで騒いでいると、突然目の前を黒いモノが塞ぎ、それに顔面からぶつかって路面に仰向けに倒れる。
 「いったぁー!」
 「気をつけろクソガキ!」
帽子を被ったその男は、心底意地汚い声を、まるで唾でも吐きかけるように放って歩き去る。
だが、そのすぐ後を歩く、同じく黒服の青年は倒れた少年に手を伸ばし
 「大丈夫かい?」
と優しい声をかけてきた。
その棲んだ黒い瞳に見つめられた少年は彼の手を取ると、何故か頬を赤くしてオロオロしながら礼をする。
 「あぁぁぁああありがとうございますっ!」
 「気をつけてね、この辺は物騒だから」
 「あ、はい!あの…」
 「?」
 「えぇぇっと、あの…あ、貴方の旅に、幸あらん事を!」
それを聞いた青年はニッコリ微笑み、先の帽子の男の後を追うように去っていく。
黒髪の美青年の後姿を見つめる少年は目を輝かせ、頬と鼻の上を紅くして呆然としながら
 「カッコイイなぁ…」
等と独り言を洩らすが、思い出したように自分の顔を叩き、雑念を振り払うように首を振る。
 「ダメダメダメ!この街ではワタ…じゃなくて、僕は男の子!」




3人が、モロクの南門からソグラド砂漠へ出ると、そこでは彼ら同様、街から砂漠へ向かうキャラバンが何組も集まり、やはりいつもより圧倒的に人の数が多いようで
しかもそれらの行き先は、どうやら皆々同じである事が、やがて判明した。
大将は帽子の男の背中に小声で洩らす。
 「情報洩らしたな…」
 「ひひっ!アサシン暗殺教団はな、人目に付くのを最も恐れるからよ。だから『遺跡の地下に御宝が眠ってるぜ』なんて噂が流れりゃ、こいつら馬鹿だからゾロゾロ群がってきやがるのさ」
 「なるほど、関係の無い人間を巻き込んで盾にしようっての…最低ね」
イリーナの語調は柔らかかったが、その笑みの奥に苛立ちと呆れが疼いているのは明白だった。
 「でも、先にアレが見付けられたらどうするのよ」
 「例の隠し部屋を知ってるのは俺達だけだし、こいつらが見付けても値打ちもんだとは思うまい。俺は『御宝がある』としか言わなかったしな」

三人は巨大なキャラバン集団に紛れ、途中帽子の男は他のキャラバンに
 「遺跡の御宝はどうやら、古代の王が隠し持つ金銀財宝で100Mzはくだらん」
 「巨大な宝石の埋め込まれた宝冠で、それ一つあれば一生遊んで暮せる」
 「究極の力を秘めた聖杖は、大魔術師の力を更に高め、全てを支配する力を与える」
等、実しやかに嘘八百を流し、彼らの欲望をかき立てた。
だから、総勢40名にも及ぶ盗掘集団は、未だ人目に触れた事のない砂漠の遺跡に到着した途端、蜘蛛の子を散らすように散開し
彼方此方忙しく引っ掻き回し、ひっくり返し、掘り返し、その様子を高い場所から見ていたアサシン暗殺教団の見張りを、完全に圧倒してしまっていた。

 「くそ!何てこった!この人数じゃどうしようもない!」
 「どうするんだ!」
 「砦に戻って、長老組に報告しよう!」

だから遺跡の警備をしていた数名のフェダーイーが、慌てふためき狼狽しようと、彼らを責める事はできないだろう。

 「アーッハッハッハッ!どいつもこいつも意地汚く目をギラつかせやがる!クズ虫共め!」
高笑いする帽子の男に送られる、二人の男女の視線からは
 『お前が言うなよ!』
という本音がマジマジと伝わってきた。




