雨の日外伝 〜封じたかった想い〜 オレは謀反を起こした騎士団の一派が潜伏しているという、とある都市に来ていた。 しかしながら、特に驚異のあるようなものではなく、単なる下部組織だったので、潰した後はそのまま帰るつもりだった。 だが、その都市できいた噂はオレをその場所にとどめた。 悪魔と契約を結んだ人間が処刑されるという噂なのだが それだけなら、オレは無視していたのだが、そこで予想外な人物の名前を聞いた。 それは、あの人の名前だった。 正確には、あの人と関係のある人間が処刑される、という話だったのだが オレはいても立ってもいられずに、その人物となんとか接触すべく駆け回った。 流石に、明日にも処刑される人物と見ず知らずの人間が会うことは禁じられていたが 最近、裏の仕事に慣れてきたせいか、忍び込むのは思いの外簡単で、オレは月明かりが差し込む監獄の中へと入っていった。 そして見つけた。 鉄格子の中、鎖で繋がれ、ボロ切れを纏った一人の女。 両足を鎖で固定され、毛布も何も、かけるものがないので、体を丸めている。明日にも処刑されるというのに女は眠っていた。 「……ずいぶんと肝が据わった女だな」 こちらの気配に気付いたのか、或いは独り言に反応したのか、女は僅かにこちらを見上げた。 「……あなた……誰? 少なくともここの人間じゃないよね……それとも……ちょっと早いようだけど、死神かしら?」 「……ただのモンクだ。少し、あんたと話がしたい」 そして、オレはその女性と話をする機会を得た。 オレはあの人の名前を告げ、どのような関係であったかを明かした。 「そう、あの子の知り合い……ね……。  それで? なんで私なんかに会いに来たの?」 「……オレは……あの人のことをよく知らなかった。  だから……ただ、あの人の知り合いであるあなたに興味を持っただけだ」 「私なんかに聞かなくたって、あの子に直接聞けばいいじゃない」 「……いや、あの人は……もう……」 その言葉に、表情は途端に悲しそうなものとなった。 「そう……確かに、あの子は長生きしそうにないタイプだったからね。  ああいういい子ほど、早死にしちゃうんだから、世の中嫌になるわね」 しかしながらその目には単純に悲しみだけがあるわけではなかった。 友人が死んだと言われた反応と少し違う気がしないでもなかった。 「もっとも……私は明日死ぬわけだから、必ずしも、世の中は不公平じゃないかもしれないけど……。  私が何で捕まったか知ってる?」 街で聞いた噂は、悪魔との契約だけではなかった……女であり、プリーストでありながら犯した罪。 「悪魔との契約……そして…………」 そう、それは少しばかり信じがたい内容だった。 『婦女暴行、及び殺人未遂』 オレの声と女の声が重なる。 「まぁ、厳密に言えば、悪魔じゃなくてサキュバスだけど。  ともかく、あなたなんか見ても、なにも感じないのは確かね」 笑い声を殺しながら、女は長い間、自嘲気味に笑っていた。 ひとしきり笑った後、長い吐息をついて、どこか遠くを見るような目で話をはじめた。 「あの子に、あんなことをしたのに……それでも自分の生き方を見失うことはなかったみたいね」 「あんなことを……した?」 彼女の顔を見ると、口が滑った、というよりも、わざをこちらに気付かせたらしく、力無い笑顔でこちらを見ていた。 「私は……あの子を傷つけたのよ、かなり残酷な形でね」 異様な気配の理由が分からなくもなかった。 言うなれば、萎えた狂気とでも言うのだろうか……。 全てを諦め、享受しつつも、それでいて後悔はしていない、といったところだろうか……。 「あなた、あの子のことを知りたいのね。聞いていく? でも、あなたにとって凄く不愉快な話でしょうね。  ……聞きたくなければすぐに立ち去ることをお勧めするわ。  聞くというなら、そうね……私を殺したくなったら、そうしたらいいわ。どうせ明日には処刑なんだから」 「…………」 無言を肯定ととったのか、彼女は話し始めた。それほど昔ではない。しかし、最早二度と戻らない昔話を。 私とあの子は、ノービスだった頃からの親友だった。 街角で偶然出会った、それだけの関係だったが、私達は仲が良かった。 色んな所に行き、色んな事をした。お互いに、信頼してたし、好きだった。 好きだった……ただ単純に親友ということだけではなく……性的な意味でもあの子のことは大好きだった。 毎夜毎夜、あの子のことを考えながらベッドの上で悶え、いつもよからぬ妄想をしながらも、表面上はなんでもないように振る舞った。 そんな私だったから、裏表のない、あの子に惹かれていったのかもしれない。 正義感が強くて無鉄砲なあの子。明るくて、活発的で、それでいて優しい女の子。 