>>782さん気付いてくれてありがとう、泣いて喜びますよ。 >>783さん、乾燥ありがとう、目から塩水が止まりません。 >>粉塵爆発について なんか派手なアクションさせたかったので特に調べずに使いましたが、>>783さんの御指摘を得て調べたところ… 砂の成分、石英。酸素と珪素の化合物…ぜってぇ燃えねェ!本当にごめんなさい。 腐った話にすると言っておきながら、なんか青春群像劇みたいになってしまいました。 どうしよう…         砂に埋もれた鈍色  2 「アンタ…神様見なかったかい?」 モロクから遥か東、ソグラド砂漠の奥地に聳える石造りの古い要塞跡、石段に横たわるみすぼらしい乞食は、その地を訪れる者全てに同じ質問をしていた。 観光や商売で来ている物達は皆、彼の言う事になど耳を貸さず、ある者は唾を吐きかけ、ある者は罵声を浴びせて追い払おうとする。 しかし、その日やってきた、二人の若い盗賊を連れた黒服の一団は違った。 「神様はいるよ、神様は偉大だ…慈悲深く、大金持ちでサディストだ」 彼らを率いる黒髪の女は、そのみすぼらしい老人の前に屈みこんでそう言う。 すると老人は目の色を輝かせ、手に持つ物乞い用の金属製の壷を、石段の上に三度打ち鳴らした。 ゴゴっ… と岩のなる音と共に、石段の一部が動いて階段が現れる。 この乞食の老人の本当の使命は、この地を真の目的で訪れる者達に道を示す事。 「今のは合言葉なのか?」 女の後に続いて入り口に入った、大将と呼ばれる盗賊の若者の問に対し、前を行く女は振りかえらずに答える。 「ここに興味本位で来る者の多くは、この要塞跡の本当の入り口を知らない…知っている人間は即ち、我々の仲間か、我々に本当の“用事”がある者だけ」 「用心深いこったな」 大将の後ろから着いてくる、帽子を被った嫌らしい顔の男は軽口を叩いたが 深い深い闇の中へと没していく彼らは、既に過去の自分たちと決別する決意を固めていた。 「誓いの儀式を執り行なう前に、やる事がある…二人とも服を脱げ」 「は?」 黒髪の女の口から出た奇妙なセリフに、大将はポカンと口を開けて硬直するが、帽子の男が嫌らしく 「ナニの相手でもしてくれるのかね?」 等と吐いた為、鼻の上を赤らめてそのわき腹に肘鉄を加えた。 しかし黒髪の女が顔色一つ変えず 「そんな所だな」 と言い放った為、二人は仕方なく服を脱ぎ、下着も脱いで産まれたまんまの姿となった。 もちろん黒髪の女は顔色一つ変えず、見なれたものを見るように彼らの体を眺めまわし 「悪くない」 等と色気もそっけもない声色で独り言を呟いた。 「さて、それじゃ始めるか…この扉の向うには天国がある。お前らはそこで1日過ごせ。好きな事を好きなだけしろ…」 女が鉄製の重い扉を開くと、その先の部屋からは甘い蜜と女の汗の香り、それとハシシの特徴的な臭いが漂い、二人はその光景に唖然とした。 そこでは何人もの若い娘達が、二人と同じく裸で寝そべり、互いに絡み合い、蜜入りの酒やハシシを口移しで中に流し込み合っていた。 彼女達は皆虚ろな瞳を、快楽におぼれたトロンとした目を、新たに現れた二人の若者に向け、そして両手を伸ばして仲間に入るように誘う。 「こ、これは?」 呆然と立ち尽す大将は、口をポカンと開けて目を丸くした。 それに反し、帽子の男は醜く口を吊り上げて邪悪に笑う。 「ほんと、悪くない」 帽子の男は大将を一人置いて、一足先にその女肉のうねりの中に身を委ねた。 すぐにもその首や腰に女達の手が絡みつき、舌で、手で、性器で愛撫を始める。 