人目を避けるように、三人はコッソリと遺跡の地下へやってきた。
大将、そして帽子の男がここへやって来るのは3度目。

前回来た時大将は、ここで掛替えの無い者を失い、そしてそれを自らの手で葬った…

隠し扉が開き、まだ他の誰も足を踏み入れていない事を示す、足跡一つ無い砂の積もった隠し部屋が現れる。
その部屋の真中には、小さな岩で作られた墓石が…

 「…」
 「…大将」
 「あぁ…」

帽子の男の声に我に返った大将は、荷物の中から一輪の造花を取りだし、それを墓石の元に手向ける。

 「ごめんなさい先生…俺達は、アナタを裏切ります」
 「?」
部屋の入り口でクロスボウを携え見張りをしていたイリーナは、不思議そうに大将の背中を見つめていた。


 「…あったぞ大将、まだここにあった」
帽子の男が、積もった砂の下から掘り当てた白骨死体。
その目の無い二つの虚空は宙を見つめ、舌のない何も語らぬ口は、だらしなく開かれて、そこにも砂が溜まっていた。
そしてその手には…鈍色に輝く金属製の塊が、しっかりと握られていた。

 「これが、銃か…」
 「本当にこんな張りごてみてぇのが、この国をひっくり返すのかねぇ」
 「試してみるさ」

大将はそれを拾い上げると、半分朽ちた木製の握りの部分を掴み、筒の先を砂の上に落ちている石に向け、爪状の金具を人差し指で絞る。


轟音と共に、砂の上の石は弾け飛び、筒の先からは名残惜しそうに、少量の煙が上っていた。

 「……」
 「……」
 「……」

見張りのイリーナは轟音で目を丸くし、石があった砂の上を見つめる帽子の男はほくそ笑み、大将は右手に反動による衝撃をジンジンと感じた。

 「今の…どうやったんだ?」
 「引き金を指で引いただけだ…何も念じないし、何も力を使ってない…」
 「まだ使えるの?それ…」
 「この部屋の状態が保存に適していたんだろう…火薬も部品も、まだ生きてる…こいつは、凄いぞ!」

 「俺達ゃ大金持ちだ!」
 「ヒィヤッホー!凄いよ大将!私達英雄になれるかも…歴史に名を残すかもしれない!」

 「……」
後で騒ぐ二人を尻目に、大将は銃のシリンダーを開き、その六つ開いた穴の内三つを埋める金属製の弾丸を取り出す。
先ほど放った一発分の空薬莢は、未だ熱を持ち、それを取り出す大将の指を、黒い手袋越しに焼いた。
大将は、その使用済みの薬莢を捨てると、残りの2発を手の平の上に転がす。

その小さな金属の弾の何処に、アレほどの力を隠していたのか…
こんなモノが、本当に死を齎す程のモノなのか…
そしてそんなモノを、本当に世に出しても良いのか…

やはり大将は合点が行かず、その内の一つをシリンダーに戻し、残り一発をポケットの底に隠した…




地上はもう日が傾き始め、既にキャラバンの一部は、野営の準備に取りかかっているようだった。
 「今なら人目に付かないし、引き上げるなら頃合じゃない?」
砂漠出身ではないイリーナは、いい加減砂まみれになった体にシャワーが恋しくなったらしく、しかし砂漠の事を良く知っている男二人は彼女を静止する。
 「砂漠は夜の方が恐ろしいんだ。氷点下まで下がるからね」
 「はぁ!何それ聞いてないわ!昼間はあんなに暑いのに!」
 「だから“砂地獄”ってんだぜ、お嬢ちゃん」
結局その晩は、遺跡の外れの人目につかない場所で暖をとり、一夜を明かす事となった…


見張りは一時間置きに三交替、帽子の男、イリーナ、大将という順番で決まった。

すっかり日も落ちれば、湿度の極端に低い砂漠は、灼熱の昼間と打って変って極寒の地と化す。
 「ぅうぅう大将ぅうぅう寒いいぃぃい…」
砂漠の性質を知らず、不用意にも軽装で来たイリーナは20分程で凍え出し、焚き木の前で震え始めた。
 「だから厚着して来いって言ったのに」
 「大将どうなのよぉ!その格好で寒くないのぉぉぉ!?」
大将や帽子の男が着る、フェダ-イーの制服たる黒服は、大将の言葉とは裏腹に見るからに寒そうであるが…
 「クローキングスーツは砂漠の環境に適した構造なんだ。昼間は涼しいし、夜は暖かい…」
 「そんなのズルイ…」
そう言うと、イリーナはズルズルと這いずりながら、大将の寝袋に潜りこもうとする。