目が眩みそうな魅力があって、私はこの子とずっと一緒にいたいと思っていた。 程なく、あの子は剣士となり、私はアコライトになって同じギルドに入った。 あの子に言い寄る男は多く、その度にひやひやしていたが、男に構わずに私と一緒にいる事の方が多かった。 幸せだった。あの子が側にいて。 だが、そんな幸せな日々を壊すような事件が起こった。 あるギルドとの抗争中に、あの子は敵のギルドの策略にはまって、捕虜となった。 私は、ギルドの仲間に、何度も救出を提言したが、みんなは一度敗退したせいか尻込みしていた。 そこで私は、あの子を助ける為に色々な事をした。 ギルドの大部分の男達に抱かれたし、何度も危ない橋を渡り、情報を得た。 私が集めた情報と、抱いた女に対する情だろうか、ギルドはようやく重い腰を上げ、あの子の救出作戦を展開した。 元々、私は後方支援担当だったが、あの時だけは無理をして付いていった。 そう、この時、無理をいって、付いていったりしなければ、私は自分の隠された一面に気付くなんてなかったかもしれない。 私達は、ギルドの最深部にある分厚い扉を蹴破ると、そこには無惨にも変わり果てたあの子の姿があった。 原型をとどめていない服、全身に浮かび出たアザと白濁液、そして、死人のような虚ろな目。 いつも明るくて、危なっかしいあの子からは想像もつかない弱々しい姿だった。 すぐさま駆け寄ったが、私を私だと認識しているのかも怪しいほどに、あの子は憔悴しきっていた。 このギルドの連中を残らず殺してやりたいという怒りが沸き上がる中、もう一つ、私の中にある感情が芽生えていた。 あの時、私は、壊れそうなあの子の姿を見て、下半身に疼きを覚えていた。 あの子を助け出した後、私は必死になって看病を続けた。 いくら話しかけても返事が返ってこない。面白い話をしても微笑んでくれない。 そんな日が続いたが、それでも、次第に元の明るいあの子に戻っていった。 でもあの子の心にはしっかりと傷跡を残っていた。 どこか取り憑かれたように鍛錬に励んだり、本を読みあさったりするあの子の姿を度々目撃するようになったのはそれからの事で そして、最も変わったと思ったところは………。 あの子は、あの事件以来、心身が壊れそうになった時、それ以上壊れないための殻を作って心を閉ざすようになっていた。 それはとても綺麗だった。まるでガラスのケース越しに見える、脆い彫刻を見ているようで……。 手を伸ばせばすぐにでも壊すことが出来そう……でも、あの子の心に触れることはできない。 私は少しずつ自分が変わっていくのを実感していた。 時は経ち、あの子は騎士となり、私はプリーストになっていた。 あの子は元々才能があった事に加えて、あれ以来、努力を重ねていた為、凄まじく強なっていた。 でも、それだけに危険な任務を任されることが多くなり、私はそんなあの子を常にサポートしていた。 私はいつも見ていた。あの子が傷つき、悲鳴をあげ、血を流す姿を。そして、それに興奮している自分も見つけることができた。 あの事件以来、私の夜の行いの中に浮かぶあの子の姿は、いつも血まみれで、暴力的に犯されていた。 快感は以前よりも遙かに上がったが、同時に、終わるたびに、なんともいえない空しさと自己嫌悪がつきまとうようになった。 あの子をそんな目で見ている自分に、心底嫌気が差したが それ以上に、あの子を傷つけたい、という気持ちは日に日に膨らんでいった。 確かに……そういう人間がいることは知っていたが、まさか自分がそうだとは信じたくなかった。 しかし、理性では否定していても、本能は求めていた。血の滴るあの子の躰を。 「……ごめんね……あの時は、その…色々迷惑とか…心配……かけて………」 「いいの、そんなこと気にしてないから」 ある時、私があの子を助けるために、色々やっていたことがあの子の耳にはいったらしい。 ただでさえ、あの後つきっきりで看病を続けた私に対して、あの子は後ろめたいものを感じていたらしい。 「い、今更だけど……私にできることならなんだってするから、遠慮無く言って!」 それは甘い誘惑。 思わず生唾を飲み込んだ。 今すぐにでも抱きしめたかった。 すぐにでも触れたかった。 その唇に、その胸に、そして…………。 そう、以前の私なら、ここであの子にうち明けたかもしれない。 胸に秘めていた想いを。何故私がそこまでして助け出したのかを。 確かに普通とは違うかも知れないが、 だが、この時は違った。 私はあの子を、以前とは比べ者にならない程の、汚れた目で見ていたのだ。 ここで、もし迫ったら、私は私自身を抑える自身がなかった。 「だからいいって……」 そう言って、曖昧にごまかして、その時は終わらせた。 自分の言葉に悔いるような感覚があったが、流石にそこまではできない。