おれの目の前にいるのは若い村娘。瓦屋根の街で出会った娘。おれが初めて出会った本当に愛せる女。  おれはしがない盗賊だ。短刀を片手に怪物を狩り、日銭を稼ぐ。銭が足らない時には他人の装備をかっぱらい。見ず知らずの冒険者に物乞いをしていた。  それだけではなく、おれは人も殺していた。  つまりは屑ってわけだ。  でも、おれにはそうまでして銭を稼ぐ必要があった。惚れた女に苦労させたくなかったからだ。  ブーツの紐を結びながら考えごとをする。 「何を悩んでいるのですか?」と彼女は言った。 「別になにも……」 「嘘、顔に出てます」  どうやらおれは彼女には嘘がつけないようだ。すぐ顔に出るっていつも言われている。  栗色の長い髪を結うこともなく彼女の髪は波のように揺れていた。  彼女の名前はセン。瓦屋根の街で生まれ育った。 「ん。いや、今日の仕事をどうしようかなっと思ってね」 「……あまりむりをしないでくださいね……その、わたしは貧しくても構わないから。今の暮らしのままで――」 「セン、おれは君に苦労させたくないんだ」とおれは言った。 「ケイ。わたし!」センがおれの名を言う。  おれは手を伸ばしてセンの髪を梳く。絹のように柔らかい髪だった。センは頬を赤らめ恥ずかしそうに俯いた。 「夕飯、楽しみにしている」と言いながら、おれはセンの頬にキスをした。「行ってきます」  家を出ると、空はとても青く。冒険者達にしてみれば絶好の冒険びよりなのだろう。  おれには関係のないことだった。 * 「仕事をくれ、金が入って楽な仕事を――」  おれは盗賊仲間に仕事がないか聞く。 「最近な――。いろいろなギルドからの眼が厳しくなっている」  その盗賊は木の根に腰を下ろしておれを見ている。 「潮時だよ。危ない仕事はもうない」 「――だが、おれには金が必要で!」 「真っ当な冒険者にでもなって金を稼ぐんだ」と盗賊が抑えて言う。 「どうやって?」 「知らん。ひとりで考えるんだ。惚れた女を死なせたくないのなら、よーく考えるんだな」  盗賊はそう言ってから、おれに小さな包みを投げ渡した。包みの中には少々の銭。 「お別れだ。もう会うこともないだろう」  立ち上がった盗賊はおれの横を通り抜けて、深い森へと消えていく。おれは盗賊を呼び止めようとしたが、名前を知らなかった。  ひんやりとした空気がおれを包む。おれは震えていた。これから、どうやって生きればいいのだろうか? 「ぐわぁっ!」  男の悲鳴だ。おそらくあの盗賊だ。しかし、なぜ? ここらは怪物もいないはず……。誰にやられた? 敵――ギルドかっ!  ヒュン  本能的に身体が動いた。上半身を曲げて、地面を転がる。おれのいた位置には一本の矢が刺さっていた。  おれは森の奥へと走る。激痛、肩に矢が突き刺さっている。おれは大木を背にして身体を休める。 「ぐっ……」  おれは肩に突き刺さった矢を抜こうとする、矢の返しにも構わず、おれは矢を抜く。 「くそったれ――ギルドのアーチャーか……」  敵はアーチャー、そしておそらくふたりかそれ以上の敵がいる。  おれは上着を脱ぐ。黄色なんて森の中じゃ目立ってしかたない。おれは腹這いになって移動を開始する。  ある程度移動していから、おれは上着を放り投げた。数本の矢に貫かれる。  ひとりのアーチャーが近づいてきた。赤い髪の女だ。おれが死んでいるかどうか見に来たのだろう。罠とも知らず。  そうだ。一歩、二歩。もっと近づけ……今!  ざっと地面の下から飛び出てやった。アーチャーの背後に出たおれはそのまま押し倒す。 「ふぐっ!」  アーチャーが悲鳴を上げようとしたとき、おれは右手で口を塞いでやった。そのまま身体を反り返らせる。女ののど仏が浮かび、おれの短刀が添えられる。 「解るか? ちょっと引けばお前は死ぬ……その前に質問に答えろ」  アーチャーが首を縦に振る。 「残りの敵はひとりか?」  また、首を縦に振る。 「そうか。なぜおれを狙う?」  アーチャーは首を振ろうとしない。  おれは短刀をアーチャーの胸元に当て、その服を裂く。白い肌と大きな乳房が見えた。 「うぐぅ!」  おれは短刀の切っ先を使い、女の乳房に円を書くようゆっくりと動かす。切っ先の後には赤い線が続いていた。 「うっ、ぐす……う、ふぐっ!」  短刀を動かすたびにアーチャーはおもしろいように反応してくれる。だが、今は目的が違う。 「もう一度聞く。なぜおれを狙う?」  アーチャーは動こうとしない。くそ。もういい、殺してしまおう。  おれはアーチャーの背中と腰に乗っている。ちなみにアーチャーの両手はおれの尻で押さえている。  短刀を肩に突き刺してやる。おれと同じように、だ。 「…………っ!」  そして抉る。 「ぁあ! がぁぁぁっ!」  短刀から手を離してさらに乳房を揉んでやる。乳首を抓り、また強く握る。おれの手形が残るぐらいに強く乳房を握りつぶす。  プッとおれの爪先が肌を破った。 「うぐっ、うぐっ、ぐぅぅっ!」  おれは乳房から手を離す。真っ赤に腫れた乳房がそこにあり、おれは短刀をもう一度手に取り、その赤い乳房を切り落とす。 「うぅぅっ! ――っ!」 「さぁ、終わりだ」  ざくり  破裂した蒸気管のように、アーチャーの首からは血が煙りのように吹き出している。そして身体はビクンビクンと震えていた。  おれは短刀を投げ捨てた。血にまみれた短刀は切れ味が著しく落ちる。もう使い物にはならない。このアーチャーだって同じだ。  両手をぶらぶらと振り、疲れを取る。人ひとり拘束するにはかなり体力を消費する。  ぱきっと枝が折れる音がした。おれは後を見やる。もうひとりのアーチャーがそこにいた。栗色の髪のアーチャー。おれはこのアーチャーをよく知っている。あのセンがアーチャーの格好でいた。  驚くべきなのかな? いや――どこか解っていたのかもしれない。  びんと張った弦、そして矢を向けられる。  おれは両手を上げて立ち上がった。降参っというわけだ。 「いつか、こうなると思っていました」  センは悲しそうに言った。 「だから止めて欲しかった。ケイが危険な仕事をするたびに――わたしにいつか命令が下るのではないかとっ!」 「撃つなら撃てよ」とおれは言う。「おれは――君を殺すことはできない」 「わたしだって……同じです」  センの頬には雫のような涙があった。 「なら、答えはひとつしかない……一緒に逃げよう。ギルドの手から逃れようじゃないか、ふたりで」 「できるの?」 「できるさ」 「本当に?」 「約束しよう」  おれはセンの手を握った。 「また、おれのためにうまい料理を作ってくれ」  センの手から矢と弓が落ちた。そう。この女には武器は似合わない。似合うのは麻の服と包丁だ。