今なら、あの嫌な帽子の男はいない…

 「女が寒いって言ってんだから…暖めなさいよね…」

 「え…あぁ!うん、わかったそうする」
 「ふふ…」

イリーナは期待に胸膨らませ、目を瞑って自分の唇に大将のそれが触れるのを待つ…が…
30分待っても彼の指が髪に触れる事もなく、厚い胸板に顔を押し付けてくれる様子もなく、そして遂にはイビキまで聞こえ始める。
 「Zzzz……がっ、ギリギリギリ(歯軋り)…」

 「ちょっとちょっとぉ!何寝てんのよ!」

目の前で大声を出され、慌てて寝袋から飛び起きた大将は、しかし何事かと眠そうな目をキョロキョロとさせる。
そして目の前の寝袋の中で、青筋を立てて自分を睨みつけるイリーナに気付き、途端に脂汗を額から流し始めた。
 「あ…ごめん、俺何か悪い事した?」
 「まだ何もしてない!でも、交替の時間まで後10分位しかない!あの“嫌な奴”と私が見張り交替するまで、後10分しかない!」
 「?????」

やはり良く状況の飲み込めていない大将は、どうやら彼女がまだ“眠りたくない”という事だけはようやく察する事ができ、彼女の隣に座って燻り始めた焚き木の炎を見つめた。
するとイリーナは、その大将の腕にそっと寄り添い、消えかかった炎の揺らめきを共に眺める。
 「私、あいつ嫌い…何で大将は、あんな奴と組んでるの?」
 「友達だから」
 「何よそれ…」

話題に考えあぐねていた大将は、彼女の切り出したその話にコレ幸いとばかりに食いつく。
 「アイツは、見ての通り悪人だし、最低のクズだ…絶交しようとも思ったし、殺してやろうと思った事もある…けどさ…」
 「けど何…」
 「アイツと出会ってなかったら俺、きっと今頃、砂漠の砂の下に埋もれて、どっかで骨になってたと思う…この砂漠じゃ、ああ言う奴じゃないと生き残れないんだ」
 「信頼してるんだ?」
イリーナは大将の顔を見上げ、悪戯っぽく伺った。
男の友情話も、眠れぬ夜には悪くない…

 「信用?まさか、俺はアイツから貰った水は、例え砂漠で遭難してても口にはしないよ」
 「へ?」
だがイリーナは、大将のズレた返答に戸惑い、一瞬言葉を失った。

 「だって今、友達って…」
 「アイツが言ったんだ。『自分の水以外は信用するな、特に俺の事はな』って…」
 「……とんだ友達もいたもんだわ…」
呆れた様子でイリーナは寝袋から立ち上がり、懐中時計で時間を確認して見張りの交替に向かおうとした。
しかし大将は、そんな彼女の肩を掴み、慌てたように言う。
 「寒いから」
そしてイリーナの肩に、そっと自分のマントを着せ…

 「………」
 「………式を上げる時、これを祝砲にしよう…」

…と、短いキスの合間に、彼女の手の平の中に、軽く汗で湿った弾丸を手渡した。
イリーナは、感極まった様に両目の端に涙を浮かべ、一つ小さくうなずく。
 「……うん!」


帽子の男は、野営地から少し離れた遺跡の石柱の後で火を焚き、周辺の見張りをしていた。
イリーナは彼に声をかけるのを躊躇い、しかし約束通り1時間の見張りの交替を伝える為、嫌々その気味の悪い男に声をかける。
 「交替の時間だよ…」
 「…ん?あぁ、そう…もっとゆっくりすりゃ良いのによ、遠慮しねぇでよ、ヒヒヒッ!」
 「アンタには関係ないよ」
この男と猥談を交す気等、イリーナには更々ない。
だが、少なくとも自分の伴侶となる男の友人であるならば、最低限の理解を残そうと思い、また遺跡で大将が見せた、切なくも懐かしそうな様子について、したくもない雑談を交す事にする。
 「あの隠し部屋にあった墓…誰の?」
まるで色気もなく、また面白くなさそうに聞いた。
すると帽子の男は、痰の切れぬ薄汚い声で応える。
 「ありゃな…」
 「…」

 「大将が惚れた女のさ…大将に惚れた女のさ…大将が、殺した女のさ…」
 「……」

イリーナは流石に、同様を隠せぬ様子で声を失い、その場に立ち尽くした。
大将が、あの優しい大将が、自らが愛し、愛された女を、その手に掛けていた…何故か?

