「くっ・・・こんなところで!があぁぁぁぁ!!」 また一つの断末魔が聞こえてきた。 もう何度聞いただろうか。 ここは強さを求めるものが集う場所。 与えられた試練をこなし、こなしたぶんだけ己の力を高めることができる。 試練の内容は簡単。 現れる敵の攻撃に耐えること、ただそれだけ。 しかし、この試練は非常に過酷だ。 耐えられなかったものは二度と復活することはかなわない。 俺はこの試練にもう数回挑んでいる。 最初は仲間達と共に来ていた。 一度目の試練が終わり、二度目の試験が終わり、とうとう残ったのは俺だけだ。 他のメンバーは・・・。 一人は体を中心から真っ二つにされた。 一人は溶かされ原型がなんだったかもわからなくなった。 一人は度重なる攻撃の末に、外見こそ無事だが二度と戦えない体になった。 他にも多くの犠牲者がでている。 何故みんなこれだけの危険を冒してまで力を手に入れようとするのだろう・・・。 だが、全員が全員望んでここにきているわけではない。 自らの意思に関係なく、試練を受けさせられるものもいる。 そういうやつらは特に悲惨だ。 強くなろうという意思がないものが、この過酷な試練に耐えられるわけはない。 死ぬとわかっているのに挑まされるやつを見るのは耐え切れない。 そうこう言っている間にまた誰かの順番になったみたいだ。 「嘘!イヤ・・・私ははこんなことしたくない!」 なんで私ががこんな目に!? 今まで必死に戦ってきた。 みんなの役に立ちたい。 自分が傷ついても、みんなが無事ならそれでいい。 それだけを目標にがんばってきた。 それなのに! あまりの恐怖に取り乱してしまう。 まだ私は自分の運命を受け入れることができなかった。 そんな私の思いをあざ笑うかのように、試練の準備は進んでいく。 体を鉄の台に括り付けられ、自由を奪われた。 「ちょ、やめて!お願いだからこれを外して!!」 必死に抵抗するも、いくらもがいても拘束はゆるむ気配が無い。 何かこの状態を脱出するための糸口は・・・ 「?」 不意に目の前が暗くなる。 視線を上げる。 そいつはそこに立っていた。 馬鹿みたいに大きなハンマーを持って。 獲物を見るような目つきで私を見ていた。 「あ・・・あ・・あぁ・・・ああああああああああ!!!」 叫んだ。 恥も外聞も忘れ、ただひたすらに叫んだ。 もう誰も助けてくれないのに。 私は力の限り叫んだ。 それが それが私にできる最後の抵抗だったから・・・ 「ぎゃひ!!!」 また犠牲が増えた。 こんなことがいつまで続くのだろうか。 あれからも犠牲は増える一方。 今日は特に酷い。 生還したものは一人もいない。 今日は何かが違っていた。 俺の順番が回ってくる。 いつも通りに鉄のベッドの上に寝かされ、手足を固定された。 「何度やってもこの感覚だけは慣れないな・・・。」 一人静かにつぶやく。 少し経ってからアイツが現れた。 「よう、久しぶりだな。また会えて嬉しいよ・・・。」 軽口をたたく余裕はあるようだ。 冷静な思考を保てているなら望みはある。 そう思ったが、ヤツの様子を確認した瞬間背筋が凍った。 体は赤く染まっていた。 その腕は今までよりも二周りほど太く。 荒々しい呼吸はこちらを破壊できる喜びからきているようにも思われる。 尋常じゃない。 今までこんなことはなかった。 視線をずらす。 何かの空き瓶が目に入った。 バーサクポーション それを飲むことによって自らの脳を刺激・活性化させ、強制的に興奮状態に陥らせる。 同時に心肺機能を増強。 大量に送り出される血液によって筋力も倍化。 恐怖心を取り除かれた興奮状態と相まって、凶悪なまでの戦闘能力を与える。 なんてことだ・・・。 今回ばかりは死ぬかもしれない。 そんな弱気な考えが頭をよぎる。 駄目だ! 心が折れたらそこで終わり。 それは俺自身が一番よく知っているはず。 心を強く 自分が相手に打ち勝つイメージを! 覚悟を決めて相手の出方をまつ。 いつもなら、アイツはまず俺の体を触り始める。 丹念に全身を調べた挙句、的確に弱いところに一撃を加えてくる。 オオオオオオオオォォォォーー!!!! ガキィン!! 「がっ!?」 いきなりの衝撃。 油断していた。 今のあいつは普通じゃない。 さっきそれがわかったはずなのに。 体の奥底にまで響き渡るような一撃。 予想していなかった突然の攻撃に体がきしむ。 「ぐ・・・はっ・・・はぁ・・・はぁ」 呼吸を整える。 ダメージを気にしてなんていられない。 すぐにでも次の攻撃が! ヒュウン! 続けざまに一閃。 アイツは自慢のハンマーを振り下ろしてきた。 「ふぅ・・・、ハッ!!」 体に力をこめる。 さっきは油断した。 だが今回はそうはいかない。 限界まで硬質化した俺の体が、せまるハンマーを迎え撃つ! ビキイィィ!! 「・・・え?」 砕け散るような音。 自分の体を見る。 なんてこと・・・。 そこには無惨にひび割れた自分の胴。 「こ・・・こんな事が・・・」 あげた視線の先の光景に愕然とする。 今まで数多の敵と戦い鍛え上げられたこの体。 バフォメットの猛攻にも耐え、ダークロードの魔法にも耐えてきた。 それがたったの二撃。 たった二撃で打ち砕かれた! 急激に意識が遠のいていく。 これでは助かったとしても二度と戦場には立てないだろう。 いや、それも無用な心配だったか。 最後に見た光景は 止めを刺さんとばかりに金槌を振り上げた 破壊の王の姿だった カンカン・・・クホホ・・・ 「ほ、ほら・・・先に俺が言っておいただろう。壊れるかもしれないって。」 ここはプロンテラ精錬所 数多くのものが力を求めて集い、志半ばに散っていく場所・・・