「そんなトコで突っ立ってないで、大将も入れよ、うひゃひゃひゃ!」 重なり合った女達の間から伸びる、帽子の男の毛深い腕は大将を手招きするが、その腕にも次々に女達が群がり、指をしゃぶった。 未だ状況が呑みこめぬ大将であったが、女が二人やってきて大将の手を取ると、また新たな若者を捕らえる怪物のように、女達の中に引きずり込んでいった。 蜜のような酒やハシシを浴びるように呑み、女達との乱交による快楽に溺れる二人は、いつしか麻薬の効果からか、今跨っている相手の顔も判らぬほど意識が朦朧とし始める。 やがて時間の感覚は失われ、女達の体は一つの肉のうねりとなり、その中で思考の途絶えた二人は、ただ流される流木のように漂いつづけた。 「あ…」 ふと、帽子の男が一時だけ我に返り、今自分に跨っている、まだ十二かそこらの赤毛の小娘に気付く。 少女の瞳に光は無く、薄ら笑いを浮かべ、だらしなく開いた口からは涎を垂らしていた。 その、まだ失ったばかりの“小娘”には、紛う事なく彼の男性が突き立ち、破瓜による少量の血が痛々しく流れ落ちていた。 「これ…ク…スリ……使い過ぎ…じゃないか?」 「ハァ、アハハ…アハハ…」 恐らくは、ここの女達は全て、どこかから攫われて来た娘達で、この儀式の為に薬を飲まされて性の道具となっているのだろう。 良く見れば既に正気を失い、呼吸さえ止まって冷たくなっている者もいる。 だが今の二人は、そんな事を判断できる精神状態ではなく、ただただ欲望の望むまま、乱交の宴を続けるのだった。 丸1日経つと、彼らの体から女達が離れ、時が来たのを知った二人は裸のまま立ちあがり、いつのまにやらその部屋に入ってきていた、神官のような服装をした者の前に立つ。 その神官の声は、ハシシで朦朧とした二人の意識の中に自然と流れ込み、それに対する回答も何の抵抗もなく口から流れ出る。 「あの天国は、夢か真か」 「「アレは…夢…」」 「お前達は、天国を望むか」 「「私達は天国を望む…」」 「お前達が手に持つのは何だ」 「「短剣と、毒薬…」」 「お前達が誓うのは何だ」 「「アッラー(神)への忠誠」」 「お前達は、何者だ」 「「私達は、フェダーイー(献身者)」」 「ふぇだーいー……イヒヒヒ!」 神官と二人の誓いの儀式に割って入るように、先ほどの女達の一人… 帽子の男に散らされた赤毛の少女がやってきて、彼の腰に抱きつき、狂った表情で笑うと神官を睨みつける。 神官は調子を狂わされたかのように顔をしかめ、儀式を中断したが、それを察した帽子の男は 「この小娘も誓うって言ってんだ…」 と嫌らしくニヤついて説いた。 神官は心底不満そうな表情をしながらも、儀式の最後の言葉を苛立たしくまくし立てる。 「アッラーアクバル(神は、偉大なり)」 「「アッラーアクバル「あくばる」」」 儀式を終えた二人の若者…と、気の触れた赤毛の少女は こうして『アサシン暗殺教団』の構成員となり、その血生臭い活動に身を置く事となった。 儀式を終えたとは言え、二人(三人)はまだ正式にフェダーイーとなったわけではなく、彼らをスカウトした「先生」と呼ばれる黒髪の女によって、連日実戦並の訓練を行う事となった。 彼女はアサシン暗殺教団内において、一二を争う実力の持ち主であり、教団内における最高の称号「クロス」を冠するのも時間の問題とまで言われていたが、そんな彼女が何故今になって教え子を持とうと考えたのか… 他のフェダーイーや神官達は、その真意を未だ伺う事は叶わなかった。 