そこまで落ちるわけには行かない。 そんな誘惑から2、3日後、私は悪魔に出会った。 いつも通り、残虐な想像を糧に自慰に耽っていた夜。絶頂を向かえた私は、いつも通り、底なしの罪悪感に陥っていた。 「……最低………」 ただの独り言のはずだった、だがこの時は返事を返す者がいた。 「あら? そうかしら?」 私しかないはずの空間に、私以外の誰かの声が響いた。見れば、窓際に女が一人いた。 妖艶な雰囲気を纏った美女。しなやかだが肉感的な躰を持ち、その顔はどんな男でも吸い寄せられてしまいそうな程に美しい。 実際、私もしばらく見とれていた。しかし、それ以上に目立つものは……背中の黒い翼だった。 「そんな欲望、結構な数の人間が持ってるものよ。  もっとも、あなたの欲望は、他の人間よりも深いかもしれないけどね」 ようやく、我を取り戻した私は、そのまま女に向き直った。 「お前は……モンスターね……」 「正確にはサキュバスね」 くすくすと笑いながら、値踏みするような目でこちらを見ている。 「な、何をしに来たの……」 「あなたの願いを叶えてあげようと思って」 サキュバスが私の願いを叶える……この言葉の意味は、私をもっとも苦しめ、そして至上の快楽へと導こうとするものだった。 「私達には分かるのよ……人並み外れた欲望の持ち主の居場所が……」 「わ、私は欲望なんて……」 人並み外れた欲望、この言葉は、私を苦しめる。 やはり、私が異常なのだという事を、まさかモンスターに宣言されるとは……。 「もっと自分に正直になりなさい、同じギルドの騎士の女の子の事が好きなんでしょ」 「……確かに……あの子のことは好きだけど………」 「いいえ、違うわね……あの子に欲情してるんでしょ?」 「………」 こんな見ず知らずの、しかもサキュバスなんかに、自分の気持ちが見透かされているのは、なんとも気分が悪かった。 だが、不快感よりも、私は待ち望んでいた、後に続く言葉を。 「とことん堕としたいんでしょ、壊れるくらいまで」 「…そ、そんな……こと……」 「滅茶苦茶にしたいんでしょ?」 「違う、違うわ!」 それが本心でなかったとしても、そんな簡単に認めるわけにはいかなかった。 あの子を傷つけたいとは思うが、同じくらいにあの子を傷つけたくないという想いは、私の中に確かに存在していたから。 「あら? そうかしら? 最近ずっと見ていたけど、あなたがあの子を見つめる視線。  今まで私も今まで色々な人間を見てきたけど、あれは間違いなくサディストの目だったわよ。  うまく隠してるようだけど」 「そ、そんな……話……信じられるわけが……」 「私なら、その欲望を解放してあげられるわ」 「騙されないわよ……そんな甘言なんかに……騙されない……」 「まだ良心なんてものが邪魔をしてるのね。私が取りつけば、そんな邪魔くさいもの吹き飛ばしてあげるわ」 気付けば、サキュバスは触れるか触れないかというほどの距離まで近づいていた。 「や、やめなさ……」 あの時、私は否定しようと思えば否定できたはずだった。 例え言葉で否定できなくとも、聖職者の端くれなのだから、むざむざサキュバスに取りつかれることなんてないはずだった。だが……。 近づいてきたサキュバスの体は、私にぶつかることなく、そのまま私の中へと進んでいった。 交差する二つの体。瞬間、何かが私の中に入ってくるのが分かった。 部屋にいるのは私一人、他には誰もいない。私はサキュバスをその身に宿していたから。 すぐさま、サキュバスの影響は表れた。 次の日には、あの子の姿を見ただけで、傷つけ、汚し、犯したい、と、それ以外に考えることが出来ない自分がいた。 直視など出来るはずもなく、あの子を避けていたが、それでも躰の疼きがおさまることはなかった。 疼きなんてものじゃなかった。麻薬中毒者のように手足が震え、顔色も相当悪かったらしい。 人間が耐えられるものじゃない、理性なんかで抑えられるものじゃない。 サキュバスによって解放された欲望には勝てないことを知った私は欲望を違う形で発散させようとした。 私は仮面をかぶり、夜な夜な街を歩き回って、女の子に暴行を加えては陵辱していた。 サキュバスの影響もあるのだろうけど、私自身の中に眠っていた残酷で凶暴な面がなんの遠慮もなく表に出ているのだろう。 罪悪感は驚くほど薄れ、泣き叫ぶ女の子達をただひたすら犯すことに快感だけを覚えていた。 そんなことを2,3ヶ月ばかり続けていたが、やはりそれだけでは物足りなくなってきた。 やはりあの子を堕としたい。とことん壊したい、という欲望は高まり…… 遂にそれは実行された。 その日、私はあの子と狩りにでかけた。 最近はずっと疎遠だったせいか、あの子は快く私の申し出を受けてくれた。 