最近全く顔を出さないダーニャを心配してリダが彼女の部屋の前まで来ていた。 「おーいダーニャ、最近顔出してないじゃないか。一体どうしたんだ?」 部屋からの反応はない。 「おーい、開けるぞー。」 返事はない。仕方なく彼はドアに手をかけたが鍵が掛かっている様子もなく簡単に開いた。 「!」 部屋の中は酸鼻を極めた光景になっていた。壁に深々と布をくわえた矢が刺さっており、床には主から分離され血の気の全く無くなった四肢が散乱し、 その中心に胴体だけの彼女の姿があった。 「一体どうなってるんだ・・・!」 今や首と胴体だけになった彼女の元へかけよる。どうやら息だけはしているようだ。 「おいしっかりしろ!一体何があったんだ!」 彼女は応えない。虚ろな目を泳がせたままただただ息をしているだけだった。 なぜだか分からないが彼の目にはすでに大粒の涙が溜まり、床へ次々と落ちていった。 (メイ、と言っていたな・・・。確かあのギルドのアルケミストだと思うが・・・。) アサシンは先ほど人外の所業を為した様子など欠片も感じさせずに街中を歩いている。 (本人を問い詰めれば分かることか。) 「メイwっうぇwwそういえばあのアサシンたちはどうしたんだ?・・??」 「さぁ知らないわよ。何か気がついたらいなくなってたし。私の策で捨て駒みたいな扱いになったことに腹立ててるのかな?」 「うはwwっうぇwwww俺だって囲まれてたのにwっうぇwwwあいつら軟弱すぎwwっうぇw修正されるねwww」 「まぁいいんじゃない?タダで傭兵やとったような形になったんだし。」 「うはwwをkwっうぇwタダで済めばラクチンだねwwっうぇww」 「まぁどうでもいいじゃない。じゃ今日はもう戻るね。」 「をkをkwww俺も用事終わったら戻るwっうぇwww」 「じゃまた後でね。」 「今夜は寝かせないZEEEEEEEE!!1!!!11!」 「あら楽しみにしてるわよ〜。じゃね〜。」 メイは一人自分の部屋へ戻っていった。 それよりも先にアサシンが彼女の部屋に侵入し、クローキングで壁際に潜んでいた。 そうとは露知らずにメイが入ってくる。 「動くな。」 「!?」 メイは部屋に入った途端にアサシンに拘束された。喉元には血を吸って鈍い輝きを放つナイフが突きつけられている。 「お前に聞きたいことがある。先日加入した女アサシンは何で死んだんだ?」 (まさかあのことがバレたのかしら・・・?いやそんなはずはないわよ・・・。アレは私以外は知らないはずだし。) 「私は知らないわよ!砦取り終わったら勝手に居なくなってたのよ!」 「ほうそうかい、同じことをお前のギルメンのハンターに問い詰めたらお前の名前が出てきたぞ。何か知ってるだろう?」 「知らないわよ!勝手に死んじまった奴らのことなんて知ったこっちゃないわよ!」 (もしかしてバレてる・・・?いやハンターってのは多分ダーニャのことだろうけどあの娘が知ってるワケないし・・・。そういえばリダは丸薬飲ませた ことは知ってるわね・・・。まさかそれをダーニャが聞いてコイツにゲロさせられた・・・?) 「あのハンターは妹がアンクルにかかってから突然爆発したと言っていた。そしてお前の名前が出てきた。これは何か関係があるだろう・・・?」 「私が関係あるのは覚醒ポーションを十二分に働かせる丸薬を飲ませただけよ!他は何もしてないわよ!」 知らず知らずのうちに相手が知っていないことを吐いてしまったのだが、メイはそれに気がつかない。相手も知ってると思って言ったのだがその言葉に アサシンは食いついてきた。 「丸薬・・・。丸薬か・・・。そんな丸薬はジュノーにも存在しないはずだ。第一そんなモノがあれば世間は大騒ぎしているだろう。」 「それはそうよ。だって自分のトコ以外に使ったら相手も強化されるし意味ないでしょう!」 「ふーん・・・。じゃぁそいつはお前らだけが飲んでるのか・・・。」 話題が丸薬のほうへそれてメイは少し安心した。アサシン達の死と自分が分離されれば安全だと思っている。 「そうよ!でも今は持ってないから欲しくても渡せないわよ!分かったらさっさとこのナイフを離しなさいよ!」 「ふむ・・・。無いならいいが・・・。それは俺にとって非常に興味深い話だ。副作用とかはないのか?」 「さぁね!私は飲んでな・・・」 (しまった!) 