 「先に手を出してきたのは、その女の方だ…その女が大将を弟子にし、大将に惚れたのは、正しく初めから、そのつもりでの事だった…
信じられねえよなぁ…失う為に愛したんだぜ?悲しむ為に育てたんだぜ?…でも俺は、その事に関して間違ってるとは思わん…
間違ったのは、大将を殺せなかった事…結局最後まで迷いを捨てきれず、くたばっちまった事…」
 「アンタは、間違ったりしないんだね?」
イリーナは遂に勘弁ならず、その捻じ曲がった性根を持った男の、捻じ曲がった思想(もはやそんな崇高な言葉も似合わない)に対し、堂々と横槍を入れた。

 「俺はいつだって間違ってる…ただ反省してないだけだ」
 「…」
薄気味悪い含み笑みを浮かべる帽子の男に、もはやかけてやる言葉は見付からず、イリーナはただ、顔を顰めて沈黙した。

 「さっさと行っちまってよ…アンタの顔なんか見たくないんだ」
 「そうだな、そうしよう…その前に」
 「?」
帽子の男は、自分が焚いた焚き火にかけられていたコーヒーを、二つの金属製のコップに入れ、一つをイリーナに差し出す。
 「寒いだろうからな…」
イリーナは、それを相手の顔に引っかけてやろうとさえ思ったが、その意地汚いゲスに一泡吹かせてやろうと、わざと満面の笑みを浮かべて言う。
 「ありがとう、助かるわ!じゃぁ“アナタが持ってる方のコーヒー”を頂戴!」
すると帽子の男は一瞬、米神を引き攣らせて、不愉快な笑みを浮かべた。
イリーナは相手の反応を待たずに続ける。
 「大将がね、“アンタから貰った物は、絶対に口にするな”って!」

 「………は、はははははっ!こりゃ参った!用心深いこった!」
帽子の男の臭ってきそうな笑い声。
イリーナはその不愉快さに、笑みを崩すまいと努力しながらも、鳥肌が浮かぶのを感じた。
帽子の男は笑いながら、自分の持っていたカップをイリーナに渡し、そしてイリーナから渡されたカップの中身を、ぐいぐいと飲み干す。
イリーナはその男の喉ぼとけが猥褻にピストン運動し、見るからに不味そうなコーヒーが、その喉を降りていくを確認してから、ようやくカップの中身に口をつけた。

 「……不味い…」
イリーナの文句等気にせず、帽子の男は彼女に背を向けて言う。
 「…大将が言ってたぜ、『イリーナと遠い国へ行くんだ、家を建ててそこで暮らす、子供は二人は欲しいな』ってな。だから、奴の事はヨロシク頼むぜ」

 「アンタなんかに言われなくたって………?」

イリーナの目の前、白い砂の上に、ガラス製の小さなチューブのような物が落ちる。
そのチューブは、先が丸い円錐系で、そのガラスの正体が何なのか分った途端、彼女の体に脱力感と、同時に絶望が走る。

 「それは…アンプルの?まさか!」
 「“あから、呑むあと言ったんあ”」

振りかえる帽子の男の口、頬を引き攣らせて邪悪に笑う、その口にはアンプルが…
“中和剤”と記された、空になったアンプルの瓶が咥えられていた…

何の事はない…
混ぜ物はどちらのコップにも混じっていて、どちらを呑んでも、中和剤を持たぬイリーナは毒に侵される。
それが、帽子の男の狙いだった。

では…

 「何を…一体何するつもりなの!」
 「責めてくれても良いぜ?謝る気はねぇがな!」
帽子の男の猥褻に節くれた指が、痺れて動けないイリーナの太股に触れる。
嫌らしく蠢くその感触に、思わず彼女は声を荒げる。
 「いやぁ!触んないで!大声出して大将呼ぶんだから!アンタなんか、大将に殺されればいいんだ!」

