「雨の日」&「裏切り者の子守唄」コラボレーション企画作品 『青空に響く鎮魂歌』 第四章 凶刃と狂人 私の目の前に現れたのは意外な人間だった。 「そこまでだぜ師匠」 目の前には、奇妙な鉄塊を構えるブラックスミスが立っている。私の『元』弟子だ。 「鉄仮面のブラックスミスが傭兵連中の中にいるって聞いてね。  十中八九師匠だとは思ってたけど、見事その通りだったみたいだな。  相変わらず、裏で人斬って自分の剣の性能を試すような事してるのかい?」 自分の優位を信じて疑わないのか、以前、私の元にいた時は見せた事がない、歪んだ笑みを満面に浮かべている その愚かな『元』弟子の周りにいるのは、ブラックスミスと商人、いずれも女だ。 「相変わらず女癖の悪さは治ってないようだな。そのような者達にまで己の武器を持たせるとは」 『元』弟子は、鼻で笑う。 「何言ってるんだ、銃は誰が使っても威力が一緒ってところも長所の一つだぜ。  あとな……女を寄せ付けないなんて、そんなもん今時はやらないって」 この傍若無人な態度、よほど己の武器に自信があるのか。 だが、先程の戦闘で見る限り、騎士の鎧を貫き、ハンターの索敵範囲外から攻撃可能な所などを見ると……。 「……その銃、とかいう武器か……確かに、優れた物ではあるな」 「少なくとも、師匠の古臭い剣よりは強いぜ。知らないだろけど、外にいる騎士団の連中なんて、もうほとんど全滅だ。  ロクに訓練も積んでない連中相手にな、アンタ等の後に入ってきた傭兵共も、何人か撃ち殺してやったしな」 後発部隊も、コイツ等のような銃を使う者にやられたのか。 「分かるかい、師匠、もうアンタは旧時代の人間だ。  元々、オレがここに連れてこられたのも、ミッドガルド一だったからって話からも分かるだろ」 「確かに、お前は腕こそいいが、どれも小手先の代物ばかりだ。  魂が籠もってないんだよ、業物を作れない職人など……」 「魂だかなんだか知らないが、試し斬りだとかいって、人間を何人も斬ってるアンタよりはマシだと思うがね。  それに……オレは職人じゃない、技術者だ」 なげかわしいな、このような理解のない弟子をとってしまうとは……それでもお前は人殺しの道具を作る人間か。 「剣のよさが分からぬ弟子をとった私はなんと不運なことであろうな」 「言い残すことはそれだけですか? お師匠様」 空気が変化する。 向こうはもうこちらを殺すつもりだ。 こうなると退く事は不可能。理由は幾つかある。 第一に、退けば死ぬ、私は足が速いわけではないし、背を向けるとアレがイマイチ作用しづらい。 第二に、『元』弟子にコケにされたまま退くというのは癪に障る。 そして第三に……面白いじゃないか、私の武器とお前の武器、どちらが優れているか勝負という事だな……。 私は剣を構え、全力で突撃した。 「撃て」 幾つもの耳につく音、狙いはどれも正確に胸部を狙っている。衝撃が体を揺らし、肉と骨が軋む、だがそれだけだ。 命中するたびに体は後方にとばされそうになるが、私の突撃はそんなことでは止まらなかった。 「……なっ!……おい、なにやってるんだよ……もっと撃て!」 撃たれても倒れない私を見て、あの男、そして二人の女も顔色が青くなってる。アイツはそうだ、いつも肝心な所で取り乱す。 「な、なんで倒れないんだよ……どんなヤツだって……」 私とて、古代の武器相手に、無策でくるつもりなどない。 銃に対抗するための物があるはずと考え、文献をあさってみたら、案の定、防弾チョッキというものがあった。 まぁ材料や加工法には多少手間取ったが、やってできないこともなかった。 痛い事は痛い、しかし、騎士の鎧を貫いてダメージを与えた事を考えれば上出来だ。 無論、私が被っている鉄仮面も銃弾では貫けないように作ってある。 加えて、銃の扱いこそ慣れているものの、戦闘に関しては素人の集まりであるアイツ等は、頭か胴体ばかりを狙ってくる。 己の武器の本質も分かっていないヤツらには過ぎた玩具だということだ。 距離はどんどん近づくというのに、ヤツらは銃を離そうとしない。 バカめ その武器は一定の距離があってこそ真価を発揮するものであろう。 盲目的に至高の武器と信じているのか? 「く、くるなバケモノ!」 ブラックスミスの女がそんな事を言い放った。