―――・・・リーン・・・ チリーン・・・ フェイヨンダンジョン地下深く 静かに、けれどはっきりと響く鐘の音 それは死者への鎮魂歌か それとも・・・  「ったく、ろくなもん持ってねぇな」 倒れた少女と、五人の男。 男の一人、髪の毛の逆立ったナイトが倒れた少女の体を探っている。 残りの四人は、少女を囲むように立ち、その様子を眺めている。 少女は体のあちこちに傷を負っているが、それを囲む者達は一人として助けようとしない。 と言うのも、その少女が『人間ではない』からだ。 普通の人間には生えていないはずの、ふさふさとした狐のような尻尾が少女には生えていた。 ―――そう、ここはフェイヨンダンジョン最下層。 少女こそ、このダンジョンの主『月夜花(ウォルヤファ)』である。 「結局、持ってたのはこのエルニウムだけか・・・ちっ、手間かけさせた割にこれかよ」 ナイトがそうぼやく。 「ちなみに、そのエルニウムも今回かかった経費でパーだ」 煙草を咥えたブラックスミスが追い討ちをかける。 言った本人も、どこか苛立たしげだ。 「おいおい、冗談じゃねぇぞ!折角稼げると思って来たのに時間の無駄だったってかぁ!?」 いかにも『悪人』といった面構えのローグが怒声をあげる。 「ところで、経費の中に僕の罠代、含まれてないなんて事ないよね?あれ結構高いんだよぉー」 他の者と、どこかずれた事を童顔のハンターが言う。 「そうだな、これじゃあ割りに合わない・・・そこでだ」 リーダー格らしきプリーストが人差し指を立て 「そこで倒れている、可愛い女狐ちゃんに、埋め合わせをしてもらおうじゃないか」 そう続けた。 薄気味悪い笑みを、その表情に貼り付けて。  「俺俺!俺が一番な!先行くぜ!いいだろ?なっ?なぁ?」 さっきまであれだけ怒鳴っていたローグはすっかり機嫌を直し、満面の笑みを浮かべている。 「うっせーなぁ、わかったからさっさとやれよ」 そうナイトが答える。 口調は荒いが、その声に先ほどのような怒気は含まれていない。 「僕もいいよー、それにこう見えても僕のは大きいから、最初にやっちゃうと広げちゃうしさー」 ハンターが幼い顔に似合わない事を言い、それに続く。 「俺はそもそも幼女趣味はねぇよ」 ブラックスミスはそっけない返事を返し 「ヤファのより、道中で拾ったもんが結構多い。  ・・・ここにいてもしょうがねぇし先に清算すましてくる、お前等勝手にやってろ」 そう言って出口の方へと歩いていった。 「けっ、女がいる奴はいいよなー。  あいつ帰ったらぜってー相棒とヤるんだぜ?あー、俺もあんな巨乳の女が欲しいわ。   ・・・で、結局俺が一番でいいのかよ」 「ん?あぁ、俺の返答待ちか?  そうだな、リーダーたる者、常にこういった場合はトリを飾るもんだと俺は思ってるよ」 遠回しな言い方で、プリーストが答える。 「よっしゃー!それじゃ早速っと」 嬉々としてローグは己の一物を出し、月夜花の腰に手を伸ばす。 「ちょっと待て、いくら弱ってると言え、相手はここの主たる月夜花だぞ?  下手をすれば、ヤってるうちに隙を見られて殺られちまう」 そんなローグに、プリーストが制止をかける。 「なんだよ、じゃあどうすんだよ?こいつに埋め合わせさせようって言ったのはお前だろうが」 「そうだな・・・こんなのは、どうだ?」 そう言ったプリーストの手には、四本の短剣が握られていた。  「ふぅっ・・・ふぅっ・・・うっ、ぎゃぅっ!」 月夜花が悲痛な鳴き声をあげる。 