〜枷〜  暗く、湿った地下室に、私達は居た。両手を握り、聖句を唱え、主神への祈りを奉げる。  天井近くの採光窓から漏れる、極僅かな外の光が、私の顔を照らした。  背後から、がちゃり、と錠の開く音が聞こえた。この地下室の唯一の出入り口である扉が開かれる。  「さぁ皆さん、今日もお仕事ですわ」  私の主人だ。ニコニコと笑顔を見せながら入ってきた。  「今日はどなたを連れて行きましょうか?」  私達の中へ入り、吟味する。今日は、誰だろうか。私では無い事を祈る。  「そうねぇ・・・」  主人の目線は、ゆらゆらと揺れ動き、私は目が合わないように、じっと足元を見る。  「ナンバー31の貴女、それとナンバー23の貴方ね」  私だ。それともう一人。選ばれてしまった。  「さぁ立ちなさい」  私ともう一人は、主人の言葉を忠実に再現する。立ち上がると、足首に繋がれた枷が、がしゃりと鳴る。  主人は、私達の首輪に鎖を掛け、それを引く。私達は、引かれる方向へ歩く。  地下室を出た。何週間振りだろうか。裸足に石畳の廊下は冷たく、足枷は重く、歩を進める度にジャラジ ャラと鳴る音が頭に響いた。  廊下から、武具置き場に入る。ここで、本来の装備を身に付けるのだ。と言っても、全員で共用なのだが。  簡素な鎧。壊れ掛けたブーツ。傷だらけの盾。頭に付ける物は無い。酷く、惨めな格好だ。それでも、地 下室に居る時の格好よりはマシだろう。  「今日は、地下監獄へ行きますわよ」  どうやら他にも一緒に来る者が居るらしい。ハンターだった。鷹を連れていて、いかにもハンターらしい 風貌である。  「こいつらが一緒なのかよ」  ハンターは、不満気に言葉を吐く。  「あら?役に立つわよ。これでもね」  「まぁこいつらの醜態が見れるだけでも、面白味はあるけどな」  ハンターは、咥えていた煙草を私の鎧に押付け、火を消した。ヤニの匂いが漂う。鎧に黒い焦げ跡が付い た。  「それでは参りましょうか」  主人のワープポータルで、移動を開始する。  ゲフェンの近く、グラストヘイムの近くへ着く。プティットの群れが襲い掛かってきた。私達は、それを 足止めする。同時に、ハンターがそれらを掃射する。  「確かに役に立つわな。アンクル要らずってのは楽でいいや」  ハンターは、ニヤニヤと笑い、主人は、満足そうに笑う。私達は受けたダメージを、互いのヒールで癒す。  「面倒ね。後は全部振り切ってしまいしょう」  主人は、私達を含む全員に速度増加を施し、全力疾走でグラストヘイム入り口を目指す。  途中、何体ものプティットが襲ってきたが、全て振り切り、近くに居た冒険者達に流れていった。  グラストヘイムへ着く。  「さて、貴方方のすべき事は判ってますわね?」  主人は、首輪の鎖を引き、私達に確認する。  私達は、無言で頷いた。  「そう、判ってるんなら良いですわ」  地下監獄で、清浄の光が輝く。グランドクロスの輝きは、不浄な魔物を焼くと同時に、術者の身も焼く。  「ああっあーーーー!!!」  全身に熱湯を被ったような、硫酸の風呂に浸かったような、恐ろしい痛みが私を襲う。  痛みは具現化し、皮膚は爛れ、肉は削げ、血は沸騰し、逆流した。  もう一人がヒールで私を癒す。肉体の損傷は、元に戻るが、痛みは消えない。二人は、交代交代で、この 痛みを担当する。  全身を焼く痛みは、交代しても引かず、常に痛みで顔をしかめる。  「こりゃ楽でいいわ」  ハンターは、時々グランドクロスの効き辛い魔物を倒す。それだけだった。  