それなりに強いモンスターが出現する所だったが、だいたいがあの子の敵ではなく、あっさりと倒されていた。 私は巧みにあの子から距離をとり、モンスターの集団の襲撃を機会にわざとはぐれた。 あの子と離れた私は、今日の宴の候補地を探していた。モンスターの邪魔の入りそうにない所。そして、誰も来そうにない所 一応、それらしい場所を探した私は、しばらくそこであの子を待っていた。 あの子のことだから、すぐにでも見つけてくれるはずだ。 そして、すぐさまあの子は駆けつけてくれた。とても心配しているのがよく分かった。 無理をして急いで探したのか、生傷が見え隠れし、息は荒かった。 もし以前の私なら、罪悪感を感じて、それ以上のことをすることはなかっただろう。 でも、この時の私は違った。 私のことを心配して、傷だらけになってまで来てくれたあの子を、ただ滅茶苦茶にしたいという欲望だけが私を支配していた。 「大丈夫? 怪我はない? 歩ける?」 「うん、大丈夫、怪我はしたけど、もう治しちゃったから。  でも……もう魔力が残ってないから、あなたを治療することはできないけど……」 「私なら大丈夫だから、もう早く帰ろう」 「あ、待って」 そう言って、私はあの子の手から、蝶の羽をそっと奪いとると、私はポーションの瓶を差し出した。 「ちょっとその前に、ポーションなら持ってるから、ほら………」 「私は別にいいから……」 「いいの、ここまで来てくれたんだからこれくらいは、ね」 私の強引な進めに、あの子はポーションを口に含んだ。 「別にたいしたことないのに………え………」 異変は即座に現れ、あの子は膝を突いた。 「あ、あれ?」 自分の身に何が起こったのか分かっておらず、手に持った剣と筋弛緩剤入りのポーションの瓶はそのまま地面に落ちた。 「ど、どうしたんだろ……」 そう言いながら、こちらを見たあの子は固まった。鎖を持った私の姿にしばし呆然としている。 何故そんなものを持っているのかと、ただ困惑するあの子の両手に鎖を巻き付けた。 「な、なに……してるの……」 「この前、言ってたよね、何でもするって……」 「え? ……う、うん………」 何故私がそんなことを言ってるのかよく分かっていないのだろうが それでも、あの子は、自分が言ったことはよく覚えているらしく健気に頷いた。 「私、あなたにしたいことがあったんだ……」 一通り、鎖を巻き付けたのを確認して、私は、そのままあの子を押し倒した。 「な、なにを………」 私がゆっくりと体を倒すと、目の前にあの子の顔が近づく。 これから私が何をしようとしているのか分からないのか、私を拒もうともしてなかった。 綺麗な桜色の唇を、私は奪い取った。柔らかな感触が私の唇を通して伝わってくる。 硬直するあの子の体からは、ほのかに汗と血のいい香りがした。 そして、しばらくあの子は固まっていたが、私が舌を入れはじめると ようやく現状に気付いたのか、必死になって私から逃れようとするが、主導権は私が握っている。 この体勢じゃ逃げることはできない。私の舌は口内に入り、そのままあの子の舌と絡まろうとした。 無論、あの子は抵抗したが、こういった事に免疫のないあの子を逃がすはずがなく、私は、あの子の口内を犯しまくった。 歯が当たり、舌が絡まり、唾液が混ざり合う。 激しいキスは口を切ったのか、途中で血の味がした。私は痛みを感じなかったから、多分あの子の血だろう。 鉄の味がするはずのそのキスは何故か甘いような気さえした。 「ん……むぅ………」 ようやく私はあの子の唇から自分の唇を離すと、再びあの子の唇を凝視した。 化粧なんて全くしたことのないあの子の唇には、真っ赤な真っ赤な血のルージュがひかれている。 今にも泣き出しそうな怯えた表情に、誘うような妖艶な光を放つ紅い唇。 ひどくアンバランスだが、むしろそのギャップは非常に悩ましく、私はより一層この子を壊したくなっていた。 私はあの子の鎧の留め具に手を掛けると、鎧が金属音を立てて地に落ちる。 「ちょっ……ちょっと!……やめて!……やめ……」 一気に服を、そして下着を剥がすと、白い肌が覗き、少し小振りながらも形のいい乳房が姿を現した。 そっと触れると、柔らかい感触が手に伝わる。力を込めると、込めた力以上に私の手を押し出そうとするかのように弾力がある。 「やっ!………」 あの子は目をつぶり、びくんと震えた。 赤くなったその顔には、困惑の表情が浮かんでいる。 この子は、あの事件以来、性的な事に対しては、恐怖以外に感じるものはなかった。 だからこそ、今、自分の体を蝕むものがなんなのか分かっていない。 今まであの子に見せたことがなかった、私のもう一つの顔に対する恐怖、そして、それと相反するはじめての快感。 