蒸すような暑さの夕方だった。 首都プロンテラの奥のうら寂しい一角。 薄暗い宿の一室に、ひと組の男女がいた。  ふたりは締めきった部屋の寝台の上に腰掛けていた。 沈黙がお互いの間を支配する。 男はうっすらと汗をかいていた。衣服をはだけ、無防備に半身を晒している。 男の体のあちこちには、戦闘で負ったと思われる傷が無数についていた。  すらりとしたバランスの良い体躯。長身で、見る者を虜にするであろう 誠実そうな面立ちの青年だった。だが、今は顔に笑みは無く、固く口を引き結んでいる。  男は不機嫌そうにそっぽを向いていた。 「あの・・・」  男の傷を手当てしながら、おずおずと女が話しかける。 「あの、ごめんね・・・?」 じろりと男は女を一瞥した。 女は怯えたように身体を小さくする。 手当てする指が止まる。女の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。 「あの、本当に、ごめんね・・・わたし、プリじゃないし、まだヒルクリとかも  持ってなくて、だからほんと、足手まといになってばっかで、その・・・」  女は高位の魔術師たるウィザードだった。 肩先まで伸ばした紫の髪を、前でちょこんとふたつの飾りで止めている。 女というには頼りなげな、まだどこか幼げな少女の面影を残していた。  がっしりとした男の手が、女の頭の上に乗せられる。髪を撫でる様にゆっくりと 手を滑らせ、・・突如、男の手が女の髪を強く引いた。 悲鳴を上げる暇も無く、女は寝台の上に引き倒される。 「イライラすんだよ、お前」 男はぼそりと不機嫌に呟いた。  怒気を含んだ男の声が、女をいっそう怯えさせる。 「プリならともかく、Wizなんて全っ然役に立たねえよ。  効率も出ないし、金も稼げないし、どうしてくれるんだよ、あぁ?」 「ぃ、いたい、離して・・・」 「誰に向かって口聞いてんだよ?」 「ごめ、ごめんな、さい、許して」 強く揺さぶられ、涙を零しながら、女は男に懇願する。  男はふんと馬鹿にするように鼻を鳴らした。 「イヤならどこでも好きなとこ行けばいいだろ? 他に行くアテがあるならな」 ・・・他のアテなど、一体どこにあるというのだろう。 彼女たちのギルドはつい先日解散したばかりだった。 仲間は皆、冒険者を辞めてしまい、残ったのはWizである自分と、戦闘BSである男だけである。 その時になって、彼女は今まで十重二十重に仲間たちに守られていた事にようやく気づいたのだ。  今まで臨時などにも一度も参加したことが無く、温室育ちだった自分。 当然、他に知り合いなどいる訳も無く、自然、何をするにも男に頼りきりな状況に陥ってしまっていた。 そうしていつのまにか、BSの顔色を伺い、おどおどと過ごす日常が当たり前になっている。 女は涙で視界がぼやけるのを感じていた。熱いものが胸奥からこみあげる。 どうしてこんな風になってしまったんだろう? 「別に嫌ならどこでも好きな所行けばいいじゃん?」 甘く囁くように、女の耳元に唇を近づけて男は言う。 嗚咽を漏らさないように、女は唇を噛み締める。 髪を掴んだ手の強さを調節しながら、男は女の首筋に歯を立てる。 ―それも思いきり。 「っ!!」 短い悲鳴を女は上げる。男は舌を這わせながら、押し倒したWizの上に圧し掛かる。 膝を女の腿の間に入れ、足を閉じれないようにし、 あまった手で女の顎を掴み、目を反らせない様上向けさせる。 怯えた小犬のように、黒めがちな瞳に涙をいっぱいに溜めた女の顔が見て取れた。 男はそれを眺めながら、うっすらと笑みを浮かべる。 この女の、こういった表情を見ていると、訳も無く笑いが込み上げて来る。 声を立てて笑い出したくなるような、不可思議な興奮に自らが包まれているのを感じた。 「いや、離して・・・っ」 背筋にぞわりとしたものが走り、反射的にBSの頭を引き剥がそうと腕を突き出す。 が、今まで鍛えたことなど一度も無い女の細腕でかなうはずも無く、男の体はびくともしない。 「はなしてッはなしてッ!!」 恐慌状態に追い込まれた女は、狂った様に男の腕を外そうともがいていた。 「Str1の分際で何が出来るっていうんだよ?」 ―呪文を唱えられると面倒しな。 男はゆっくりと、貪るように女の唇を奪った。 歯茎を舌でくすぐり、口内を掻き回す。 「ぃゃ、ぁ・・・・・・」   女の小さな悲鳴が宿の室内に悲しく響いた。 --------------------------------------------------------------------------------えーとすみません。まだ全然途中です(汗 Wiz娘×♂BS萌えなので、思わず書いてしまいました。 文章堅いですね^^; では、また。