「おらおら!休んでんじゃないよ!」 「勘弁してくれよな“先生”」 既に一撃目で沈められた帽子の男は、床に無様に転がってうめいていた。 しかしフラ付きながらも何とか立っている大将に、先生は心臓も凍るほどの冷たい声で放つ。 「お前ら二人でやっと一人前の出来そこないさ、だったらそれで何とかしてごらんよ。今までそうやって来たんだろう!それともマスこき合ってただけなのかい?」 「クソアマが、一発こますか」 帽子の男は床に血を吐き、大将のすぐ後ろに回って小声で洩らす。 「大将やれ…俺が隙を作る」 「やっとその気になったのか?一太刀でも浴びせられたら相手してやるよ…」 二人が前後に並び、丁度帽子の男が大将の背後に消えて見えなくなると、先生は少々の期待を覚えながら挑発的に放った。 『さぁて…見せてもらおうか?』 「ぐあっ!?」 突然大将の表情が凍りつき、その場に膝をついて倒れこんだ。 その苦悶の表情は到底演技とは想えず、実際その背後にいる帽子の男が持つナイフからは真っ赤な血が滴り落ちていた。 「何?」 あまりの出来事に先生は硬直し、一瞬だけ隙を作る。 それを見計らったように、激痛に歯を食いしばりながら大将は飛び出し、傷口から血を滴らせながら先生に一刀を振るうが しかし先生はそれを寸でで避し、逆にその刺し傷のある右わき腹の辺りに膝蹴りを加えて、それで大将を完全にKOしてしまった。 「あらら?失敗かよ」 「…」 軽い口調でそんな事を抜かす帽子の男を睨みつけ、そして得物を外した先生はその醜い顔面に鉄拳を加えた。 鼻の骨の折れる音と共に、帽子の男はその場に崩れ落ち、先生はそんな彼に唾を吐きかけると 「クソ野郎が、良くやったな。私じゃなかったら巧く行ったかもね…でも後の事を考えな!お前大将無しでどうするつもりだ!」 「先生…それより俺の事助けて…死ぬ…」 弱々しく悲鳴をあげる大将に対しても容赦なく、先生は罵声を浴びせる。 「大将ももう少し相棒の事“考えた”方が良いよ、特にこんなクソ野郎はね!」 そして二人を置き去りにしてその場を立ち去ってしまった。 「いてぇ、鼻折れてら…“機嫌が良い時”で助かったぜ」 「おおおおいいいい!俺を助けろ!本気で刺しやがって!」 「おっと、すまんすまん」 帽子の男はようやっと立ちあがると、傷口を抑えてのたうつ大将を医務室まで引きずっていった。 大将は出血多量で生死の境をさ迷い、三日ほど寝たきりの状態であったが、そんな目に合っても尚、帽子の男とのコンビを解消する事はなく 見舞いに来た帽子の男の顔に強烈な蹴りを加えただけで、次の日からはまた共に先生との地獄の訓練を再開した。 「アハハハハハハハハ!ギャハハハハ!あの短小野郎は何処だい!こいつで噛みきってやるよ!」 暗い廊下を行く二人は、キチガイ染みたその黄色い声にウンザリしたように顔を顰め、 また同時に、その声のする部屋の前で腕組している先生の、心底苛立たしげな表情に怯えた。 「…お前達、責任持って“あれ”の世話しな」 先生が親指で示す先には、例の気の触れた赤毛の少女が、与えられたばかりの得物…彼女が自ら“腐れマラ”と呼ぶジャマダハルを振りまわし 「出て来なFU○K野郎!アタシの“腐れマラ”があんたの血を欲しいとさ!」 と叫びながら目に付く物を片っ端から破壊していた。 それを遠巻きに恐る恐る眺めていた二人に、先生は後から冷たく洩らす。 「あの娘の教官役が、もう3人半殺しにされた。