今、私がこの子の全てを握っている、あんなにも強いこの子を私が………滅茶苦茶に出来るんだ………。 名残惜しかったが、私の手は胸から放れ、代わりに小振りなナイフが握っていた。 サキュバスの影響なのか、プリーストである私は、刃物を持つことに対する抵抗がない。 それを、あの子に見せつけるように手に取った。 「ね、ねぇ……ふざけてるんだよね?」 ここまで来て、ふざけているなどというわけがないのだが あの子は、自分を拘束し、刃物を持った私をまだ受け入れられないのかまだそんなことを言っている。 「わ、笑ってないで答えてよ!」 私は自分でも気付いていないうちに笑っていたらしい。 どうやら私は本格的に戻れないところまで来ているみたいだ。 私は鈍い色を放つ刃をそっとあの子の頬に押しつけた。 肌に触れる冷たい感触に、あの子は黙り、ただこちらを見つめていた。 何故私がこんなことをするのか、それだけが気になっているようである。 少しナイフをずらすと、あの子の頬を刃が薄く切り刻む。 表情に一層驚きが増していく。頬を裂く痛みよりも、自分を傷つけたのが私、ということに驚いている。 そして、私は頬からナイフを離すと、あの子の乳房に突き刺した。 「え……」 自分の右胸に刺さるナイフを見て、ただただ呆然とするあの子を後目に、私はゆっくりと刃をずらした。 「あ、ああぁぁぁぁ!!」 それほど深く斬ったわけではないが、やはり出血はそれなりのものであった。 ぽたぽたと紅い血が滴る白い乳房は、想像以上に私の理性を破壊していった。 我慢できずに、私はあの子の乳房に口を付けていた。 「な、なにして……い、いたい! いたい!」 乳を吸う赤子のように、私はあの子の乳房に貪りつき、血を吸い取った。 傷口を舌でいじり、血を嚥下する私は、吸血鬼の気持ちがあながち分からなくもないな、と思っていた。 「や、やめ……ふ、ふああぁぁぁっ!!」 どこか甘い響きのある悲鳴。嬌声とも言えるそれを聞いて 少し顔を上げれば、あの子の顔は、恐怖に歪んでいたが、僅かながら桜色に上気しているのが見えた。 サキュバスを宿した私の唇は、催淫効果があったらしく、今のあの子は、この異常な行為にさえ快感を覚えるようになっているらしい。 そう、あの事件以来、性的な快感など知る由もなかったあの子に与えられた初めての快感。 それが、まさか躰に傷を付けられることによって引き起こされているということに恐怖している。 相反する二つの感情の板挟みに会い、ただただ困惑しているばかりであった。 「な、なんで?……なんでこん…や! やあぁぁ……」 乳房から引き抜いたナイフを太ももに突き刺したことによって、あの子の言葉は遮られた。 弓なりに跳ねる躰を押さえながら、私は自由になった手で自分の股間に手を伸ばした。 私の秘所は、既に愛液でぐっしょりと濡れている。 そして……そろそろ頃合いか、と思い、私はショーツを取り払い、そしてそれの感触を確認していた。 あの子は、私の行動に、何かを察したのか、股間にに目が向いた。 「…………」 あの子は、私の股間を、信じられないものを見るような目で見ていた。 女の私にあるはずのないものがそこにあった。 男根とも言えなくはないが、明らか違うものだった。 サキュバスの魔力により、肥大化した陰核は、まるで男根のような形をしていた。 しかし、それだけに留まらず、表面には鋭いトゲのようなものが何本も生えていた。 まるで私の欲望をそのまま具現化したような形。 傷つけながら、犯すことのできるものがそこにあった。 「そ……そんな………」 私は意識して微笑むと、私はそれをゆっくりとあの子の秘所に近づける。 「や、止めて! そんなの入れたら、あっ!」 忌まわしい記憶が蘇ったのか、私の欲望の塊を異常な程に恐れている。 私は、そのまま空いた手であの子のショーツをむしり取り、欲望の凶器を挿入した。 「が、あがあぁぁぁ!……あっ……くっ……くはぁっ!……」 力任せに挿入されたそれは、破瓜など比べ物にならないほどの血液を秘所から溢れさせていた。 そのまま動かす程に、膣内の肉は削り取られ、秘所は瞬く間に真っ赤に染め上げられ、何度も血がこぼれ落ちる。 それはまるで紅い小水のようであり、あの子の下に、小さな血溜まりが出来上がった。 しかし、あの子の表情に変化が表れ始めた。顔は無表情に近いものとなり、反応が鈍くなっていた。 そう、あの事件以来、あの子が見つけた自我を護るための方法。 殻を作って閉じこもろうとしている。だが、私はそれを許さなかった。 「私の目を見て」 ふと、まだ反応があったのか、あの子の目がこちらに向く。 私はにっこりと微笑むと、途端にあの子の表情が元に戻りはじめる。 何かを期待する目、元の私に戻ったのではないかと願っている目。 