「そろそろマグニフィカートが切れる頃ね」  主人がマグニフィカートを唱える。精神が研ぎ澄まされ、魔力が漲る。しかしそれは、私達を助ける為で は無い。私達を使う為に行っている事なのだ。  何度、主人への殺意が芽生えた事だろうか。しかし、反抗するような事があれば、ただちに家族を殺され る。人質を取られた私達には、忠誠を違えることは出来ないのだ。  「がああああぁああああーーー!!!」  もう一人が、グランドクロスを放つ。こうして見れば、私もあのような状態になっていたのだ。と判る。  鎧の隙間から、白い炎が噴出し、露出している顔の皮膚が、ベリベリとめくり上がり、肉が炎によって焼 かれ、血が蒸発しながら流れる。  痛々しい。私もそうなのだ。私はヒールを懸命に掛ける。  ひょっとすれば、死んだ方が楽になれるのでは無いか。と思う。しかし、彼は死にたいのだろうか?私は、 死んだ方がマシと考えるが、彼はどうなのだろうか。確かめた事は無い。奴隷同士の会話は禁じられ、確か める術はないのだ。  私は、ヒールを掛け続ける。  「ふん、やっぱ野郎じゃ面白くないな」  ハンターは、そう言った。  「あら、女性の方が良くて?」  「女の方が見てて面白い。焼けただれた顔を見るのは最高だ」  何と言う言い草だ。私は、思わず怒りの表情になる。  「あ?何だその顔は」  ハンターは私の脇腹に向けて、矢を射った。深く刺さり、内臓に傷が付く。  「ぐふぅっ」  血を吐く。口の中に鉄の味が広がる。私は、無言でその矢を抜いた。鏃の反しが引っ掛かって肉が抉れる。 急に視界が暗くなった。血を流し過ぎたのだ。段々と、意識が遠退いていく。  ああ、もう一人が倒れた。私も倒れる。  「ち、何だよ。死にやがった」  お前が殺したのに。  「仕方無いですわね。帰りましょう」  二人はワープポータルの光に消えた。  残された私達は、静かに目を伏せる。  地下室に戻された私達は、ぼろ布のようなシャツのみで、鎖に繋がれる。下着すら穿く事を許されない。  今日の食事は無い。失敗した者には、食べる権利は無いのだ。他の、同じく鎖に繋がれた仲間が、ヒール を掛けてくれる。傷は塞がったが、余りの疲労により、泥のように眠った。  心地良い感触に目が醒める。  一週間に一度の風呂だ。どうやら、眠っていた私を、仲間が連れてきてくれたらしい。  湯船に浸かり、ゆっくりと息を吐く。疲れが取れていくのが判った。  風呂の日は、洗濯の日と同じだ。身体を洗うのと同時に、シャツも洗う。ボロボロのシャツは、力を入れ 過ぎると破れてしまう。ゆっくりと、丁寧に洗った。  風呂から上がると、主人に呼ばれた。ああ、その為に風呂に入れられたのか。と絶望した。  夜伽の相手としても選ばれていたのだ。呼ばれた部屋へ入ると、あのハンターも居た。既に服を脱いでい て、主人に愛撫をしている。  私は、部屋の外に、脱いだシャツをたたんで置く。  扉を閉め、薄暗い部屋を、ベッドに向かい歩く。厭だ。厭だ。あんな奴としなければならないなんて、厭 だ。しかし、抗う事は出来ない。抗ってはいけない。  「ぼさっとしてねぇで、俺のを濡らしてくれよ」  ハンターが、一物を突き出す。私は、それを、ゆっくりと口に含んだ。  先端をチロチロと、舌で刺激する。徐々に硬さを増してきた。たっぷりと唾液を絡ませ、頬の内側と、舌 の腹で擦り上げる。陰嚢を掌で転がすように愛撫する。じわり、とハンターの先端から唾液とは違う液体が、 染み出した。  