正直手におえない…お前達が引きずり込んだ以上、責任もお前達に取ってもらう…」 大将は慌てて 「俺じゃなくてコイツです!」 と帽子の男を指差し、しかし等の本人は 「冷たいこと言うなよ大将」 等とふざけて通した。 「これも訓練の内だと思え。自分らより出来の悪いガキを調教するんだ…うまく飼いならせば戦力になる」 しぶしぶ二人は顔をそろえ、新たに手にした己の武器…大将はジャマダハル、帽子の男は、御得意の麻痺毒をし込んだスティレットを二刀携え、暴れる赤毛の少女を取り押さえるべく、その部屋に足を踏み入れた。 「はっはー!見付けたよ!今まで何処行ってたのさ、待ち焦がれたよアタシは!大将とカマ掘りあってたのかい?」 「お前のアソコにゃ、トラバサミが仕込んでありそうだからな…」 「本当は仲良いんじゃないのか?」 赤毛の少女と帽子の男の腐った会話に、大将は呆れた様子でそうボヤいたが、赤毛の少女が早速、充分殺気の篭った攻撃を始めると、二人とも余裕の表情は消え(最初から余裕など無かったが) 少女のその細い腕からは到底想像できぬ、強烈な一撃を巧く避した大将は、しかし得物での反撃を加える事に躊躇っている様子だった。 「真面目にやれ大将!首もってかれっぞ!」 「殺すわけにはいかないだろ!」 「アヒャヒャヒャ!ごちゃごちゃ言ってると、女の子にしちまうよ!」 ジャマダハルの一撃が危なく喉を掠め、仕方なく大将はその避した左腕を掴んで力任せにねじ上げた。 関節の外れる音と共に、少女は悲痛をあげながら床に倒されるが、それでも彼女の戦意は失われず、この上なく下品で下劣で汚らしいセリフを吐きながら、凶暴に牙を剥いて噛みつこうとする。 「放せオカマ野郎!その○○○噛み千切ってやる!マタも食わない腐れ○○○め!あたしのアソコには歯が生えてるんだよ!」 「いい加減黙れ病気持ちが!」 すかさず少女の上に跨った帽子の男は、その右肩辺りにスティレットを深深と突き立て、その刀身に塗られた毒が全身に回るとようやく、赤毛の少女は大人しくなった。 だが少女は突然甘い声を挙げ始め、自分の右肩から流れる血を見て、興奮したように頬を赤らめてそれを舐めようとする。 「おい、コイツ…」 「…ああ、濡れてるな」 帽子の男は何のためらいも無く、少女の服の中…秘所に指を突っ込み、そこから漏れる体液を確認して色気も無く答えた。 「お前、何とかしろよな…」 「何で俺なんだよ!」 「お前にナツいてるから」 大将にそう言われ、帽子の男はしぶしぶ、自分の血をいとおしそうに眺めながら発情する少女の赤い髪を乱暴に掴み、御望み通りレイプ紛いの交わりを行うべく、自分の部屋へと引きずって行った。 「まったく、ほんと女運ねぇよな」 彼らは未だ、正式にはフェダーイーでないにせよ、何度か実戦を経験していた。 それは主に、目標のいる建物の周辺監視や、師範役であえる先生のサポート等で、彼らは引率して行動しないにせよ、間近で人の死を見、時には自ら殺める事もあった。 だがそれは彼らにとって初めての事ではなく、砂漠のクズたる盗賊であった時代においても、屋敷に忍び込んだ大将が衛兵に見付かった時には、やむを得ずその初老の衛兵を刺殺し(その後大将は自責の念にかられ、放心状態が三日ほど続いた) 誘拐した名家の一人娘に顔を見られた為、身代金を受け取った後、帽子の男は大将には内緒で“口封じ”を行った事もある。 だが彼らは少なくとも“金”が目的で、又は自分の身を守るためにやったのであって、このアサシン暗殺教団のように、理由も考えず“命令”だけでの殺生を行った事はない。 