 「……是非そうしてもらおうか!」

コレ以上ないほど、邪悪な笑みを浮かべる帽子の男は、そう言うとスティレットを抜き、イリーナのスパッツを、股の間から腹のにかけて一気に引き裂く。
イリーナの悲鳴が、夜空に響き渡った。




遠足の前日、子供が明日を控えて眠れなくなる事がある。
イリーナとの約束による、かすかな興奮からか、大将は眠気が完全に覚め、見張りから戻ってくるであろう、帽子の男にその話題を持ちかけるべく、待っていたのだが、彼の元にやってきたのは、乾燥した冷たい空気を震わすような、イリーナの悲痛な悲鳴だった。

 「いやぁぁ!やだ!助けて大将!あぁぁ!やだぁ!」
 「!?…イリーナ!」

悲鳴のする方へと駆ける大将。
やがて、その悲鳴の正体を目にした彼は、絶望と怒り、そして友に裏切られた事から来る悲しみに、呆然と立ち尽くしてし

 「そ…んな…こんなの、嘘だ……何故なんだぁあ!!」

そして、咆哮した…




 「たーいしょーう!おーい!大将!いるんだろ!?出て来いよ!」
 「ひぁ!あぁ!止め…痛!」

帽子の男は、体に麻痺毒が回って自由の利かぬイリーナを、背中から抱えるように抱き、その喉にナイフを持った右手、同じくナイフを持つ左手は白い腹の臍の辺りに当て
スパッツの裂け目から覗く、イリーナの秘所にイチモツを刺しこみ、リズミカルに突き上げた。
帽子の男のイチモツは、その性根の如く醜く歪に節くれだち、その肉の凶器突き刺される女性は、決して快感を得られる事など無く(あるとすれば、あの病気持ちの赤毛の女くらいか)
当然の如くイリーナは、自分が最も生理的に嫌がる男に汚され、侵されている事の屈辱も加わって、その不快感に堪えられず、大将の名を叫び続ける。

 「ヒィ!やだ、止めてよぉ…助けてよ大将!大将!…助け…あぁぁ!」

それが、帽子の男の本当の目的。
大将の弱点たる、この女ハンターを盾にする事…
そして、もはや役に立たなくなった大将を始末し、アサシン暗殺教団からの優遇を計る事…

 「あっはっはっはっ!良いよこの女!最高だ!グイグイ絞めつけやがる!お前が惚れるのも頷けるぜ!」
 「あぁ、あん、た…なんか…ヒィッ!…このクズ…死んじまえばっ…ぐぁ!」
 「違うぜお嬢ちゃん、もっと悲鳴を聞かせてくれよ、もっと悲鳴を聞かせてやれよ」
 「うぅ…うわぁっ!うわぁぁぁぁあっ!」
イリーナの喉元に突き付けらるスティレットの歯は、彼女の白い歯だに薄っすら食い込み、少量の出血を伴っていた。
その様を見た大将は、堪えられずに叫ぶ。

 「やめろおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

気付いた帽子の男は、益々突き上げるスピードを増し、そしてそれに合わせるように、イリーナの悲鳴も加速していった。

 「ゲームをしようぜ大将!何、ルールは簡単だ…俺が、この女の中で果てる前に大将が顔を出し、武器を捨てれば、この女は助けてやる…
もしその前に、俺がこの女の中にぶちまけちまった時は…そうだな、喉がいいか?腹がいいか!?」
 「ヒィ!…いぎっ……っんぁあ!…」
 「知ってるよな大将?俺は、そんなに“我慢強く”ないぜ?うはははははっ!まずい、そろそろ…」

やがて暗闇の中から現れた大将は、怒りと憎しみと絶望、それに悲しみの交じった、壮絶な表情を浮かべていた。
強いて一言で言うならば…
 『何故…』
その言葉が、彼の今の心境を表す上で、最も相応しく、また理解しやすい言葉であった。

