此処はグラストヘイム。 ゲフェンの遥か西。 そこは異界の者が住み着いている、魔境と呼ばれていた。 既に主を亡くして久しい、巨人族が居していたという古き城。 今は朽ち逝くだけの、古き城。 しかし冒険者と呼ばれる者達には、そう悪い場所ではなかった。 「さぁて、今日も適当に稼いで遊ぼうか」 そうだ。 彼らにとってココは、古の戦火に埋もれた財宝の山、宝の城なのだ。 だが当然、宝には番人がつきものでもある。 「クックック……来た来た、鴨が葱背負ってさぁ」 男の歩く先。 “そこ”には、今だ駆けてゆく甲冑の姿があった。 耳障りな音を立て、ひび割れた床を疾走する金属の軋み達。 「ほら、能無しはソコで止まりなよ」 短い詠唱の後、瞬時に爆音と共に炎の壁が現れ、巨大な姿無き兵士を遮る。 大剣を振り上げ、男へと突進するも虚しく、兵は炎の壁に押し戻されるだけであった。 “レイドリック”と呼ばれるその兵士達には、身体が無い。 いや、無いのではない。 甲冑そのものが身体なのだ。 それが何者かに操られているのか、亡霊の所存かは解らない。 男には、そんなことはどうでもよかった。 この兵から冒険者達が欲しがるのは、操りの為の核とも言われる金属の結晶(エルニウム)。 「無駄無駄。  人形は人形らしく大人しくしてろって、ほらぁ!」 今度は少し長い詠唱。 それでも、並みの者(ウィザード)よりは幾分か早い。 男の持つ杖の先端から、もがく様に、ただ前に進もうとだけする甲冑に放たれる雷光。 バチバチと独特の音をたて、磁石の反発のような格好で、兵は近くの壁へと弾き飛ぶ。 それはガラン、と最後に大きな音を立てて、ただの甲冑に戻った。 その残骸を、男は杖で突付きながら舌打ちをした。 「ちぇっ……熔けてくっついてる。  これじゃ使えないじゃん。」 もはやガラクタになったそれを蹴り飛ばす。 だが、エルニウムを得られなかった事を気にも留めた風は無く、男はまた歩き出した。 「いい加減、ココにも飽きてきたなぁ……  もう殆ど僕の城みたいなもんだ」 もとより財宝目当てではない。 男は既に、金も物も持て余すほどに持っていた。 昼は廃墟を散策しては気まぐれに魔術を放ち、夜は街で酒と女に溺れる。 することも無く、ただ暇を持て余していた。 使いもしない装飾品で飾り、使えもしない宝剣を幾つも腰に下げ、頭には古代の冠を被るほどに。 もっとも、それは修練と技術によってもたらされた、確かな成果には違いなかった。 あくまで“成果”というだけの代物ではあったが。 男には“正義”などというものは無い。 視界を埋め尽くす程の怪物の群れに、なすすべも無く殺戮される冒険者達を目にしても。 冷静かつ沈着に、自らの保身を第一に。 それらを最優先に考え、取りうる自らに最善の方法を、躊躇わず実行する。 それこそ大魔法と呼ばれる代物を、他の冒険者達がいようがお構い無しに放つほど。 その結果、怪我人がどれだけ出ようが、死人が幾ら出ようが、予測はしても気には留めない。 無意識の僅かな罪悪感と恐怖に、面倒臭そうに舌打ちをして、テレポートするだけだ。 もはやただの人間程度では、興味を見出せないこともあったかもしれない。 よって、巻き添えや見殺しという単語は、他人に対しては適用されない。 ……そうだ、愉しむ為にココへ来ているのだから。 他の人間がどうなろうと、知ったことじゃない。 極端な話、自分が無事ならそれでいいのだ。 そういう男だった。 故に、男は常に一人。 誰かと共に歩むようなことなと、一度としてなかった。 男は、魔術を使う者。 悪魔の術(すべ)故に魔術。 直に魂を売り渡した契約ではないにしろ、その行いは、この世の因果に逆らった代物。 