只でさえナイーブな性格の大将は、四六時中自問自答を繰り返し、その度に帽子の男は呆れ顔をした。 その日アサシン暗殺教団は、プロンテラ郊外の屋敷に潜んでいた反政府組織(表向き、合法活動を行う人権団体)の掃討を行った。 確かにその屋敷には、人権団体には相応しくない、武器や無差別テロ用の「古木の枝」等が大量に発見されたのだが、そこで大将は、枝を折って魔物を召還しようとしたノービスの少年を、止む無く殺害した。 そのノービスの少年は怯えた表情で、枝を使用するのは明らかに身を守ろうとしたからだと思われるのだが、万一現れた魔物が強力であった場合を考え、合理的に冷静に判断し、その少年の命を断ったのだ。 「まだ、ガキだったじゃないか…まだ…クソ!」 「…」 いつの頃からか、帽子の男は大将には内緒で動き回り、任務において彼の“精神的な障壁”になりそうな事柄を素早く判断、それを内々に処理する…というやり方を、大将との長い付き合いの間で編み出していた。 それが彼なりの、大将に対する思いやりであり、大将も薄々はその事に気が付いていた。 先生は二人に「二人でやっと一人前だ」と言っていた通り、その事に関して口出しするつもりはなく、この二人が今まで砂漠を渡り歩いてこれた理由を正確に見ぬいていた為 あえて二人を同じ隊に組ませ、巧く歯車が噛み合うような鍛え方を続けた。 先生はいつの頃からか、二人に特別な感情を抱くようになっていた。 先生は自分の事に関して、他人に話すような事は滅多にない。 砂漠に住む者達には、自分の本名さえ他人に明かさないという因習があり、だからお互いの事に関してあまり深入りしないのが、この砂漠での重要な処世術だった。 特に先生は口が堅く、彼女の生まれや年齢、友人関係に関しても一切が謎であり、それを知る数少ない人物達も又、彼女同様口が堅かった。 だが彼女は時に、二人の訓練の合間、それと気付かぬ口調で自分の素性を洩らす事があった。 「お前達、父親の顔を忘れたのか?父親の顔も知らぬ人間はクズ以下だぞ!」 「私に愛を語った男共は、皆早死にしたな…まぁ、お前達にその心配はあるまい」 「この世の吐き溜め、ドブ川を這いずろうとも、目的を失うな、私を見ろ!」 「先生、あの二人に随分熱心なようだな」 「あぁ…可愛そうに」 「長生きできないな、あの二人」 アサシン暗殺教団のフェダーイーにおいて、最も高位の称号である「クロス」。 それは彼の教団がミッドガルドに組みこまれる前には別の名で呼ばれ(その名は現在では失われている)、その称号を得た者は、教団が何百年もの昔に編み出した強力な薬物を使用する事を許される。 その劇薬は非常に強力な毒であり、また、クロスのみが体に埋め込まれた中和剤を併用すれば、本人に比類無き膂力をもたらす増強剤にもなる。 先生は、そのクロスの称号に最も近い凄腕と呼ばれ、また… クロスの絶対条件である、“全ての感情を捨てた戦闘機械”を、初めて実現した「鬼神」であった。 「汝、全を捨てた非情の徒…汝の迷いたる、喜怒哀楽を捨て、アッラーの名の元に教祖をも殺す氷の心臓を持つ者…クロスであると認める」 「……………」 「……お前には最初から、捨てる物等無かったな…お前は我々の許可を得るまでも無く」 「いいえ…私にはまだ、切り捨てるべき者達が存在します…」 「………しかし…」 「今夜、砂漠の遺跡に2人で来い…ただし、得物は持ってくるな。丸腰で来るんだ」 先生からの、いつのものような冷たい声色での命令。 