そして、私は変化する度合いを見計らって、肉棒を突き上げた。 「あ!……がっ!……あぐうぅぅぅっ!!」 歯を食いしばって痛みに耐えながら、あの子はこちらを見ている。 期待を裏切られたことによる絶望、そしてまたも引き戻された苦痛がよく見える。 そんなあの子を見ていると、快感は加速度的に上がってゆき、ただひたすらに私は下半身を上下させていた。 悲鳴をあげ、痛みに耐えるあの子の顔は、ただひたすらに悩ましく、白い肌を彩る紅はとても美しかった。 気持ちが良かった。 背徳的な行為ではあった。だが私は、まるでこの日、この時の為に生まれてきたのではないかと思うほどの快感を得ている。 それはたった一度だけの甘いひととき、もう引き返すことの出来ない、不幸との紙一重。 そして、私はそのまま絶頂に達した。 何かが満ち足りたような感じがした。 もう、この快感を味わうことは出来ないのかと思うと、少し、寂しく思った。 だが、今はこの快感の余韻に浸っていたかった。 「な…ん……で…………」 その声は私の下から聞こえた。 痛みでまともに喋ることはおろか、まともな思考すらできないと思っていたが、あの子は、私の方を見て喋っていた。 私に、声が聞こえたことを確認すると、あの子は再び口を開いた。 「な、なんで……こんなこと……するの……」 あの子の顔に怒りはなかった。あるのは残留した恐怖と、なによりも疑問であった。 あなたが好きだから……答えは、それだけだった。 ただ、私の愛し方が異常なだけ。 なんで……こんなことしかできないんだろう私は……。 満ち足りた気分になっている私は、今更ながら謝罪をしようと思っていた。 だが、私の口から出た言葉はまるで別のものだった。 「あなたのことが嫌いだからよ」 「私のこと……が……きら……い………」 言葉を反芻すると、その意味を理解したのか、あの子から、今までの苦痛も疑問も、全てが取り払われる。 「ごめん……なさ……い………ごめ……ん……な……さい………」 何故かあの子の口から謝罪の言葉が聞こえる。 涙をぽろぽろとこぼしながら、謝り続けている。 苦痛でも、怒りでもなく……ただ悲しみだけがあの子に残っている。 それなのに……潤んだ瞳は、私の顔だけを見つめていた。 私が突きつけた偽りの現実は、あの子が自分の殻に籠もることすら許そうとしない。 私は、その殻の中に、唯一侵入できる人間だったから、あの子は逃げることすら敵わない。 悲しみを全て受け止めること以外に選択肢はなく、ただ……泣いている………。 心臓をえぐり取られるような痛みが後からやってきた。 なんで私はあんなことを言ったのだろうか? あの子をもっと壊したいから? あの子をもっと堕としたいから? それとも……私は、自分さえも壊そうとしているのだろうか? この時になって、ようやく私は自分が何をやったのかに気付いた気がした。 そっか……この子を……傷つけてしまったんだ……。 傷つけたなんて言葉では言い表せないくらいに非道いことをしたのだ。 胸の痛みは更に増し、息が苦しくなる。 涙を流すあの子を見て、まだ興奮している自分もいたが、それ以上に……もう、私はこの子を傷つけたくなかった。 あの一言はあの子を壊そうとしている。 いや、あの子あの子だけではない。私もまた壊れてしまいそうだ……。 思い出も信頼も友情も絆もそして………愛も………今まで築いてきたものが音を立てて崩れていく。 あの子はまだ泣いていた。 全身は血にまみれ、涙は未だに止まる気配がなく、私から目を逸らすことができずに、ただ泣いている。 最早、サキュバスの魔力を持ってしても、快楽すら感じなくなったのか、ずっと涙をこぼして泣いている。 何故、私が嫌いなどと言ったのか、その理由すら尋ねようとしない。 ただ、口から流れる言葉はごめんなさい、という言葉だけ。 どんな怪我をしても、強がって微笑んでくれるあの子からは想像もつかない姿だった。 自分の内側に籠もることも出来ず、ただ非常な現実を突きつけられて、壊れていくあの子を見て 私は、すすり泣くあの子の耳元ににじり寄る。 すると、先程と同じように、私の口から信じられない言葉が出た。 「あなたのことが嫌いだから、このまま殺すわよ」 まるで私じゃない別の人間が乗り移ったように、私の手は、あの子の首へと伸びていた。 非力なはずの私の手は、骨の軋みが聞こえるほどに、細い首を締め付けていた。 どんどんとあの子の顔から血の気が失せていく。 しかしながらあの子は全く抵抗をしなかった。 ただ、涙を流しながら、悲しそうな目でこちらを見つめるばかりだった。 そんな目で見られたら……私……… 殺したくなっちゃう……… ……なんで……そうなるのよ…… いいのよ、そのまま殺してやりなさい。 