バケモノとはひどいな、これでも人間だぞ。 『元』弟子も近くにいるが……決めた、お前から切り刻んでやろう。 女に再び引き金を引かれる前に剣を振り下ろした。 大きく開かれた女の胸元が更に大きく、はらりと開かれる。 日焼けした肌と、白い胸がよく見える。そこへ一本の線が引かれる。 それはすぐさま赤くなり、華を咲かせる。真っ赤な血の華を。 その華からあふれ出る赤い蜜が私の全身を濡らす。 剣を伝わって感じる、肉を裂き、骨を砕くこの感触。 そして全身に浴びる返り血の匂い。 この感触を味わってこその殺し合いであろう。 なにが銃だ。 返り血を浴びることもなく、遠くから殺すことになんの意義がある。 「あ、あぁ……あ………」 遅れて聞こえる女の弱々しい喘ぎ声。 少し浅かったか、即死する程の傷ではなかった。 放っていても、すぐに死ぬだろうが、念のため、止めを刺すことにした。 剣は女の胸を貫く。 ごぼり、という音が女の口から漏れ、吐血した。 心臓から少しずれて肺を貫いたようだ。やれやれ歳を取ると狙いが粗くなるな。 少し刃をずらすと、女の体が一際震え、動かなくなった。今度こそ止めを刺した。 「次はお前だ」 「ク、クソジジィがぁぁぁぁぁ!!」 完全に正気を失った声が狭い廊下に反響する。 距離が空いてるわけでもないのに、アイツの撃つ弾はまるで当たらない。 やはり武器を持つ者の要素も大きいな。 こんなことではどちらの武器が優れているか、というよりも 私と『元』弟子のどちらが優れているか、になってしまうな。 距離はどんどんと近づいてくる。 『元』弟子はいつの間にか泣き崩れている。 だが、泣いたからといって容赦するほど私はお人好しでも寛大でもないのだよ。 一振り、剣を振るうと先程のように線が引かれる。 鼻の上、目の下、そう、その辺りに引かれた線から、『元』弟子の頭部は半分となった。 頭蓋骨をも難なく切り裂けるとは、今回の剣は成功作だな。 ゆっくりと頭部の半分がずれ、そして、床に落ちる。 お前にも、狂気があればいい鍛冶屋になれたんだが……残念だな。 さて、残るは………あの少女だけか。 商人の少女は、腰を抜かしたのか、床に座り込んでいる。 私がゆっくりと近づくと、逃げようとするものの、座った状態でそんなことなど出来るはずもない。 「た……助け……い、命だけは……」 もう少女はもう抵抗する気すらないらしい。 さっきは随分と元気がよさそうに見えたが、顔色も悪い。 だが、人に武器を向けておきながら今更それはないだろう。 「お嬢ちゃん、武器を持つだけならまだしも、それを人に向ける、と言うことは自分が死ぬことも覚悟しなくちゃいけないんだよ。  それを分かってない人間が多いから、世の中が乱れ……いやいや、そんな事はどうでもいいか。  どうも歳を取ると話が説教臭くなってきて参るな」 「ご、ごめんなさい! ごめんなさい! なんでもしますから、助けて!」 「ふむ」 見れば、本当にまだ幼いな。 こんな子供を切り刻むのはあまり趣味じゃない。 「そうだな……君みたいな子供を切り刻むのはあまり気持ちがよくないな」 少女は期待している。私が許すことに、私が背を向けることに……しかし、その意味は…… 「だが、だからといって、私が油断したところで寝首を掻こうなんて考えるなら話は別だ」 僅かに震える少女の体、表情も固まり、私を凝視する。 「まぁ、せめて一瞬で殺してあげよう」 少女は私に向かって銃を向けようとしたが 少女の首が宙を舞う。 ああ、やっぱり子供の骨は柔らかいな。 抵抗がほとんど無い。 地面に落ちた少女の首は、殺意に満ちていた。 今までも、その幼い容姿を武器に、何人もの人間を殺してきたのだろう。 だが、そんなものが通用するのはあの騎士やモンクのようなお人好しだけだ。 そういう意味では、彼女もここに来るべき人間ではなかったと言うことだな。 それはそうと……これで終わりか? 周囲を見渡しても、あるのは三体の死体のみ。 まだ足りないな、この剣も、まだいけるはずなんだが……。 もう少し探してみるか……。 「はあぁぁっ……」 今日は何回目になるのか分からない溜息をつきながら、僕はお姉さんと一緒に歩いていた。 それにしても……これからどうなっちゃうんだろう。 