 「さぁて、得物を捨ててもらおうか…おっと、“そいつ”もだよ、飛び道具だからな」
大将の姿を確認した帽子の男は、尚も執拗にイリーナの体を突き上げながら言った。
同時に喉元のスティレットの刃を微かに動かした為、その痛みにイリーナが悲鳴を挙げると、大将は怒りに震える手にしたジャマダハルと、腰に刺した銃を砂の上に捨てる。
 「もう…もう、良いだろう…イリーナを開放しろ!」

帽子の男はようやっと腰の動きを止め、名残惜しそうにイリーナの体から硬化したイチモツを引き抜き、砂の上に彼女の体を無造作に放り出すと
力なく倒れたイリーナは、涙の溢れる目で大将に縋る様に見つめ、そして、震える声で振り絞るように言う。
 「大将…ダメ…良いから…私の事なんか良いから」

 「そいじゃ大将………理由も知らずに、死んでくれ」



帽子の男は汚れたイチモツをしまうと、両手のスティレットを構えて大将に跳びかかって行った。
しかし、素早過ぎる大将の身のこなしは、帽子の男の繰り出すナイフをまったく受けつけず、切先はその体をカスリもしない。
逆に大将は、ほんの僅かな隙を見ては素手の反撃を入れ、顔面や腹に拳がめり込む度、帽子の男は無様に声を挙げてひっくり返った。
だがしかし、やはり大将はこの場に及んでも、腐れ縁のこの相棒に致命傷を与える事を躊躇い、説得を試みようとする。

 「頼む、やめてくれ!俺は…お前を殺したくない!」
 「あはは!まだ甘い事言ってんのか大将!だから、殺してぇのさ!」

びっ!
風を切る音と共に、大将の髪の一部が切り落とされる。

 「こんな姿見たら、あの女どう思うかねぇ!」
 「っ!」

ヒュ!
帽子の男の言葉に迷わされた大将の動きが一瞬止まり、ナイフは彼の服の一部を裂く。

 「手前が命を堕とす程夢中になった弟子が、同じ理由で殺し合ってやがる!」
 「止めろ…」

シュッ!
更に動きが緩慢になり始めた大将の、今度は腕の辺りを刃が掠め、その裂け目には薄っすら血の後が付いた。まだ毒の回る程の傷ではないが…

 「報われねぇ報われねえ!あの女どんな顔すっかな!泣くかな!怒るかな!想像するだけで勃っちまう!」
 「止めろっ!……っぐ!」

ザクッ……肉の裂ける音。
大将の左二の腕に突き刺さったスティレットは、その役割を忠実にこなすが如く、刃に塗られた麻痺毒を彼の体に侵入させていく。

 「大将、向うで先生にヨロシクな…すぐに“もう一人”送ってやるからさ」
 「っ!ぁぁあ!」

遂に膝をつく大将は、留めを刺そうとする帽子の男の一撃を尚も寸でで避し
しかしそのまま地面に押し倒された大将の喉に、無情にも刃が押し当てられる。

 「あのアマは具合がイイ。お前が死んだら、殺す前に後3回はやらせてもらうよ」
 「うぅぅぅっ!うあぁぁっ!うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
帽子の男は一度、壮絶な表情で涙を流す大将に、後ろで必死にもがいているであろうイリーナの姿を見せるように体をそらし
そして…


 「いやぁ!やだ!大将!」


イリーナのあげる悲痛な叫びを楽しむように…
長年付き合ってきた相棒を…
無二の親友を…

その心臓に、スティレットの冷たい刃先を突き刺し…完全に息の根を止めてしまった…



 『ああぁ…最高だ…この背徳感、たまらねぇ…先生、あんた、コレを感じたかったのかい?』



帽子の男はゆっくりと立ちあがり、ケタケタと笑いながら舞うように体を横に揺らす。

 「良い…良いぜ…ビンビン来らぁ…やりてぇよォ…神様とやらをやりてぇ………ひひひっ!」

そして、自分の後ろで泣き叫んでいるであろう、この相棒“だった”男の亡骸が愛する女…イリーナを、その毒牙にかけようと振りかえる。
しかし…
 「さぁ、お嬢ちゃん…俺の相手をしてく………」