ここまでやっておいて、生かしておく必要もないでしょ え、私、私じゃない……… いいえ、これは私の意志、違う? 違う…………に………決まってるでしょ……… ………気付くのは案外早いわね。 なに、考えてるのよ……… あんたには手を出さないみたいだし、このまま殺すのよ…… な、なんで、そこまで………… 今更何を言おうが止めるつもりなんてあるわけないでしょ、ここでこの女は殺しておかないと厄介なのよ。 もしかして……この子を殺すつもりで私に取り憑いたんじゃ…… そうよ、近々、この辺りに手を伸ばそうと思ってたけど、こんな女がいたんじゃ、安心して狩りもできないからねぇ……… だから……この子と一番近い私に……… 今更気付いたって遅いわよ、もうあなたはこの子の息絶える心が見たくてしょうがないんでしょ もう私に逆らおう何て考えは…… ………してるの なに? なにを勘違いしてるの? 「ホーリーライト!」 『ぎあぁぁぁっ!!』 サキュバスの悲鳴が聞こえる。途端に私の体を衝撃が襲いかかった。 体内に魔を宿した私にも、当然その威力は襲いかかり、サキュバスと共に体力は激減する。 皮膚が焼けただれるような音が聞こえ、体中が不思議な痛みに包まれる。 な、なにを考えて…… そうね、私があの子を傷つけて喜んでる異常者だってことは認めるわ。 でもね……… あんたなんかにあの子は渡すつもりなんてないんだから。 「ホーリー……ライト!」 再び、私とサキュバスを光の奔流が貫いた。 や、めなさ……あんたも無事では…… 焼けるような熱さ、何かが溶けるような音とサキュバスの悲鳴が聞こえる。 さぁて、あんたの悲鳴でも聞きながらイこうかしら。 「ホーリー…ライト……」 あぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!! 三度襲いかかるホーリーライトは、今度こそ、サキュバスの意識は私の中から消し去った。 無論、サキュバスと共にホーリーライトを喰らった私の体への負担も大きく、私はどっと膝をついた。 突然の出来事に呆然とするあの子の姿を見ると、私はまだ、傷ついたあの子の肢体に興奮しているのが分かった。 「………結局、サキュバスのせいだけ、とは言えないってことね………」 軽い自己嫌悪を感じつつ、私はあの子に顔を寄せた。 目の前の突然の出来事があったにも関わらず、瞳に写った悲しみはまだ一向に拭えていなかった。 私の顔が近づくと、あの子の躰が震えた。 今度は何を言われるのか、なにを否定されるのか、とその恐怖に震えている。 「ごめんなさい」 その一言で、あの子の震えは止まった。 「さっきの言葉は……嘘よ………」 「………ホント……に?………」 瞳に僅かだが光が戻る。 「ええ、もう嘘はつかない……。  本当に……ごめんなさい……」 私が、自分の手をあの子の胸に添えると、あの子の表情は、少し不安げなものになる。 「もう……しないから……」 ヒールを唱えると、傷口はふさがり、あの子の綺麗な肌は元通りになっていた。 傷跡が残らずに治ったのは、素直に嬉しかった。 太ももにも、同じくヒールをかける。能率の悪い方法だが、私は、私が傷つけた所を、一つ一つ治したかった。 「あと、ここも………」 もう一度、入れたくなる欲望を抑えながら、私は秘所にもヒールをかける。 一通り、治療が済むと、私もあの子も、互いに何も言えなかった。 「…………」 「…………」 気まずい沈黙が訪れる。何を言えばいいのか、どう反応すればいいのか……。 ただ、どんなに手を尽くしても、もう二度と元には戻れないだろう。 それに……私自身が無事でいる可能性も少ない。 そして、それはやってきた。 おそらく、そろそろ来る頃だろうとは思っていた。 流石に、多くの女の子を辱めてきたのだ。こんな危険人物を放っておくわけがない。 最近は、誰かにつけられているのは何となく分かっていた。 何人かの足音が近づき、そちらを見れば、それはクルセイダーの集団だった。 やっぱり、悪魔を宿した人間の末路なんてこういうものなのね。 クルセイダー達は私を取り囲み、あの子と私を切り離す。私の脇では二人のクルセイダーが、両腕をしっかりと押さえていた。 そして、そんな中から、隊長とおぼしき人物が私の前に出てきた。 厳格そうな表情、どこか冷たい印象を受ける中性的な顔立ち、なかなかのいい女ね。 「何故、こうなったか、理由は分かるな」 クルセイダーの女が私ののど元に剣を突き出す。 「そうね……最近、つけられてる気はしてたからね」 「認めるんだな?」 クルセイダーの顔が近づくと、こんな状況でありながら、この女を泣かせてみたい、などと考えている自分がいた。 全く、どこまでも救えないわね。 