確かに大将を更正させる目的は変わらないけど、このまま政府の人達を撃退なんかしちゃったら それこそ国を挙げての大騒動になっちゃう。もしそうなったら……。 「はぁぁっ……やっぱりこんなことしてるから……」 隣のお姉さんは、特に何も言わずにただ僕の前を歩いている。 「大将、なんでこんな事するのかなぁ……」 こんなんじゃ地獄行き決定もいいところだよ。 「でもねぇ、ヴィンセントちゃん、私は……大将のやってる事が必ずしも間違ってるとは思わないのよ」 な、なんて言ったんですか、お姉さん? お姉さんの顔を見たけど、別にふざけているわけじゃないらしいけど、だったら尚更……。 「なんでですか! あんな、あんな恐ろしい物作って……そのせいで死んでる人がたくさんいるんですよ!」 そうだ、今日だって……あんなにたくさん……お墓が出来て……。 「そうね……これは、確かに、持ち主が誰であろうと、引き金を引くだけで人を殺せるだけの力があるものね」 そう言うお姉さんの手には、いつの間にか……あ、あの銃が握られていた。 「でもね……弱い人間が、強い人間に刃向かう為には必要な物かもしれないのよ。  私は……あんな商売してるから、面倒な事って結構多いのよ……この目も、そういう時にこんな風になっちゃったわけ」 そう言って眼帯を指さすお姉さんの顔はどこか……悲しそうだった。 「でもね……私は、その時、銃を持っていたから、目だけで済んだ。もし、銃を持ってなかったら……死んでたかもね」 意外な事実だった。 もしかすると、そんなに意外な事じゃないのかもしれないけど……僕にとっては、意外…だった。 「確かにいい事じゃないけど……でもね、私みたいな、ろくに力もない人間でも  自分より強い者から身を護る事が可能になる物なのよ、コレは」 「そう……ですか……」 大将を見てると……ただの人殺しの道具にしか見えなかったけど……でも、この人が言うと まるで違う物に見える……不思議だなぁ……。 「………そう、ちょうど今みたいな時ね………」 お姉さんの目は、何かを睨んでいるようだった。 「……政府と闘うって事ですか?」 「ヴィンセントちゃん、下がってて」 お姉さんは前を向いたまま僕の方を見てない。 それに……なんだか話が食い違ってるような……。 「どうしたんですか?急に………」 お姉さんの視線の先を見て、ようやく僕は、話の筋が理解できた。 廊下の向こうにいるのは……鉄の仮面をかぶった赤いブラックスミス。 赤い……なんでだろう? 剣を持ってる……こっちを見てる。 ああ、赤いのは血か……じゃあ怪我してる……。 怪我……をしてる割には随分と足取りはしっかりとしてるな。 そっか、あれは返り………。 「まさか、あの人……」 「少なくとも、このギルドの人間じゃないわ」 お姉さんはそう言って銃を構えた。 「動かないで! 動くと撃つわよ……」 仮面の人は全然止まらなかった。それどころか、こちらに走ってきた。 お姉さんは、辛辣な顔をして……。 「……ッ!!」 けたたましい音が鳴り響いた。 ブラックスミスの動きは止まった、ように見えたけど……き、効いてない、またすぐに走り出した。 「じゅ、銃ってそんなに威力がないんですか!?」 「そ、そんなはず……だって……あの時は……」 お姉さんは困惑している。 「ええい!!」 二度目の銃弾は当たらなかった。 仮面の男は、その間にも近づいてくる 「この!!」 三発目、今度は当たったけど……やっぱり少し動きが止まるだけで、倒れたりはしない。 しかも、そんな事を繰り返してる内に、ブラックスミスは、もうお姉さんのすぐ側にまで近づいていた。 お姉さんはもう一度撃とうとしたけど……。 「無駄だ」 仮面が何かをしたと思ったら、お姉さんから血がいっぱいあふれ出ていた。 「う………あ……」 お姉さんの体が崩れ落ちるのが見える。 そして更なる返り血を浴びた男が………。 「さてと……次は君か……」 仮面越しの視線に……僕は動けなくなった。 ヘビに睨まれたカエル、そんな感じだろうか、体が全く動かない。 まばたき一つできない。 男が近づいてくる、近づいてくる…… 逃げなきゃ……逃げなくちゃ……逃がして…… 「あ……あ……」 「そう怯えなくとも、痛みを感じる暇なんてないから大丈夫だ」 違う、そうじゃない。 そう言いたかったけど、言えなかった。 