「へへっ結構上手いな、こいつ」  ハンターは下卑た笑い顔で、腰を動かす。  「当り前ですわ、私の仕込みですもの」  主人は、私の秘部に足指を這わせ、愛撫し始めた。  私の秘部は、湿り気を帯び、主人の足指が離れると、細い糸を引いた。  束の間の快楽は終わった。ここからは、只の苦痛だ。  主人は、私の秘部に、張り型を捻じ込んだ。十分には濡れていない、男性経験の少ない私の秘部は、裂け て、血が流れた。  「くぅっ」  思わず声が漏れる。悲痛な叫びは、主人達を喜ばせる。  「お?こいつって処女?」  「違いますわ。以前に私がこれで破っておきましたもの」  けらけらと笑う主人は、構う事無く私の内側を掻き回す。その度に、傷は広がり、血が滴り落ちた。  痛い、痛い、痛い。厭だ、厭だ、厭だ。  「もう良いでしょう?私にも下さいな」  「OK、今入れてやるよ」  主人とハンターの性交が始まる。その間も、私に入れられた張り型は、足先で動かされ、常に痛みを強要 する。涙が流れた。  「うおっそろそろ出る!」  ハンターは、自分の物を主人から離すと、私の顔にそれを向け、精を放った。  どろどろとした白い液体は、私の額から首まで、濡らした。ハンターは、そのまま、私の口を抉じ開ける ように、自分の物を突っ込んだ。まだ出ている。私の口の中に、ハンターの精が垂れ流される。  吐き出したい。吐けば、もっと酷い仕打ちを受けるだろうと判っている。吐き出せない。  「へへ、飲めよ。奴隷ちゃんよぅ」  私は、粘ついたそれを、押し込むように喉の奥に飲んだ。吐き気がする。  「はぁっはぁっはぁっ・・・」  疲労と、言い様の無い苦痛で、動悸が激しくなる。息がし辛い。苦しい。  主人は、私の髪を掴み、私の顔を、自分の秘部に押付けた。  「ほうら、御褒美ですわよ」  主人は、私の顔に、小水を浴びせる。飲め、と言っているのだ。私は、口を開き、小水を受ける。  何故、こんな汚い物を口に入れなければならないのか。朦朧とした頭の中で、そんな疑問が浮かび上がる。 何故、では無いのだ。しなければ、ならないのだ。絶対の服従を、忠誠をしなければ・・・何故?  私は、だらり、と身体を床に落とした。そして、意識を失う。  激しい痛みが私を襲った。何事か、全く判らない。全身を駆け巡る痛みは、死に相当すると思った。  目を開くと、ハンターが私に乗っていた。  「あ?目ぇ醒ましたみたいだぜ」  見ると、私の下腹部に穴を開け、そこに、ハンターの一物が突き刺さっていた。  「・・・ぁくぅぁぁぁ・・・ぁぁ・・・・・ぁ・・・・・・」  声が出ない。何故死なないのだろう。主人が、ヒールを掛けていたのだ。これでは死ぬに死ねない。  「ふふっどうかしら?最高でしょう」  「はっいいね!こりゃ今までに無い、最高の快楽だ!!」  ハンターは、腰を動かし、文字通り、私の腹を抉った。  「・・・ぁ・・ぁ・・・・・ぁ・・・・」  私の中に、ドロドロとした感情が芽生える。殺意だ。ダメだ。堪えなければ。厭だ。助けて!  「ぐお!」  ハンターは、びくんと身体を震わせ、私の中に精を放った。感触は無くても、入ってくる感覚がある。  「・・・ぁ・・・・・・・・」  主人のヒールが途絶えた。そして、私はもう一度死んだ。  恐らく、死体すらも陵辱されるだろう。きっと、身体中を壊されるだろう。  主人らにとって、私は物でしか無いのだから。首に掛けられた枷は、消して外される事は無く、私を束縛 し続けるだろう。  助けて・・・母さん、父さん・・・