━━いつしか栄華を誇っていた・・・面影は今は無い・・・語られてきた・・・長い年月の後それは伝説となり・・・神話となり・・・忘れられていった・・・一部の冒険者達・・・町の老人・・・数少ない一部の人たちしか知らない物語の舞台。 ━━なら、今ここに示そうその・・・存在した証拠・・・いかに栄華を誇ったかを・・・ 「うおぉぉぉぉぉおぉぉ!!」 一度叫び声が木霊する度に鎧の剣士、いや亡霊と呼んだほうが彼らには相応しい。その亡霊が崩れ落ちていく。 一般的なモンスターとは違う。かといってグールなどのアンデットのモンスターとも違う。それは一個としての固体。足を大地に踏み出ししっかりと前進、突進してくるその剣士『レイドリック』 かつて栄華を誇ったと言われるここ『グラムスト・ヘイスト』を駆け巡る剣士。 がしゃがしゃと音を立てそこに昔からあったかのように抜け殻の鎧が地面に落ちる。しばらくするとその強固な鎧は風化して埃となって舞って行く。 「片付いたか?それにしてもここがかつて栄華とやらを誇った場所なのかね?門番か知らないけど弱すぎるでしょう。この鎧」 プリーストと呼ばれる聖職者。赤と黒の服に身を纏い、胸元を肌蹴させているその格好は聖職者と呼ぶには相応しくないかもしれないが、彼が受けてきた試練。修行の積み重ねによってその姿があるのかもしれない。 「ん〜?そうかなぁ、強いと思うよ?私じゃ一人じゃ勝てないし。」 彼女はウィーザードと呼ばれる魔法使い。一般的に知られている『マジシャン』と呼ばれる職業の上位にあたる職業だ。マントに身を纏い高度な魔法を詠唱・そして発動させる彼女の精神力は聖職者と呼ばれる者達に決して引けを取らない。そして生命が与えられる最高の攻撃力を持つかもしれない『魔法』と呼ばれる物を使う第一人者でもある。 「そりゃそうだ。体力が違うし創りも違うだろ」 彼はこのPTと呼ばれる1個小隊のリーダーにあたる人物。騎士と呼ばれる職業の人物だ。殲滅力もさることながら、その攻撃力。防御力。耐久力は群を抜いている。 それゆえにリーダーになることも多々ある。 「ほぅら、お出ましだ。あれは・・・・なんだ!?」 目線の先にあったもの。それは一つのとても大きな剣だった。 静かに、ゆっくりと音も立てず近づいてくるのだがその大きさゆえ何が近づいてくるのかはわかるのだが。格好、柄の部分に一つこちらを凝視する『目』と呼ばれる器官らしきものが見える。 多分あれは役割としては『視覚』の役割に当たるのだろう。こちらをにらめつける訳でもなく、興味を持つでもなく、ただ『視覚』という役割だけを、感情という生物に必ずしも存在する感情をも見せず、ただ『見る』と言うことだけをしてるその柄の部分に存在する 『目』で見ながら近づいてくる。 周りから雑音が一瞬消える様な気がした。 あまりの光景に『敵』の存在が近くに居すぎたのだ。 その大きな剣はゆっくりと剣先を騎士・聖職者・ウィーザードに向けられる。 スッッという空気を裂く音。音と共に何かが飛んだような気がした。聖職者の腕の上腕部が血を噴いている。確かにそのとき飛んだのだ、腕という生を支えるべきものとして大切な器官の一部がひな鳥の旅立ちのような素直にではなく、左右に揺れかつて腕であったであろうその物体が回転しながら空を舞ったのだ。 最初に気づいたのは騎士だった。正確には気づきたくなかったものに気づかされたのだ。 宙を舞ったそのかつて腕であった物体が騎士の目の前に落ちたのだから。 「・・・うあ・・ぁぁああぁ・・・あああぁあぁぁぁあぁああぁ!!??」 悲鳴とも絶叫ともどちらとも取れるその叫びで初めて聖職者とウィーザードが気づく。 そして聖職者は初めて自分の腕の損失に気づく。 