ここはプロンテラにある一つの砦の奥深くにある薄暗い部屋、むしろ穴倉といった表現が正しいのかもしれない。 ここはあるギルドの拷問部屋。ここで頑なに口を閉じていた者達が次々に自白していくのである。 だがその部屋には、捕虜を拘束しておく椅子と、小さな釜しか置いていなかった。 小さな釜は今にも溢れそうな勢いで熱い水蒸気を吐いている。 そしてこういった場には似つかわしくない良い香りを漂わせている。 一人はこの砦を保有するギルドのマスター。外面は非常に人懐っこく見え警戒心を抱かれないような人物に思われる。 彼は釜の具合を見、火を止めた。 それを見たもう一人が、自らの捕虜という立場すら忘れかかっているのか嘲笑を漏らした。 だがその嘲笑をギルドマスターは見咎めもしなかった。 「そんなんで俺が自白するとでも思っているのか?」 捕虜は今にも噴出しそうな震えた声で言う。捕虜になったとはいえ砦を攻める程の力を持つギルドの一員である。 簡単には拷問に屈しない強い意志を持っているのだろう。 「何度も言うようだが、コレで自白しなかったヤツは一人も居ないんだ。 俺も手間がかかるのは好きじゃないし、今のうちに白状しちまったほうがお前の身のためでもあると思うぞ。」 本気で自白を勧める彼の言葉に捕虜は噴出してしまっていた。 「はははははは!おいおいそれは何て冗談なんだ?そんなモンで俺が自白するとでも思ってんのか?」 彼の笑いをさえぎるようにギルドマスターは彼を椅子に座らせ、体を固定した。 捕虜は涙を流しながら笑っている。 だがそういった光景もギルドマスターは見慣れていた。 むしろこの嘗めきった心が自白を引き出すと確信しているから、彼のこういった反応はむしろ喜ばしいものだった。 「ふむ・・・。いい具合だ。」 釜を五徳から外して捕虜の前に置く。 「もう一度、念のために問うが、自白するつもりはないんだな?」 「さらさら無いね。」 捕虜がそう答えると、彼は捕虜の右手を取り、釜の蓋を開ける。 「強がりも今のうちだぞ。」 そう言い捨てて彼の右手を釜の中へと突っ込んだ。 「!!」 「熱ぃぃぃぃぃい!」 「うわぁぁぁぁぁ!」 「は、離せ!!」 「離してやってもいいが、ならお前の知っていることを全て話してくれたらだぞ。」 「分かった分かった洗いざらい話すから手を離してくれ!」 捕虜は素直に自分の知っていることを話した。 翌日にはそこに女ローグが連れてこられた。 相変わらず釜からは良い香りが漂っている。 「冗談かい?」 「いいや本気だ。昨日もそう言っていたヤツがいたが一分も経たないうちにゲロしたよ。」 椅子に拘束されたローグは苦笑している。 「さぁ、洗いざらい吐いてもらおうか。」 ローグは返事の代わりに舌を出した。 彼は右手を取って釜の中へと突っ込んだ。 「ひぃぃぃ!」 「熱ちちちっちちちちちちち!」 「さぁお前の知っていることを話してもらえるかな?」 「分かったよ!話してやるから手を離して!」 ルーンミドガルツ暦542年7月15日 プロンテラ在住のミリアムさん(14)が炊きたての米を釜に直接手を突っ込んで握ろうとしたところ、 余りの熱さに思わず手を離し、投げ出された米の塊が顔に当たって顔全体にひどい火傷を負った。 ミリアムさんは現在プロンテラ教会病院に入院しているが経過は思わしくなく、 片目を失明しているとのことである。 この事件に対してプロンテラ主婦協会は 「高々米だと言って甘く見てはいけません、炊きたてのお米となると100度の熱湯の塊と同じなんです。 このような事故が二度と起こらないよう皆さんも重々注意してお米を扱ってください。」