むしろ、この世の束縛から逃れたもの。 逆に此の世を支配する為の物とさえ、男は考えていた。 「……ちょっと、いい?」 曲がり角の先から突如現れた女。 司祭(プリースト)だ。 「拝み屋が僕に何か用?」 皮肉どころか、あからさまな敵意とも取れる返事をする男。 魔術を扱う者と神秘を司る者。 因果を歪める者と戒律を護る者。 相対する存在に、行為など初めからありはしない。 だが、女はそんなことは意にも介さず、といった様に続ける。 「野暮用ですよ。大したことではありません」 「もしかして辻ヒールってやつ?でも僕ヒルクリ持ちなんだよね。  流石にこんなとこに一人じゃ無用心でしょ?白ポもスリムで持ってるし。  あー、判った。お仲間死んだから手を貸してってこと?」 「……フッ、ふふっ………クスクスクスクスクス」 「??……それも違うのか。まいったね。  まさか、こんなとこで相方募集?まさかねぇ」 「クスクスクス……まさか。  貴方のみたいな下衆と組む筈が無いでしょう?  ………背教者」 「なっ……」 下衆。 背教者。 その明らかに敵と見なされた宣告に、男は動揺した。 拙い。 確実にココは拙い。 結果より先に、次に取るべき行動を見極めて…… 「……Telep」 ――ガスッ!ゴスッ!! 「?!っ!!っっ!っ!っっっ!!」 右肩と鳩尾に激痛。 女の手には、何か嫌な力の宿った鈍器。 恐らくは言葉を奪う力が宿っているのであろう。 男が詠唱を終える前に、勝負はついていた。 状況を頭では理解しつつもそれを受け入れきれず、口をただパクパクとさせる男。 その驚愕した顔を見て、初めて微笑む女。 「フフッ……」 「っっっっっっっッッ!!!」 一般的な魔術師は、口を封じられれば無力。 ならば蝶の羽で逃げるしか、他に手は無い。 続く打撃を警戒しつつ、ポケットに手を伸ばそうとする。 が、第二撃は先程とは別のところから叩き込まれた。 ――ゴスンッッ 「??!?!!!」 真横の壁に背中から叩きつけられ、意識が朦朧とする。 ふらつく視界には、司祭の女とは違う甲冑姿の男。 そのあちこちに、神聖を象徴する文様を描いた鎧は聖騎士(クルセーダー)。 どうやら、その手に持つ盾によって弾き飛ばされたらしい。 「見事な先制だった。  司祭に留めて置くのは惜しい腕だな」 「戯言はいいから。持ち直す前に」 「判っている。一撃でし止めよう」 あぁ、やっぱりそうか。 男は今更ながらに、状況を理解しきった。 『殺す気だ、僕を殺す気だ!!  聖職者の癖にコイツラはっッ!  どうして僕が!いきなり訳も無くこんなことをされるなんて!!  こんなことってあるか?!不公平だ!理不尽だ!  何の理由も無く、教会の連中なんかに!!』 もはや軽口を叩いていた時の余裕は無く、その瞳に感情だけを宿らせて司祭を睨みつける男。 それを興味なさげに見つめる司祭。 しかし、その目は男を見逃したわけではなかった。 「…Lex Aeterna!!」 すばやく神秘を口にする司祭。 それに続く聖騎士の斬撃。 「迷わず逝けよ!Holy Cross!!」 ――ザシュッ!ズシャ!! それは正に神速。 光を帯びた剣は、男の身体を一瞬にして十字に斬り捨てた。 「!…っ!!…ッッ!!!」 悲鳴すらあげられないことが、更なる苦痛となって男に覆い被さった。 そんなされるがままの境遇は、男を心身ともに打ちのめす。 いっそ即死していればどれだけ楽であったか。 「やはり脆いな、所詮は魔じゅ……ん?  まだ逝き損ねてるのか?手元が狂ったか」 もはや目は見えず、聞こえる声も小さくなってはいた。 だが、その鍛錬された精神力の賜物か。 