当然のように大きな剣は近づいてくる、より確実に獲物を仕留める為にゆっくりと近づいてくる。ゆっくりと近づくことによって威圧感と恐怖心を与えるためにあえてゆっくり近づく。 「あぁあぁれれれぇえぇ?ぼぼぼくのうでででぇ?あれぇぇぇええ?」 損失に気づく、長く共に居た腕。彼ら聖職者は治癒能力は抜群にある。聖なる神の名の求に授けられたその天性の素質はいけとしいけるもの全てを癒す能力を持っている。 ただ、それは『完全なる体の傷とパーツが揃っていての話』契れた腕はくっつける事は出来ない。 「うぅ・・・大地より沼と言う生命を妨げしものよ・・・・その力で我の敵の動きを封じよ・・・『クァグマイア!!』」 『クァグマイア!!』は敵の動きと攻撃速度を減少させる魔法。ただし有効な敵は限られている。今回はその枠に入りきらない敵のようだった。 大きな剣は振りかぶると彼女の体を支える部分を断ち切る。 「ひぃあぁぁぁひいぃぃぁあぁぁ」 痛みが走る。今まで支えていた足が消える。 横たわると今までお世話になった足が赤い液体にまみれながらそこに存在する。 微笑みながら彼女はこう言った。 「あれぇ?なんでそこにあるの?う〜ん面白いからいいや、とりあえずあの大きい剣をやっつけよう♪私は強いからねきっと大丈夫だよ!」 そう言うと音の外れた詠唱を唱え始める。 「大気に存在する数多の火の神よ、私が汝にきっかけと力を与える、それに応える様に我に立ちはだかる敵を打ちのめせ『ファイヤーボルト!!』 『ファイヤーボルト』上空から火の矢を召還し、敵にダメージを与える魔法である。 轟音と共に大きな剣に矢が突き刺さるが気にも止めてない様子を見せて、もう一度振りかぶる。今度は確実に命を絶つ目的で。 「それじゃぁ、もう一回いこう・・・」 ここで彼女は息絶えた。 首筋から胸にかけ剣先がえぐった。飛び上がる血と共に目を閉じていく。 口はぱくぱくと唇と唇を合わせているがもうすぐ止むだろう。 ウィーザードという彼女の役割と、女性はもとより人間としての役目は今終えた。 うっすらと目尻に水が溜まっていた。それが頬を伝い床に落ち彼女の鼓動は絶えた。 「うあぁぁぁぁああぁあぁあ!!!!」 リーダーとして皆を護れなかった。命を・・・人生を台無しにしてしまった。 自分で自分を責める。敵わない相手に立ち向かう。無謀であり勇敢。 その姿は人が見ていれば感動するだろうが、状況がわからないものにとってはただの気の狂った人に過ぎない。 がきぃぃっっ、金属音が鳴り響き、騎士の持っていたツーハンドソードが地面に突き刺さる。 騎士の指が本来曲がるべき方向に曲がっていなく、鏡の中で逆に指が曲がるんだ。とでも言わんばかりに反り返っている。 「あぁ・・うぅ・・・あぁぁぁ・・・・・・・・」 大きな剣は兜と鎧の間にある、顔に剣先を突き刺す。 喉から掠れ出る声が安らぎを得たように静まり。呼吸という生命を保つ術も薄れていく。生前はかっこよかったであろう顔を引き裂く。 騎士はそのばで息絶える。忘れたくなかった家族、帰れると信じた明日、見れると思っていた、子供の幸せな姿、愛していた彼女の笑顔、もう一度・・・あいたか・・・ッタ・・・ ━━大きな剣『ミスティルティン』かつて神さえも殺したその剣は今なお彷徨い、持ち手を捜して歩いている。 そう、これは栄華を誇った証。戦い抜いた騎士たちの遺産。 老人はこう語る。 「忘れるな。その場にいた魔物と人間を全て引き裂いた剣が居ることを。 忘れるな。神をも殺した剣のことを・・・・」 そう、これは伝説の剣。所有者を探し求める剣。 今なおあてなもなく彷徨う剣。これこそは、『グラムスト・へイスト』の存在した証拠