2人は少々戸惑いながらも、言われた通りの時間に、言われた通りの場所に、言われた通りに丸腰の状態でやってきた。 場所は… 先生が彼らを見初めた場所、あの砂漠の地下遺跡だった。 「そこで最後の試練を与える…その後は好きにするが良い」 嫌らしい程勘の良い帽子の男は、先生の出した条件に疑問を感じていた。 「オカシイよな、いつもの訓練だって、モノホンの得物で死ぬほどFU○Kにやりあってるのにな…フェダーイーの最後の試練ってんなら、もっとキツイもんなんじゃないのか?」 「考え過ぎだろ…」 砂を踏む音に2人が振りかえると、暗闇の中から、天井から漏れる月明かりの下に、あの先生が姿を表した… ただし、彼女の服装はいつもの黒服ではなく、極端に露出度の多い服であり、そしてその両手には、普段のフェダーイーが装備する物より巨大なジャマダハルが装着されていた。 「…先生?」 「随分色っぽいじゃねぇの、相手してくれる気になった…わけじゃねぇよな?」 「………お前達、最後に言い残す事があるなら、今の内に言った方が良いぞ…心の中でな」 大将はその言葉の意味をまだ理解する事が出来ず、しかし帽子の男が薄気味悪く笑っているのを見て、それが良い意味でない事を悟る。 「まさか最後の試練って…先生を」 「あははははは!違うぜ大将、こう言う事だ!…生贄の羊は狼に噛みつく事を許されない」 「何何だ!判るように言え!」 「お前達は羊、私は狼、コレはお前達じゃなくて私の試練…だから…お前達は武器を持たされていない…羊は、狼に噛みつかないから」 帽子の男は相変わらず腹を抱えて笑っているが、大将の表情は凍りつき、額から大量の汗が流れ落ちていた。 「何故だ?何故先生が…」 「クロスだよ大将!ク・ロ・ス!全ての感情を捨て、大切な物を捨て、人の心を捨てる!ク・ロ・ス!カッコイイよな!」 先生は帽子の男が騒いでる間も、せっせと生贄の準備を始めていた。 太股のベルトに刺した薬品瓶を三本とり、二本をジャマダハルに、一本を自分の口に流し込む… 「長老組は、私のクロス昇格を認めてくれた…私は両親の顔も知らないクズだ…私を好いた男は、皆私が殺した…私には…もう目的が無い…だから!」 「嬉しいね大将!俺達、先生にとってそれだけの価値があるって事だからな!おっ勃つよなぁ!」 帽子の男は台詞と同時に砂を蹴り上げ、先生の目を潰すと、大将の襟を掴んで走り出す。 「だから…私はお前達を…」 彼女の頬を流れる茶色い涙は、はたして目潰しの砂によるものか否か それは彼女自身にさえ窺い知る事は叶わなかった。 大将の先を行く帽子の男は、ただ闇雲に逃げ回っているワケではなく、彼はこんな状況であっても、その嫌らしい思考を止める事は無い。 2人は、丁度1年前に彼らが探し当てた隠し部屋…謎の白骨死体を発見した部屋へと辿りつくと、帽子の男は早速、積もった砂の下から漏れる鈍色の輝きを探し求めた… その間も大将は呆然とし、魂の抜けたような表情のまま、目は何も無い空間を見つめつづけた。 それを察した帽子の男は砂をかき分けながら問う。 「大将、お前の実力を知った上で聞くが、得物さえあれば先生をやれる自身はあるか?」 「俺には無理だ…とても敵わん」 「違うぜ大将!先生を殺す覚悟があるのかと聞いてんだ!」 「…………できるわけ」 「殺ってもらうぞ大将」 滑らかな砂の感触の中、不意に手に触れる鉄の感触。 砂の下から現れたのは、鈍く輝くスティレットだった。 帽子の男は、油状の麻痺毒が未だ光るその短刀を、大将の手におし付けるように渡す。 