ここミッドガルド王国では、毎週一回、各町にある砦の所有権をめぐってのギルド同士の闘争が許可されている。 砦は防衛に必要不可欠だが、万が一砦を臆病者が守っていたりするとそれは街の防衛上大変好ましくない。 よって砦を所有するギルドは精強だとされ大変な名誉にもなるし、また各砦には多数の凶悪なモンスターが潜む ダンジョンへのポータルと、毎週ランダムに何らかのアイテムが生成される宝箱など、砦を所有することによって得られる 利益もまた大きい。 そのため、毎週の砦争奪戦は熾烈を極め、毎週この時のためだけに活動しているギルドも多数ある。 女アルケミストのメイの所属するギルドもそういったギルドの一つで、構成員の一人一人が一騎当千の猛者であると同時に、毎週の様に 血で血を争う戦いを繰り広げているため、仲間内の結束もまた鉄の如きであるが、その反面外に対してはギルドの結束は閉じている。 だが今週の争奪戦は異なっていた。 メアリーの提案によって今回に限って新規の構成員を加入させることとなったのだ。それもアサシンばかり。 当然他の構成員にとっては妙な事と思え、その疑問を代表する形で男騎士のリダが尋ねる。 「どういうことなんだ?」 「最近普通に砦攻めても落とせないことが多いじゃない。だから今回は奇策を使って落とそうと思ったから入ってもらったのよ。」 「ふーん・・・。」 「まぁ見ててよね。今日は絶対落とせるから。」 「そういうモンかねぇ。」 「そういうモンよ。あそうそう。アサシンさん達はこれ飲んでくださいね〜。ウチのギルドで、というか私が開発した、 覚醒ポーションの力を十二分に引き出すための薬。今日は大事な争奪戦だし、貴方達には多いに活躍してもらわないといけないから 貴方達だけにこれ渡すわね。」 「おいおい俺達には無しかよ。全くもってえこひいきだなぁ。」 リダの顔は不審気だ。そもそもこんな薬の存在など聞いたことがない。蚊帳の外に立たされた感じで気分はあまり良くない。 「いいじゃない。新入りにはそれなりに働いてもらわないと入れた意味ないでしょう?」 「まぁそれはそうだがねぇ。」 「じゃ納得したら準備する。もうそろそろ時間だしね。ほら渡すから飲んどいてね。」 「はい。」 赤い丸薬を渡されたアサシン達はためらうことなくそれを飲んだ。新入りとあって他メンバーの表情には堅さが見られ、 それを跳ね除けてギルドに溶け込もうと彼らは気合が入っている。 それを見たメイは一瞬戸惑いの表情を見せたが、それは瞬く間に消え、いつもの笑顔に戻った。 「うはwwwをkっうぇw君達準備はいいかな?・?・??・wwwwwww」 ギルドマスターのダンの登場である。ふざけた口調をしているが、全身鋼鉄の塊といった感じの戎装と、腰に吊るされた剣は 口調と正反対であり、ギルドの先駆けとして数多の戦いを勝ち抜いてきた猛者である。 「今日は絶対砦落とすZEEEEEEwwっうぇwwwwみwなwぎwっwてwきwたw」 彼の演説らしきものを聞くまでもなく皆砦を落とす気でいる。 「俺ZWEEEEEEEEEwwッうぇえっうぇwwwwwww!!!11!1!!11!」 「ボw−wリwンwグwバwッwシwュw!w!wうは強すぎwwww修正されるねwっうぇwww」 妙な言葉を叫びつつも防衛側の前衛を蹴散らしつつダンが突入していく。 他のメンバーは無言で突き進んでおのおのの役割を果たしていく。正直あれだけ長い言葉を発しながら切り進んでいくのは不可能だ。 「みwなwぎwっwてwきwたwwっうぇww」 「うはwっうぇwwwwお前等弱すぎwwwっうぇwwww」 彼に取り付いた前衛をあらかた片付けた後に後衛へ彼だけ向かって行く。他のメンバーは着いていけず、残った前衛を片付けつつ進軍していく。 そのためダンと他のメンバーとに大分大きな隙間ができ、そこを防衛側は見逃さなかった。 「ほら!あの騎士だけ取り囲んで先に潰せば後は雑魚だから先に片付けな!」 敵ローグの指示通り取り残された形になった前衛と後衛でダンを挟み撃ちにする。 「うはっうぇwwwww囲まれてるしwwww」 もちろん彼一人を孤立させるわけにはいかない。 リダを初めとするメンバーは必死に敵前衛と戦うが流石に敵方も砦を持つほどの猛者、そう簡単には事は運ばず、 じりじりと消耗していくのみだった。 突然数人のアサシンが敵後衛に張り付いていた。今回補強した者たちである。 メアリーの指示通りクローキングで音もなく近づいていた。メアリーたちのギルドにはアサシンが居ないということなので今回もルアフの点灯を怠っていた ツケが表れた形になった。 「うはwwっwをkwwwっうぇwwww」 だが敵内に孤立しているという条件は同じであり、瞬く間にアサシン達は取り囲まれ、身動きが取れないでいた。 (・・・そろそろね・・・。) カートレボリューションで前に居る敵を吹き飛ばしつつメイはほくそえむ。 突然それは起こった。 アサシンの一人とそれを囲んでいた防衛側の何人かがあっという間に吹き飛び、辺りには血すら残っていない。 「な・・・何だってのよ!」 アサシンの一人の背後を取っていた女ローグが叫ぶ。状況を認識する前に彼女と他の仲間もそのアサシンもろとも吹き飛ばされ、影形も残さず消滅した。 そのためアサシン達を取り囲んでいた敵は丸ごといなくなった形になった。 (・・・・え・・・?) 最後に残った女アサシンが自分の仲間達の最期を見て恐慌を起こし、味方の方へと走っていく。 (な・・・一体何が起こってるのよ!) (そういえばさっきの丸薬・・・。あれって私達だけが飲んでたよね・・・?ってことは私も・・・) (いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!) 結論が出たところで突然足が止まる。 突進してくるアサシンを見て敵だと思ったハンターのダーニャがすかさずアンクルをかけ、足止めしたのだ。 敵だと思って弓を引くがなぜか矢が離れない。味方だから当然なのであるが彼女にはそれが分からない。 「あれ?何でだろ」 足を止められたアサシンは必死でもがいてメアリーの方へ向かおうとする。 「何で動かないのよぉぉぉぉぉ!!!お願い動いて!!!!!」 「何で矢が撃てないかなぁ?って味方じゃない。一体どうしたのよ?」 必死でもがくアサシンを不審気に見る。 「何でもいいから動いてよぉぉぉぉぉ!」 <その娘から離れなさい!> (え?) <いいからその娘から離れなさい!危ないから!> <どどいうことなのよメイ!> 急に入ってきた耳打ちに驚きつつもダーニャはその場を離れた。 「お願いだから動いてよぉぉぉぉぉぉ!ぇ身体が熱い!いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 断末魔の叫びと共に彼女は爆発し、消滅した。 (一体今のは何!?) <ほらダーニャぼさっとしないで敵撃たないと!> <わかったわよ!> 敵地において他を気にしている余裕は無い。ダーニャもすぐ切り替えていつもの通り敵を撃っていた。 急に味方がいなくなったことで混乱しきっていた敵を撃破するのはたやすいことであり、メイ達のギルドは晴れて砦持ちの身となった。 今回起こった奇妙な爆発は魔法か何かと思われて真相を知っているのはメイと粉微塵になったアサシン達だけであった・・・。