暗く、じめじめした地下水路。 遠くで水の滴る音がする。いや、滴るのは水だろうか?それとも・・・ 背後でネズミの鳴く声がした。そして何か重いものを引き摺るような音も・・・ 突如、彼女は振り向き、右手と杖を突き出した。 と同時に爆音とともに彼女の背後だった水の上に火柱が立つ。 「ぢいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」 この世のものとは思えない悲鳴を水路じゅうに反響させながら息絶える元ネズミだったもの。 彼女は満足そうにその燃え滓に近づき、少し焦げた爪を拾う。 そしてそれをバックパックに入れようとしたとき、急にあたりに腐臭が立ち込めた。 「いつのm・・・・・っっ!?」 背後にいた「もの」は彼女が声を上げるより早く、その右手に掴み掛かる。 いや、掴み掛かると言った表現ではあるが、実際はほとんどのしかかっている様なものだった。 なんせその「もの」は水から直接生えた巨大な腕だったのだから・・・ 「うあ゙・・・離しなさ・・・ゔ・・・っげぇぇ・・・」 彼女は必死に掴まれた右手を引き離そうとする。しかし手の力は生半可なものではなく、 さらに力んだせいで汚泥の臭いを思いっきり吸い込んでしまい、胃の中のものを吐き出してしまった。 彼女の力が緩んだのを知ってか知らずか、その手は一気に彼女の右手を引っ張り上げた。 華奢な彼女は哀れにもボールのように投げだされ・・・ずにはすんだ。むしろ投げ出されたほうが幸せだったろう。 「きゃっ・・・・・・・・っっっ!?!?」 ギシシ・・・・・ブチッ! ・・・次の瞬間、そこに居たのは水の中に座り込み、必死に起き上がろうとしている女が一人。 しかしバランスが取れず、そのままうつ伏せにひっくり返ってしまう。 そしてそれを見下ろすように立つ汚泥でできた巨大な腕。 その一番上の手の部分には、杖を握った細い腕が一本。 もとは体に繋がっていた部分から赤い血が巨大な腕を伝う。 ひっくり返った女の肩口からも同じ赤い血が水中に流れ出し、巨大な腕の根元で出会う。 だが、巨大な手は華奢な腕を興味が無さそうに放り捨て、目の前のこれもまた細い脚にのしかかった。 うつ伏せになったときに水を飲み、朦朧としていた彼女の意識が脚にかかる重圧ではっきりとする。 必死になってばた足でもがくが、時すでに遅し。 巨大な腕は彼女の脚を掴み、そのまま逆さ吊りにした。 「ひっ・・・やめ・・・ゔ・・・げぼ・・・」 悲鳴をあげようとしたとたんに強烈な腐臭と血の臭いに同時に襲われ、彼女はまた吐いた。 そして朦朧とする意識の中で、巨大な手の動きが不審であることに気がついた。 彼女は右足を小指と薬指、左足を親指と人差し指に挟まれ、大股開きで吊り下げられていたのだ。 そして巨大な手がゆっくりと開いてゆく。食べやすいように裂くつもりなのだろうか? しかし彼女には理由などどうでもよかった。自分はこのまま二つに裂かれて死ぬのだと悟ったから・・・ 「い・・・ひっ・・・いたっ・・・ぎゃ、いやゃああああぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・」 ギッ・・・ミシッ・・・ミシシッ・・・・・・ボギッ!ビシッ!バリッ! バッシャンッ!・・・グチャ・・・クチャ・・クチャ・・・・ポタ・・・・・ピジャ・・・・・ポタ・・・ 聞こえてくるのは本当に水が滴る音だけだろうか・・・