その右腕には深深とナイフが突き刺さり、細い腕を大地へと縫いつける楔となっている。 「よーし、じゃあ次は左腕な」 「うぎっ、ふっ、ぐぅぅっ!」 人型をした月夜花の鳴き声ほぼ人と同じ。 苦痛を訴える声は、男達の嗜虐心をそそり、背徳的な快楽がその精神を支配していく。 「へへへっ、いい声で鳴くじゃねぇか・・・次は右足だな」 「ふぎゃぁぁぁ!あうっ、ふぅぅっ!」 より大きな鳴き声をあげる様、刃先をぐりぐりと動かし、肉を抉る。 肉の抉れるぐちゅぐちゅと言う音が卑猥な恥部の音を連想させ、昂ぶった感情を更に煽る。 「・・・もう辛抱きかねぇ、さっさとヤらせてもらうぜ!」 ローグはそう言うと 「うぁっ、ふっ、あぎゃぁぁぁぁぁっ!!」 最後の一本を勢い良く左足に突きたてた。 「さて、ようやく準備も整ったわけだ、たっぷり楽しませてもらうぜぇ?」 下卑た笑いを浮かべ、月夜花の閉じた蕾に前戯もなく 一気に突き入れた。  ―――チリーン・・・ 「趣味の悪い連中なのはわかっていたが、あれほどとはな。  そろそろ本気で手を切る事を考えるべきか・・・彼女も、心配だと言っていたし」 チリーン・・・ 「ん・・・?鐘の・・・音?月夜花か?  いや、まさか・・・な。さっき倒したばかりだし、そもそもここは奴が出てくるような深部ではないし」 チリーン・・・ 「しかし、こんな気味の悪いところから、早く帰るに越した事はない。  ・・・急ぐか」 チリーン・・・  ―――鳴いていたのは、最初の数分だった。 ・・・かれこれ、あれから二時間程たっている。 最初は悲痛な鳴き声を挙げていた月夜花もすっかり衰弱しきった様子で、ぐったりと項垂れ、涎を垂らし、瞳は虚空をさ迷っている。 「あー、もう満足した、もーでねぇわ、ひゃはははっ!」 「きたねー笑い声あげんな、うるせーな。  ま、俺ももう出せそうにねぇけどな?」 「僕は飽きただけで、まだまだいけるけどなー、皆へばるの早いねー」 「お前その顔で絶倫だからな、全くアンバランスな奴」 既に陵辱をやめ、四人はその場に腰を下ろし、軽口を交し合っていた。 仮にもここはダンジョンの最深部、危険な場所のはずである。 そんな場所でこのようにくつろげるのも、彼らが何度もダンジョンの主クラスの敵と対峙し、生き残ってきたからだ。 彼らにとっては、フェイヨン程度の低級ダンジョンなど問題にもならない。 「さて、ぼちぼち始末つけて帰るか?」 ナイトが会話の区切りの良いところで、そう切り出した。 「いや、俺はまだ遊びたりないね」 プリーストがそう返す。 「なに、まだヤんの?元気だねぇ、おめぇはよ、ひゃははっ!」 ローグが茶化す。 「違うな、そんなんじゃない。もっと親睦を深める、純粋なお遊戯さ。  ―――綱引きなんてのはどうだ?綱ならいいのが、あるだろ?」  「流石に三対一じゃきついな、だが負ける気はしねぇ」 月夜花の左側の脚をナイトが。 「俺の売りは素早さとテクなんだよっ、こんなとこで負けても悔しくねぇっつの!」 「の、割にはかなり頑張ってるようだが?・・・っ、と、きついな、やはり」 「僕は筋力自信ないんだよー、二人ともがんばれー」 右側を残りの三人が持ち、綱引きの要領で引き合っている。 「ふぎっ!・・・うっ、うぁぁぁっぅぅぅ!!」 真ん中で綱代わりにされている月夜花は、再び大きな鳴き声をあげている。 先ほど貫かれた部分を中心に脚の肉が引き千切れて、そして股が引き裂かれて、激痛を与えているのだ。 腕の方はと言えば、既に邪魔だという理由で、肘から先は切断されている。 