ファルナは「殴りプリースト」と呼ばれる部類の冒険者だ。 上等な布を使った高貴な聖職者の服装からは到底想像できないほどの 軽やかな身のこなしを持って次々と魔物を打ち倒していく様は、 彼女を「戦う天使」と言わしめるほど華麗で、そして美しかった。 今、ファルナはモロクのピラミッドダンジョンの最上階を訪れていた。 太古の昔、モロク一帯を治めていた偉大なるオシリス王が眠るこの墓には、 王と共に生き埋めにされた者達が今なお魂が浄化されないまま留まっている。 そして今、ファルナはある1体の魔物と対峙していた。 イシス・・・。 オシリス王の侍女であったが、王とともに生き埋めになった後も 呪縛から解放されず、下半身を蛇に変化させ王の墓に近づくものすべてを攻撃する魔物である。 イシスは蛇の下半身をくねらせつつ、ファルナに接近し鋭い爪の生えた手を振り下ろす。 当たれば相当な深手を負いそうな一撃をファルナはかろうじて交わし、 手に持ったソードメイスでイシスの胴体に一撃を見舞う。 「きああぁぁぁぁっ!」 強烈な一撃を受けたイシスは体をのけぞらせ、悲鳴を上げる。 いける、そう確信したファルナはさらに追撃を加えようとイシスに駆け寄る。 しかし・・・。 バシィッ! 「あぐうっ・・・!?」 ファルナは何か巨大な物になぎ払われたかのように猛烈な勢いで弾き飛ばされた。 それは、イシスの蛇の尻尾によるカウンターの強烈な一撃だった。 「く・・・」 したたかに全身を打ちつけたファルナはすぐに反撃に移るべく立ち上がろうとする。 だが・・・ イシスは凄まじい勢いでファルナに近寄り、その勢いでファルナの身体を蛇の胴で巻き取った。 「くぅっ!」 苦悶の表情を浮かべるファルナ。 イシスは自分の優位を確認したのか、笑みを浮かべると徐々にファルナの身体を締め上げる。 「く・・・う、うぁ・・・うあああああぁぁぁぁぁぁっ!」 ファルナは全身を締め付けられる痛みに耐え切れず声を上げる。 蛇の力は非常に強力で、人間の腕ほどの太さのものでさえ、簡単に猛獣を絞め殺すほどの力を持っている。 人間の胴以上の太さのあるイシスの下半身から生み出される力は想像を絶していた。 ミシミシ・・・メリ、メキ・・・ 「あ・・・が・・・ああああ・・・」 ファルナの耳に全身の骨が軋む音が伝わる。彼女の表情は苦悶に満ちていた。 如何に彼女の身体能力が高いとはいえ、全身を拘束されていては最早どうにもならない。 イシスの締め付けはとどまる事を知らず、ファルナの体に食い込んでいく。 形のよい少し大きめなファルナの胸も、イシスの蛇の体に押しつぶされ、それが肺を圧迫する。 「か・・・は・・・うああ・・・」 呼吸が徐々に困難になり、ファルナの顔は青ざめていく。 そして、ファルナが反撃出来ないほど弱ったのを悟ると、イシスは下半身に一気に力を込めた。 バキ・・・バキボキバキッ・・・! 「あ、や・・・ぎゃあああああああああああっ!」 嫌な音を立て、ファルナの全身の骨が耐え切れずに砕けた。 すさまじいファルナの悲鳴が墓全体に届くほどの勢いで響き渡る。 「ぐ・・・あが・・・がはっ・・・」 ファルナの口から大量の鮮血が飛び散る。折れた肋骨が内臓に突き刺さり、食道を逆流して 噴出したのだ。 最早正気を保っているのも難しいほどの壮絶な痛みがファルナを襲う。 「はふっ・・・あ・・・う・・・」 ファルナの口から漏れる呼吸は弱々しくなっていき、その顔には絶望の表情が浮かんでいた。 グキ・・・ゴキ・・・ イシスの下半身は力を緩めるどころかさらに締め付けを強め、ファルナの全身をさら砕いていった。 そして、ファルナが最早身じろぎすら出来ないことを確認すると、イシスはようやく彼女の身体を 解放した。 ファルナの身体は全身の骨を砕かれ、いびつにひしゃげ、あるいはあらぬ場所で腕や足が 曲がっていた。 かろうじて意識のある彼女に目に映ったのは・・・。 血のにおいをかぎつけ集まってきたマーターの群れだった。 マミーなど死人の腐臭しかないピラミッドにおいて、生きた人間の新鮮な肉は極上のご馳走だ。 マーターたちは我先にとファルナの身体にかぶりつく。 彼女の胸が、腹が、腕が、脚が数多のマーターたちによって引き裂かれていった。 徐々に食いちぎられていく。もはや痛覚すら失ったファルナの意識は、自分の身体が引きちぎられ、 咀嚼される音を聞きながら闇へと沈んでいった。