「なにが可笑しい」 「早く私を連れて行ったら?」 涙も拭かずに、あの子はただ私を見ていた。 そして、私は……クルセイダー達に連れていかれた。 「待って!」 そう言うと、あの子は私の方に向かって駆けていた。 被害者を加害者に近づけるつもりはないらしく、クルセイダー達はあの子を押さえつけようとするが あの子は器用に間をすり抜けて、私の隣まで来ていた。 むざむざと遅れを取ったクルセイダー達は、一斉に取り押さえようと、あの子を囲もうとするが 隊長の女がそれを制した。 私は女隊長に軽く頭を下げ、あの子に向き直ると、あの子は、そっと呟いた。 「ねぇ……私のこと、嫌いになったわけじゃ……ないん…だよね……」 やはり……私のしたことは、色々と壊していったらしい。よほど自信がないのか、あの子の声は消え入りそうなものだった。 私は、出来るだけ……あの子が安心できるであろう笑みを浮かべた。 「あなたのことは大好きよ。  ただ、私は……感覚が普通じゃなかっただけ……」 「ねぇ、もう一度………」 「それはダメ」 否定をする他に方法はなかった。 「もう……会えないの………」 「会わない方がいいわ」 それに、もう会えるはずなんてない。 どうやら私にサキュバスが取り憑いていたことはお見通しらしいし プリーストで、しかも女である私がこのような罪を犯したのだ、教会が見逃すとも思えない。 私の言葉に落胆するあの子を見据えて、私は………最後の言葉を放った。 「さよなら」 私を見つめながら、あの子は何も言わず、立ちつくしていた。 クルセイダーに連れられて、歩いていた私は、ようやく、あの子がなんで謝っていたのか分かった気がした。 離れたく……なかったのかな…………こんな私でも………はじめての友達だから…………。 クルセイダー達は歩み続け、私も同じように歩んでいる。 小さくなっていくあの子を見ながら私はまた、よからぬ事を考える。 泣き顔のまま……動かなくなったあの子も……見てみたかったかもね………。 そんなことを考えてから溜息が出た。 そんな考えが浮かぶ私は……やっぱり、あの子と一緒にいるべきじゃ、ない……か…………。 今度生まれてくるときは、もう少し……普通だったらいいな……。 「一応、殺人はしてないから、結構時間がかかったけど、やっぱり処刑は免れないらしいわ……それで今に至るわけ。  どう、私を殺したくなったでしょう?」 女の口調はまるで他人事のようで、反省も後悔もまったく感じられなかった。 しかも、その顔には僅かに笑みすら浮かんでいる。 「あなたもあの子のことは多少なりとも知っているんでしょ。どんな時でも涙を見せなかったでしょ?  そんなあの子を泣かすようなことをしたこんな女、すぐにでも撲殺でもしたらどう?  あなたなら、こんな鉄格子の一つや二つ………」 「多分……」 「……」 「多分……あの人は……あなたのことを恨んではいない……」 女の顔から冗談めいた笑みが消える。 「……でしょうね……」 沈痛な表情を浮かべる女を見て、オレは……少し安心した。一応は、あの人の友人だった人のようだ……。 「オレは、正直、あんたを殺してやりたいと思ってる」 「……正直ね……」 「でも、あの人がそれをしなかったのなら、オレはなにも言わないし、何もしない」 もうここにいる必要を感じないので、そのまま立ち上がる。 「あなた……ちょっとあの子に似てるわね。  もし女の子だったら、放っておかなかったのに」 女に背を向けて、出口へと足を運ぶ。 「気をつけなさいよ。あなたも……早死にしそうなタイプだから」 入ってきた通路の前で立ち止まる。 「明日……よければ見に来てちょうだい、私の最期」 何も言わずに、オレはその部屋から出ていった。 翌日、処刑場の周囲には多くの野次馬が群がっていた。飛び交う罵声、投げつけられる石。 そんな中、あの女は、処刑台の上にいた。傍らには剣を構えた処刑人が立っており、今まさに首をはねられるところだった。 女はうっとりとした表情で、今から自分の首をはねる刃を見つめていた。 あの女は、女であれば、例え自分でも傷つく姿が見たいのだろうか。 そして、いよいよその時がきた。 女は跪き、処刑人が剣を構える。 刀が振り下ろされる直前、オレは女と目があった。 最期に、少し、こちらに向かって微笑んだ。 女の首が宙を舞った。 転がる女の顔には、もうあの微笑みは見えなかった。 何故微笑んだのか、なぜこちらを向いたのか。 分かるわけもなかったし、分かりたくもなかった。 「珍しいわね、あなたがこんなものを見てるなんて」 背後からの聞き慣れた声に答えることなく、オレはすぐさまその場を去る。 ただ、無性に嫌な想いを胸に抱きながら。 〜封じたかった想い〜    END