「俺が三度“大将”を呼んだら合図だ」 崩れかけた遺跡の石柱の上から様子を伺う先生は、月明かりの下一人佇む帽子の男を見つけるが、その少し手前の砂が不自然に盛り上がっているのに当然気付き 一計を案じて速攻をかける事を躊躇っていた。 「はてさて…目立つ所に隠れているのは大将か、単なるブラフか…そう思わせて本命か…いずれにせよ無駄な事だが」 先生はしかし、彼らが既に丸腰で無い事にまでは気付かず、不意打ちがある事を判っていながら、帽子の男の前に姿を表した。 「よう先生」 彼女の姿を確認した帽子の男は、例の如く軽薄で嫌らしい口調で会釈した。 「最初の生贄はお前だ…どうした?逃げないのか?」 先生は盛り砂の前を堂々と横切り、迷いの無い歩調で帽子の男に詰め寄る。 しかし帽子の男は、先生の冷酷な声色にも一切動じず、また例の汚らしい痰の切れぬ声で 「何で先に俺なんだ?後で隠れてる“大将”を先に始末したほうが良いんじゃないか?」 とあっさり彼の居場所をばらしてしまった。 「丸腰であっても、お前に背中を見せるほど、私はバカではないよ…今この状況なら、やつよりお前の方が薄気味悪い」 「へへ!嬉しい事言うね先生…でも本当の所はどうなんだい?」 そして並びの悪い、黄色く変色した歯をちらつかせるようにほくそ笑むと、手袋に絡んだ砂を解き解すように指を猥褻に曲げて、臭ってきそうな程ワザトらしい口調で言う。 「本当は“大将”に気があるからじゃないの?」 「…」 先生はそれでも自らを凍りつかせるように、一切表情を変えず、また歩調も緩めず、盛り砂から丁度2メートル 砂の下で隠れる大将が、飛び出してきて不意打ちするのに最適の位置にまで歩み寄ってきた。 それを確認した帽子の男は、その時初めて真剣な顔つきになり、不似合いなほど素直な声で彼女に告白する。 「先生はどうか知らんが…“大将”が先生を見る目は…女を見る目だったがね」 「………………」 帽子の男が、3度目に“大将”と言った瞬間… 先生が彼の言葉に一瞬動揺しした丁度その時… すぐ後ろの盛り砂の下から飛び出した大将は、全身に砂を纏わりつかせながら、壮絶に表情を歪ませていた。 『…無駄な事を…』 若干憂いの篭った目を伏せる先生はしかし、その大将の右手に握られるスティレットを確認した途端、伏せかけた目を大きく見開く。 後からの不意打ち、それも躊躇う先生の迎撃では、大将の動きを止める事は出来ず、彼女の繰り出した振り向き様の一撃は空を掠め がら空きになった先生のわき腹に、大将の浴びせるスティレットの一刺しは深深と突き刺さる。 「馬鹿な…そんな物を何処で…うっ!」 全身に脱力感が走り、その場で膝を突いた先生は、ようやくそのスティレットが、一年前に帽子の男をねじ伏せた時に奪った得物であることに気付く。 1年もの間、その鈍色の刀身は輝きを失わず、砂の下に埋もれて眠っていたのだ。 力なく崩れ落ちる先生を支えるように抱く大将は、彼女の顔色が青ざめ、口から泡を吹いて小刻みに震えているのに気付く。 「先生…どうしたんだ!」 「呼吸器系に麻痺が回ったんだ、このままじゃ窒息死するぜ…楽にしてやれよ」 「…っ」 何をも訴える事もなく、何の感情も宿さず、何の目的も持たない純粋過ぎる瞳を大将に向ける先生に、彼はその震える唇を近づけ、己のそれと彼女のそれが触れるか触れないかの距離で、聞き取れない程の小声で洩らす。 「何故…こんな事を」 先生の胸に深深と短刀が突き刺さり、真っ赤な血が彼女の白い素肌を紅く染めていく。 