それとも現世への執念か。 男には、まだ息があった。 「無駄に体力があったか、金のかかった衣装のおかげでしょう。  まぁ、苦しみもがいて死すべき行いをしてきたのだから、その報いかしらね。  どうせ身に覚えが無いと思っているだろうから、教えて差し上げましょうか」 「ふむ。こやつが逝きそびれて彷徨いでもしたら、それはそれで厄介か。  志を持たぬ力“だけ”の妄執は利用され易いというしな。  その罪しっかりと把握させれば、素直に地獄へ墜ちよう」 黙って頷いた司祭は、無表情のまま語り始めた。 「国王陛下は魔術を黙認してはいるけれど、存在することを認めたわけではない。  因果に反し、自然の理(ことわり)を破る外法なのだから当然。  人知を超える魔物と相対さねばならない時代(いま)故に止むなし、というだけ。  貴方の様に我が物顔で見境無く使うなど論外」 フッ、と。 司祭の口元が笑みを浮かべる。 「首都には滅多に来なかった貴方には、解らないでしょうけれど。  この城の大広間にあった悪魔召喚の魔方陣。  あれの消去に来ていた者達の間ではね、有名なのよ。  貴方のような傍若無人な魔術師共をはじめとした、身勝手極まりない冒険者の事は。  その被害に遭った者や遺族の陳情への、陛下の御決断は一つ。  人と言えども人に害成す者は人にして人に非ず。  ……過ぎたるは討て、と」 その言葉を象徴するように、無言で剣を構え直す聖騎士。 「……ぼ………わ…………ゆ…して……」 ようやく戻った声は、もはや魔術の詠唱をする為のものではなく。 「ゃ……まっ……たすっ…」 知識を蓄え、正確かつ鋭敏な判断をする筈の頭は冷静に働かず。 「……身の程を知るのね、外道」 司祭の言葉を合図に、聖騎士の剣は無慈悲に横へ薙ぎ払われ…… ――ズシュッ!! 「……教化、終了」 男は、永遠に沈黙した。 「これでまだやっと4人目」 「やれやれ……流石に私も気が滅入る」 「機械人形や同業を相手にするよりは、今回はマシだったでしょ」 「まぁ、そうではあるがな……」 此処はグラストヘイム。 ゲフェンの遥か西の果て。 そこには夢と欲望と死に満ちているが故、魔境と呼ばれている。 既に戦火は止んで久しい、巨人族との戦場であったという古き城。 今尚、人の流す血だけは消えぬ、古き城。  ※ ご 注 意 ※ この作品はフィクションです。 実際のRagnarok Onlineに登場する地名、職、設定等とは必ずしも一致しません。 また横殴り・擦りつけ・MPK等の他プレイヤーへの迷惑行為は、利用規定により禁止されています。 そういった行為をするプレイヤーと遭遇した場合には、直接手を下そうとせず、スクリーンショット 撮影の上、可能な限りヘルプデスク宛てに詳細を通報するよう、お願いいたします。 【あとがき】 プリでゲフェ塔のてっぺん行ったら、WIZ転職NPCにぞんざいに扱われて閃きますたw ブラスミギルドのNPCとはエラい差ですよ、ホント。 というわけで、その恨みを込めてWiiiiiizサマ仕事人に処刑さるの図。(ぉ あくまで作中のは厨丸出しのWiiiiiizサマなので、WIZではありません。 ここのとこ間違えちゃ嫌ですよ〜。 職関係なく場所関係なく、厨はいますからねぇ。 なんせGMまでがちy(ry それはさておき、初書きです。 血飛沫残虐系描写がサッパリ足りてませんが、許してください_| ̄|○ いざ書き始めたはいいけど、その手の語彙が足りなすぎるのに気がついたのは終わってから(死 この辺、あんまりイヂメないで下さると助かります。 ついでに独断と偏見に満ち満ちてるとこがありますけど、ココ限定仕様ということで。