言っても無駄、無駄……死ぬ、殺される……ころ 急に男の動きが止まった。 「……ヴィンセントちゃん……早く……逃げ…なさい……」 「ほう」 男の背後にいたのは……お姉さんだった。 「え、で、でも……」 「いいから……早く……」 お姉さんの右手にはナイフが握られてた。 そして、それは……ブラックスミスの肩に刺さっている。 「……あいつにもこれくらい根性があれば……」 何だか訳の分からない事をブラックスミスが呟くと。 「君のような人を待っていた。死んでいないのであれば、私につきあって欲しい」 「ご、ごめんなさい……あなたみたいなお客さんは……お断りよ……」 お姉さんは、ナイフを引き抜き、もう一度、突き立てようとした。 「その心意気は見事。しかし、だからといって自分が傷つくのはあまり好きではないのでね」 ナイフを持った右腕は手首から無くなっていた。また血が噴き出して、鉄の仮面を赤黒く濡らす。 「な?……え?……」 ブラックスミスが肘引き、お姉さんの鳩尾を容赦なく突いた。 お姉さんは倒れ、咳き込みながらも、右手があった所を見ている。そんなお姉さんをブラックスミスが見下ろす。 「どれ、久しぶりに解体でもしてみようか」 な、なんて言ったんだろう……僕の聞き違いじゃなければ……解体って言った? 何かが空気を切り裂く音が聞こえたその次に お姉さんの左足が切断されていた。 「あ、れ……い、いいいいいいぃぃぃ!!」 「痛みを感じるのに若干の時間差があるな。では……」 「あぎゃぁぁぁ!!」 「ひぐぁぁぁぁぁ!!」 「が、が、おぉぉぉおぉぉ!…」 足が、手が、次々と切り離され、そこにいたのは、あのお姉さんだとは思えなかった。 激痛で歪みきった顔は、涙と鼻水と血でぐちゃぐちゃになり、手足が……なくて……。 「骨を斬り裂く感じ、相変わらず……悪くないな、次は………」 嫌な音がまた響いた、あの音空気を切り裂く音、その次には、必ず悲鳴の聞こえる音が響く……。 そして、お姉さんのお腹から……。 「あ、え?」 ピンク色の物が色々と見えるけど……もしかして、あれって内蔵……。 「内部に傷を付けずに切り開けたな。ふむ、距離感を掴むのに時間がかからないな」 「う、え、わ、わたしの……ないぞ……」 何? ここ、本当は地獄? 本当にこの世? あれは人間? 「最期に一つ、小耳に挟んだ事なんだが、試させて欲しいんだ。  真偽のほどは定かではないが……魔剣と呼ばれる剣は女陰の血を好むと聞いたんだが……」 「う、うそ……も」 「作りたいんだよ、魔剣とまで呼ばれる剣を」 ぐちゃりと何かを潰す音が聞こえる。 お姉さんは……あんな所を……刺され……。 「うぐぎゃぁぁぁがぎぃおぉぉぉ!!」 「痛いだろうが我慢してくれ。少し試して見たくてね」 何時か言われた、大将の言葉が頭に浮かんだ。 ギルドの連中にバラされるのもイイかもな。やつら凄ぇぞ、生きたまま腹裂いて内臓引きずり出すんだ。んでもって死体を犯… 目の前で繰り広げられているのは……それ以上……。 足も手も切断されたお姉さんは、お腹を切られて、内蔵を……そして……剣で………。 「が!……あがっ!……あああぁぁ……あ………………」 お姉さんは急に……動きが止まった。白目をむいたまま、動かなく……。 「死んでしまったか」 お姉さんは、手足がなくなって……お腹を開かれて……あそこを……。 「さて、今度は……」 …なんで……こっちを見てるの?……まさ、か、こ、今度は……ぼ、ぼくに………。 近づいてくる、近づいてくる…逃げなく……あれ? 僕、背が低くなった? ち、違う……座り込んでる。に、逃げなくちゃいけないのに、逃げなくちゃいけないのに…… 嫌だ、そんな振り上げないで……嫌、嫌……。 ……え……剣を……落とした。 イかれてやがる。 ハンターを仕留めてから、戻ろうとしたら、技術者を含めて三人も殺られていやがった。 嫌な予感がしたから来てみれば、オレから少し離れた場所に立っているのは妙な格好をしたブラックスミス。 そして、その近くにいるのは、アホライトとあの娼婦の女……なんだが、娼婦の方はすげえ事になってやがる。 達磨にされた上にはらわたが丸見えだ、それに、妙な所から血が吹き出てる。 あの仮面野郎、相当キレてやがる。放っておくとオレまで危ねぇ。 