滴る血は足元の砂に染みこみ、先生の体はその上に、糸の切れた人形のような奇妙な格好で倒れ、それきり動かなくなった。 「あっ…うぐっ…ううぅっ!あ…ぁ…ぁっ…」 大将の小刻みな嗚咽が遺跡に響き、天井から零れる月明かりは、黒髪の女の骸の隣で、正座したまま泣きじゃくる青年の姿を照らしつづけた。 「なぁ大将、お前がその気なら、まだ遅くは無いぜ…」 「ひぐっ!…うぇっ…」 帽子の男の手が肩に触れると、大将は涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔を上げたが、そんな彼に対して帽子の男は 「女のアソコってのは、死んでもしばらくは温いんだぜ」 と、不謹慎極まりない暴言を吐き、それを聞いた大将は猛烈な勢いでその外道を殴り倒すと、その上に馬乗りになり、顔面を力いっぱい殴りつづけた。 一発殴るたびに顔が歪み、血が滲み、素手で殴った大将の拳に歯が食い込む。 大将がこの男を殴るのは別に初めてではないが、ここまで明確に“殺意”を感じたのは、その時が初めてだった。 が、やがてそれが無意味な感情の噴出である事に気付き、すでに虫の息となった帽子の男をそれ以上殴るのをやめた。 「気…済んだら、…加減…泣き止め…な…」 ボコボコになりながらも、その益々醜く歪んだ顔で大将を見上げ、目の回りを真っ赤にして肩で息をする大将に、至極遠まわしで曖昧な台詞を吐く。 「殺したいなら、こんな手の込んだマネしないで、飯に毒混ぜりゃ済む事だ。刃物だけが得物じゃねぇ… わざわざこんな場所に呼び出し、万が一にも生き残るチャンスを残したのは、やっぱり迷ってたからじゃないのか… ………俺は、もっと巧くやる」 2人が正式にフェダーイーとなったのは、その二日後だった。 最初の乱交シーンについて。 実在した(ひょっとして今も?)イスラム教イスマイール派、所謂アサシン団では 素質のありそうな若者を眠らせて連れ去り、ハシシュを服用させた上で、大勢の美女達と宴をさせて、この世の天国を味わわせた後 「あれはタダの夢だ、しかし神の為に敵を倒せば、本当に天国へ行ける」 と言って洗脳し、死を恐れぬ暗殺者にする、っつう嘘か本当か判らん言い伝えがあるそうです。 しかしアサッシンの語源である、ハシーシュン(ハシシを吸う物)の名の通り、実際に暗殺を行う前にハシシを使って恐怖心を麻痺させたそうです。 モンゴル軍がトルコに攻めこんだ時、アサシン団はテロで対抗、コレに対してモンゴル軍は徹底的に皆殺しで応酬し、壊滅させたといいます。 アサシン団の本拠地を破壊した際には、乱交に使われた宮殿が見付かったとか無いとか… 先生について。 csf:0z0871l ベータテスタでアサクロ子実際に見たわけじゃないんですが、あの服装はエチィですね。 転生システムそのまま書いたら、アサクロになるためにノビ(ロリ)化して初めからやりなおす先生を、マスクドと大将が都合良く育てる為に調教するアレな話になりますが(PAM! ごめんなさい。 「俺は、もっと巧くやる」 この最後のマスクドの台詞は、二つの意味があります。 一つは、大将に対して「先生は俺達を完全に捨て切ったわけじゃない」って慰める意味。 もう一つは…2人のその後を知ってる人なら、だいたい判りますね。 って説明しなきゃいけない辺り、串の文章力の無さが露呈しますな。 csm:0x0307 csm:4p0b0x072 シフ時代の大将 とマスクド(マスク無し) 後1話で終わりますね、あの話です。