砦を落として以来、戦場での緊張感が緩んだからかダーニャは夢にうなされるようになった。 夢に出てくるのはもちろん自分が見殺しにしたようなモノである女アサシン。 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 「!・・・。はぁはぁ・・・。」 このところ眠りに入った途端あの光景が頭に浮かんで離れない。 おかげでまともに眠れたためしがなく、目は落ち窪みほほはそげて行き、本来の活気ある姿は微塵もなかった。 (何で私だけがこんな目に合わないといけないのよ・・・。) 体の疲れとともに精神的疲労も大きく、日に日にギルドに顔を出すことが少なくなり、最終的には自分の部屋から一歩も出なくなった。 外に出ることがなくなってあの光景が離れるというワケでもなく、むしろ表れる頻度はますます高くなっていった。 (・・・。そういえばあの時急にメイからWISが入ったよね・・・。一体何でなんだろう・・・。) (何でメイはあの娘から離れろって言ったんだろ・・・。) (・・・。メイは何か知ってる・・・?) 想像は一つの結論に達したがそれを問いただす気力は最早無く、ただただベッドの上で悪夢と抗っているだけだった。 その時不意に彼女の部屋のドアが開かれた。当然鍵はかけているはずなのに、である。 流石に侵入者に対してベッドの上で伏しているままで居るのはまずいので枕元にあった弓に矢をつがえ、ドアの方向へ向き直る。 そこには一人の男アサシンが立っていた。 「誰!?泥棒なら容赦しないわよ」 「・・・。別に泥棒じゃない・・・。ある意味泥棒だがな・・・。」 「???とにかく何の用?不審な動きをしたら即貴方の眉間に風穴が空くわよ!」 「用?そうだな・・・。簡単に言えばお前の命を貰い受けに来た。」 「!?」 考える間も無くダーニャは矢を射ったが、その途端にアサシンは姿を消した。 「ち!」 自らの気を眉間に集め気配を消したアサシンを探し当てる。 そこに矢を射ったがすでにアサシンの姿は無く、気がつけば背後に回りこまれていた。 「な!?」 「そこまでだ。無駄な抵抗は止めるんだな。」 羽交い絞めにされ喉元に鋭利なナイフの刃を押し付けられていた。 もう逃げられない。 「な・・・、何で私が殺されないといけないのよ!」 「自覚してないのか・・・。仕方が無い。冥土の土産というヤツだ。俺の妹は俺と同じ稼業についているが、先日お前らのギルドに加入して 砦の争奪戦に参加したんだ。そして死んだ・・・。しかも味方の設置した罠にかかってな。」 「ちょっと待ちなさいよ。私は何もしてないわよ!」 「寝言は寝てから言え。お前の罠にかかって妹は死んだんだぞ!」 「だから違うって!あの罠はアンクルスネアだからかかっただけだったら死なないってば!離しなさいよ!」 「言い訳はそこまでだ。とにかくお前が殺したんだろう・・・。」 「違うって言ってるでしょう!私がアンクルにかけてから急にあの娘が爆発したのよ!誰かが魔法で爆発させたんじゃないの!」 「WIZやセージの魔法で跡形も無く人一人を消し飛ばすようなものがあるか?むしろクレイモアトラップやブラストマインの方が納得行くと思うがな。」 「私は何もしてないってば!ただアンクルにかけただけなのよ!本当よ!信じてよ!」 「アンクルにかけたということは、お前が見殺しにしたようなモンだろう?なら罪は変わらない。」 「・・・。」 「そうとなれば殺すまでのこと。だがただ殺すのは惜しい・・・。」 「違うのよアレはメイg・・・」 言い終わる間もなく喉に焼けるような痛みが走った。 「今ので喉を潰した。お前はもう声を出すことはできない。さてどうしてくれようか。まずはその危なっかしい腕だな・・・。」 右腕に深々とナイフが突き立てられる。これでもう矢を放つことはできない。 「!!!!!」 「次は左腕、そして脚」 言った場所次々とナイフが刺され、血があふれるばかりに湧き出ている。 (何で私がこんな目に!) (メイが何かやったから私がこんな目に!) 「殺すのは惜しいか・・・。」 アサシンはダーニャの体に覆いかぶさった。股間に鋭い痛みが走る。 (え・・・。いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!) ひとしきり動いた後アサシンは起き上がり、床には大量の出血とは別の血が流れていた。 「そういえばコンロンの昔話で、人豚というものがあったそうだ。まぁそれで許しておいてやろう。」 焦点の合わない目をしている彼女の口にアンティペインメントと止血剤を注ぎ込み、その後ゆっくりと四肢を断ち始めた。 流石に小型のナイフでは骨を砕くのに苦労したが、四時間ほどでようやく四肢と胴体が分離された。 その作業中彼女はため息一つ漏らさなかった。むしろ外界に対して何の反応も示してないと言えるような状態にあった。 「・・・。まぁ拾った命だ・・・、達者に暮らせよ・・・。」 最早彼の声も彼女には届かない。