オレは、迷わず何発か撃った、が、やっぱりうまくいかねぇ。 胴体を狙ったつもりが剣を持った腕に一発あたっただけだ。向こうは得物を落としたけど、致命傷じゃねぇ。 ちくしょう、もっと練習しとけばよかったか? 気配を殺していたから、気付かれなかったが、向こうもこちらを確認する。 いや〜な感じだ。背筋が凍るのなんて何年ぶりだ? ……仮面越しでも分かるな、ありゃあ元PKだ。しかも、かなりえげつねぇ部類に入るぞありゃ。 政府の連中の考えそうな事だ、言うことを聞く犯罪者を使って犯罪者狩りかよ。 オレが銃を向けてるってのに、あの野郎、無事な方の腕でのんきに剣を拾いやがる。 チャンスかもしれねぇが……弾、もしかしたら撃ち尽くしちまったかも。 だからといって、あんなブチ切れ野郎なんかと接近戦なんて怖くてできやしねぇ。 「て、敵だ! こっちにもいるぞ!」 オレがさっき連れていたギルドの連中がようやく来た。 そうだな、危険なことは他の連中に任せるとするか。 多勢に無勢、と言ったところか、ブラックスミスは適当な通路に逃げ出した。 「あの野郎逃がすなよ!」 とりあえず一言そう言ってやる。 んで、この場に残ったのは、オレと腰を抜かしたアホライトだけになったわけだ。 「……た、大将………」 ひでぇ顔だ。オレが犯してやろうとした時より怯えてるんじゃねぇか? まぁ、あんなもん見せつけられりゃ当然か。 「立てるか?」 「……む、無理……です……」 世話が焼けるが、仕方ねぇから手を引っ張ってやると、どうにか立ち上がった。 「……すいません……向こうへ……行けますか……」 向こう、要するに女の死体のある方だ。 よせばいいのに、コイツは……。 とは言え、一応連れて行ってやった。 しっかし、改めてみるとホントひでぇな。結構いい女だったのに、今じゃ見る影もねぇ。 あんまり長いこと見るにはグロすぎるものだったから、ちょっと隣を見てみれば 案の定、ヴィンセントの顔色はすげぇ悪い。 弔ってやろうって考えたんだろうが、こんなんじゃ無理だな。 ヴィンセントは口を押さえるが、握った手はオレまで震えさせてる。 無理すんなゲロっちまえよ。 「うっ!……うげぇっぇっ、おえぁぁっ!」 そんなオレの考えが届いたのか、ヴィンセントは吐いた。 オレから手を離して、両手を床について、吐き続けた。 「げほっ! うえっ……ごほっ………」 胃の中のモンを一通りぶちまけて、ようやくおさまったのか、今度は一人で立ち上がった。 が、もう女の方は見てなかった。 オレの方に近づいてきて、いきなり手を握る。 さっきよりか幾分マシだが、それでもまだ震えてる。 「知ってるヤツが殺されるのを見るのは初めてか?」 ヴィンセントは何も言わずに、少しだけ頷いた。 まぁ初体験がコレってのは少々酷ではあるな……同情するぜ。 さて、今度はコイツをどうするかが……問題だな……。 どうしたもんかねぇ……。 「さぁ、観念しろ!」 行き止まり、選んだ通路の先は何もなかった。ただ壁があるだけ。 「随分と好き勝手やってくれたようだが、ここまでだな」 銃を構えるのはギルドの人間達。 「ここまでか……」 「そうだ、お前もここまでだ」 私の出番も……ここまでだな。 「いい加減出てきたらどうだ?」 「何をいって」 男の言葉は途切れる、のど元に刺さった刃が、声を遮断したからだ。 そして、それを為したのは突如現れたのは黒装束に身を包んだ者達の一人。 「お、おい……誰だよ……お前ら……」 「あ、アサシン暗殺教団は……今、動けないはずじゃ……」 黒い者達は、紛れもなくアサシンだ。 「お前達が知る必要などない」 勝負などはじめから決まっていた。 突如現れたアサシン達に、ギルドの人間は為す術もなく惨殺される。 「私はこの辺で退かせてもらうが、よろしいかな?」 「ああ、構わん。アンタ等の陽動で、だいたい潜入できたからな」 今宵の惨劇がどのように幕を閉じるのか、それを見届けることが出来ないのは多少心残りだが さすがにダメージは大きい。防弾チョッキとて完璧に防げるわけではないし、腕と肩の傷も深刻だ。 まぁ、これ以上続けてようが、今回の作品が稀に見る傑作である事に違いない。 それだけで、十分収穫はあったと言えよう。 今回の試し切りはここまで。 さて、今日は疲れたし、帰って寝るか。