 「アンタなんか…」

帽子の男は、しかし、その状況を一瞬把握できなかった。

 「アンタなんか!」

力の入らぬ、震える足で必死に体を支え、彼の前に立つイリーナの手には…大将が捨てた銃が…
その暗い銃口が、彼の顔に向けられていた…


 「本当、女運ねぇな…」




星一つ無い、暗い夜空の下…イリーナのすすり泣きが響き渡る…


 「ヒィ…うえぇっ…こんなのヤダよう…大将…息をしてようぅ!」


顔面に弾丸を受け、顔の半分を吹き飛ばされた帽子の男は、薄れ行く意識の中、イリーナのその声に性的興奮を感じていた。


 「結婚しようって言ったじゃない…何でよぅ…」
イリーナは、大将から渡された弾丸を胸元から取り出し、それを銃のシリンダーに込める、銃口を自分の米神に押し当てる。

 「私を、置いていかないでよぅ…」


撃ってしまえば全てが終わる…
大将の想いでも、彼との絆でもある、この弾丸も…
だから彼女は、引き金を引くことが出来なかった…

込めた弾丸を再び取り出し、胸元にしまうと、手にした銃を砂の上に落とし、その場を去っていった…









 「…か?…しっかり………聞こえますか!しっかりしてください!」

 「……」


“男”の視界に司祭の顔が映る。
“男”の顔を覗き込む司祭は、“男”が目を覚ましたのを確認すると、安堵の溜息を吐き、額の汗を拭った。

“男”はフラフラと立ち上がり、辺りを見まわす…


 「あっちの方は無理ですね…手遅れです」
司祭は、“男”の隣で倒れていた躯の前で十字を切り、そして…

 「しかしその“顔の傷”は何でやられたんですか?深くに“鉛の塊”が食い込んでて、傷を完全に消す事がで…あぁぁ!」
 「きひっひっひっひっひっ!」

司祭の声がうるさいと感じた、“帽子の男”は、冷酷な笑みを浮かべ、スティレットの刃を彼の喉に突き刺す。
のた打ち回ってやがて動かなくなった司祭を見もせず、帽子の男は辺りを見まわした。


冷たくなっている大将の死体…
その横に落ちている銃…

イリーナの姿は無い…


 「あぁあ、神様って奴は本当、偉大で慈悲深い、大金持ちのサディストだな…」

彼はこれからの事を少し考えてみた。

 『砦に戻って事後報告か…』
 『イリーナはどうするか…まぁ放って置くさ、もうどうする事もあるまい』
 『この銃はどうなるのかね…砦に保管かな?』

だがそれらを考えている内に、帽子の男の嫌らしく悪辣な思考は、ある一つのオゾマシイ企みを導き出す…


 『銃はここにある…』
 『大将が死んだ事を知ってるのはイリーナだけ…』
 『俺の顔はブッ潰れちまってる…』


帽子の男が、遺跡の地下、隠し部屋の砂の下で見付けた物は、古代の王の財宝でもなく、鈍色のナイフでもなく、そして銃でもなく……


 「大将、あんたの名前、暫く借りる事にするわ…ははは!あははははははははははは!」


彼が見付けた鈍色の輝きとは、悪意…………

                                                        終わり


もう、なんつか、長くてごめんなさいorz
本当…これで最後なんで、はい。

イリーナについて…
前出てきた時、アローナって名前でしたが、色々調べてみた結果、アローナって女性名じゃなかったらしくて…
大恥かくの承知で変更しました、ごめんなさいorz

自分、都合によりパソと向き合う時間が、これから減っていきます。なのでもう、文章書く暇は無くなってしまいました。
恐らくは、これが最後の投稿となります。
読者の皆様の事は忘れませんよ!このスレも永遠ですよ!最高ですよ皆さま!

651様とのコラボ企画、好評だったようなので、どうせなら串のキャラ皆様の生贄に捧げてしまおうと想います。
以後、串は作品投稿できず、下手したらスレを見ることも叶わないかもしれませんが、文神の皆様の中で「マスクド使いたい」とか「男装アホライト使いたい」ってな方がいらっしゃいましたら、煮るなり焼くなり好きにしちゃってください。
シチュなども「自分はこうしてみた」とか「こんな話あったら面白い」等あれば、脚色なんかもどんどん加えて構いませんです。