「うっがぁぁぁぁ!!くそっ!手加減しやがれぇぇぇぇ!!」 「三対一って時点で・・・できるかぁっ!」 「っ・・・がっ!!!あぎゃぁぁぁぁぁっ!!」 ゴムの切れるような音。 それに続き、地面に何かの落ちる音。 ローグの手には右脚が。 ナイトの手には左脚が。 真ん中には四肢をなくした月夜花が―――。  ―――チリーン・・・ 「ふむ、もう使えないな」 リーダー格のプリーストが、砕いた頭蓋骨の中に手を突っ込んだまま、そう漏らした。 視線の先には、四肢を失い、腹を裂かれ、臓物を潰され、頭蓋を砕かれた元生き物。 月夜花だった物があった。 「脳をどれだけ刺激しても、もうぴくりとも動かない。  完璧に死んでしまったようだな」 ―――チリーン・・・ 「そりゃぁそんな使い方してりゃ、玩具もすぐ壊れちまうだろうよ、ひははっ!」 ―――チリーン・・・ 「全くだ、原形もわからねぇ」 ―――チリーン・・・ 「裏の世界に売れる部分も、ぐちゃぐちゃだしねぇ?」 ―――チリーン・・・ 「さて、じゃあ玩具がなくなったところで、帰るか。  ポータルをだそう、皆集まれ」 ―――リンッ  「・・・あ?」 プリーストの喉から大量の出血。 本人は何が起こったのかわからないような顔で、目を白黒させながら、ただ噴き出る己の血液を見つめている。 傍には口元を血で汚した妖狐の姿。 「九尾!?あっ、ちょ、おいおい!あれじゃ死んじまうぜ!?  おいっ!回復だ!薬っ!九尾は俺がやる!」 「あ、あーうっ、うんわかった!くす―――」 刹那、ハンターとローグは大量の矢が襲った。 何本もの矢に貫かれ、二人は間も無く、ハリネズミの様になって絶命した。 「・・・おい、なんだ・・・!?この数はよぉ!!」 九尾、スケルトンアーチャー、ソルジャースケルトン、ホロン、天下大将軍・・・。 最深部に存在するアクティブモンスター達。 それらが視界を埋め尽くさんばかりの、圧倒的な数で立ちふさがっている。 「くそっ、なんだよこれは!!  蝶の羽・・・羽は、ねぇのか!?は・・・ネッ・・・!!!」  「ねぇ、結局連絡はついたの?」 「さっぱりだ、フェイヨンダンジョンの深層で別れたっきり」 「死んだんじゃない?」 「それはないと思う、連中は腕は確か・・・だからな」 「そっか・・・」 「・・・いい機会と言えば、そうなんだろうな。  元より連中とは馬が合わなかったしな、連絡がつかないのは好都合といえば好都合だ」 「うん・・・そうよね。いい機会だったのよ。  じゃあさ、前から言ってた事だけど・・・私と同じギルドに・・・さ?」 「そうだな、あの時の清算の分渡せてねぇのが気掛かりだが・・・」 「手切れ金を貰えばいいと思えばいいの!  一緒のギルドになると決まったら話は早いわ、早速メンバーの皆に挨拶にいってそれからえっと」 「あー、わかったわかった、わかったから落ちつけ、な?  ・・・やれやれ、こいつはこいつで、考えものだな」 「なんか言った?」 「いや、なにも・・・」 ―――チリーン・・・ 「ん?」 「なに、どうしたの?」 「・・・空耳だな」 「ねぇ、どうしたのってば」 「別に、大した事じゃないさ。  ・・・ほら、挨拶いくんだろ?」 「行く!」 ―――チリーン・・・ チリーン・・・ チリーン・・・ 「―――まさか・・・な」 ―――フェイヨンダンジョン 地下深く 光届かぬ 闇の底 死者の恨みが集う場所 フェイヨンダンジョン 地下深く 鐘の音響く 闇の底 生者が死者となる所・・・