失言に気がついてしまったがもうアサシンの耳に届いてしまっては後の祭りである。 「お前が飲んでないのか・・・?妙な話だな・・・。なぜ妹だけその丸薬を飲まされたんだ・・・? 覚醒ポーションの強化とお前は言うがそれは嘘なんだろう?」 「・・・。」 「妹はアンクルに掛かった後突然爆発したんだよなぁ・・・。そういえばアルケミストのスキルにはマリンスフィアーを発生させて 爆発させるスキルがあったはずだ・・・。」 アサシンは自分の考えが恐ろしい方向へ行っていることに気がついてきた、が一旦思考が始まればそれはとまるものではない。 「マリンスフィアースキルと突然の爆発・・・。この二つは繋がり得るな・・・。それに丸薬か・・・。まさか・・・!!!!」 (ちくしょう!高々一言の失言でもうあのことがバレそう・・・。お願い誰か助けて!) 「お前・・・。妹にマリンスフィアーを飲ませたな!」 「・・・。」 「あぁ!そうなんだろう!くそっ!何て人でなしだ!勧誘しといて爆弾にする・・・。お前それでも人か・・・?」 「・・・。」 メイは答えない。が彼女の最早真っ白といっていいほど血の気の抜けた顔が言葉以上に雄弁に語っている。 「そうかそうか・・・。そうだったのか・・・。それならばそれなりになってもらわないとな・・・。」 と言いつつアサシンはバッグからレッドジェムストーンを取り出し、それを無理やりメイの口へと押し込み、飲み込ませる。 「ムゴゴッゴゴ」 「ベノムダストの原理を知ってるか?アレはコイツを媒介にして毒を発生させるんじゃない。これ自体が毒なんだよ。 スキルはただ赤ジェムの毒を解き放つだけに過ぎない。」 というとベノムダストを発動させる。 (え・・・・?) 見る間にメイの顔は青ざめ、やがて紫色へと変色した。 変色しただけではない。その顔は最早以前の端整の取れた顔ではなく醜く膨れ上がっていた。沸き立つ毒素が皮下にまで回りこみ、 巨大な吹き出物のようなものが無数に発生している。それらはやがて破裂し、血と共に得体の知れない色の液体が湧き出ている。 (うげぇぇぇぇぇぇぇ・・・・・。苦しい・・・。) 「流石に俺も危ないな。まぁこのまま放置してもお前はいずれ死ぬだろうが最後の慈悲だ。アマツだと武士の情けとか言うらしいな。 まぁそんなことはどうでもいいが。」 と言うとベノムスプラッシャーの詠唱を初め、それをメイにかけた。 「せいぜい苦しまずに死んでくれよ。」 ベノムスプラッシャーが発動するまではしばらく時間がかかる。それゆえメイの部屋からアサシンが出て行ってもまだメイは破裂せずに生きていた。 ただ彼女が陥っている状態を考えるならばそれが生存しているのかというとそれも怪しい。 全身が紫へと変色しかつところどころの皮膚に穴があき血と膿と毒液でベタベタになっている姿はまるでゾンビのようだった。 すさまじいまでの悪臭を放っていることもゾンビと同様である。ただ彼女はまだ生きているらしく、毒がもたらす灼熱地獄に悶えている。 用を成さなくなった喉のおかげで声は出ないのだが苦しげにヒューヒューと喉元から音を立てて床の上を転げまわっているのだ。 (痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!!!!!!!!) そこにダンが帰ってきた。ドアがきちんと閉まっていたために彼女の放つ悪臭ものた打ち回って立てられる音にも全く気がつかず 愛しい女を抱くことで頭が一杯だった。 だがその部屋に居たのはいつもの美しい彼女ではなく紫色の化け物であった。 「・・・うは・・・・!」 最初それが何か分からないで居たが、服を着ているしその服はまさにメイのものであった。 だが彼はそれがメイだとは思えない。流石に歴戦の猛者であってもこんな化け物は初めて見るし恐ろしい。 「うはwwっうぇwwww三十六計逃げるに如かずwっうぇwww俺頭EEEEEEE!!!11!!1!!」 と叫ぶとダンは転げるようにして部屋から出て行った。もう女のことなど頭の中に欠片も残っていない。 (え!ダンでしょ今の!逃げてないで助けてよ!お願い助けて!痛いのよ!痛い痛い痛い!!!!助けて痛い痛い痛い痛い!!!) 痛みで思考が途切れる前に彼女は爆発し辺り一面が紫と赤と黄疸色に染まった。