どうしてこんな事になってしまったのだろう? 薄暗い部屋の片隅でローグの男は呟いた。 さっきまで、あんなに楽しそうに笑っていたのに……どうして…… こみ上げてくる感情に、彼は身を震わせる。 その時、ドアが開き部屋に僅かながら明かりが差し込んだ。 見ると、ドアの向こうにはプリーストが一人立っていた。 「終わりましたよ……」 そう一言だけいうと、プリーストは彼を招き入れた。 「……助かったのか?」 彼はプリーストに問いかける。 「ええ、ですが……」 「なんだ! はっきり言え!」 激昂したローグがプリーストに詰め寄る。 その形相はまるで鬼のようだった。 「ですが、あまりにも損傷箇所が多いので完璧に治療することは不可能でした……」 「不可能だと!? 神の奇跡を使う人間が『不可能』だなんて言葉を口にするのかっ!?」 ついにローグがプリーストに掴みかかった。 だが、すぐに手を離すとぺッドに横たわっている人型の包帯の塊に歩み寄った。 この包帯の塊は、ローグの従妹の変わり果てた姿だった。 彼女の頭を撫でながら、彼は言った。 「俺は確かに外道だ。人様に迷惑ばかりかけて生きている人間だ。だからって……だからってどうしてこの子がこんな目に遭わなくちゃいけないんだよ!?」 彼の叫びに、プリーストは言葉を返すことができなかった。 しばしの沈黙の後、突然ローグは立ち上がり、外に通じる扉へと歩いていった。 「どこに行くんです?」 「決まっているだろ、止めるんじゃないぞ」 そう言い放ち彼はドアのノブに手を掛けた。 「そうやって相手を殺せば全て解決するんですか? それでこの子が喜ぶんですか?」 「五月蝿い! ゴチャゴチャ抜かすとテメェもぶっ殺すぞ!」 ローグが短剣を抜き放ち、プリーストに突きつける。 「……分かったな?」 ローグはそうとだけ言うと、立ち去っていった。 日も沈み、暗くなった町はずれを3人のノービスが歩いている。 3人は歩きながら何やら話し合っていた。 「ねぇ、さっきのヤバくなかった?」 「死んじゃったんじゃない? あの子」 「別に私たちが殺した訳じゃないんだし、安心しな」 そう言いながら歩く彼女達の前に、ゆらりと1つの影が現れた。 彼女達が何事が確認する前に、その影が躍りかかった。 銀光が閃き、刃がポニーテールの少女の顔を抉る。 斬り飛ばされた顔が宙を舞い、ボブカットの少女の頭の上に落ちた。 「え……」 彼女が頭の上の生暖かい感触の正体に気づくまで、少しの時間を要した。 「い……いやああああぁぁぁぁぁぁぁっ!」 ようやくその事を理解した少女が死人も起こすような悲鳴をあげた。 だが、その悲鳴も長く続かなかった。 再び刃が走り、彼女の腹部を切り裂いた。 「き……ぁ……」 腹を切られたショックで気絶した彼女はその場に崩れ落ちる。 腹部からは内臓がこぼれ、意識を失った体はビクビクと痙攣を繰り返している。 影はその少女の頭を容赦なく踏みつけた。 1回ごとに頭は少しづつ形を変え、じきに肉と骨と脳漿の混合物と化した。 目の前で起きた惨劇に怯えているロングヘアの少女に影が歩み寄る。 「いや……やだ……助けて……」 体を恐怖に引きつらせながら彼女は懇願する。 しかし影は……いや、月明かりのお陰でようやく彼女は襲撃者の顔を見ることができた。 そう、今日盗蟲にボロボロに喰われたノービスの従兄のローグだった。 彼女は直感的に彼が復讐にやってきたことを理解した。 「ご、ごめんなさい……あんな事になるとは思わなかったから……」 必死に弁解を続ける少女。だがローグはその言葉に耳を貸そうとはしなかった。 「あ、謝るから……だから……だから許してください……」 じりじりと後退しながら、彼女は謝罪の言葉を言い続ける。 「……本当に反省しているんだな?」 ローグのそのセリフに、少女はすがりつくような声を上げた。 「反省しています! だからお願いです許してください!!」 それを聞いたローグの顔が少しだけ和らいだ。 そして彼は言った。 「だが、断る」 次の瞬間、ローグのつま先が彼女の鳩尾にめり込んだ。 「ぐぅえぇっ……」 内臓をやられたのだろうか、口からは血の混じった吐瀉物が溢れ出す。 休む暇も与えず、ローグはうずくまる彼女の首を掴む そして思い切り顔を思い切り壁に叩きつけた。 「いやぁぁっ! 痛い! 痛いぃっ!」 激痛が少女の体を駆けめぐる。 だが、このようなことで終わるはずはない。 ローグは短剣を彼女の肩に押し当てた。 冷たい金属の感触が少女の恐怖心をさらに増幅させる。 「いや……やめて……」 再び命乞いをする少女、だがローグはそんな言葉を聞くつもりはなかった。 彼は躊躇せずに、短剣で少女の背中を切り裂いた。 「いや゙あ゙あ゙あ゙あああぁぁっ!!」 身を裂くような痛みに彼女は悲鳴をあげた。 さらにもう1度ローグは少女の背中を斬りつけた。 「誰か! 誰か! 誰か! 誰か助けて!!」 さっきから泣き叫んでいる少女をローグは鬱陶しく思い始めていた。 彼は背中の2つの傷口――ちょうど背骨と平行になっている――に指を突き入れた。 「――――――っ!!」 少女が声にならない悲鳴をあげる。 ローグは傷口を指で掻き回すと、何かを掴んだ……そう、背骨である。 彼は左手で少女の体を壁に固定すると、右手で背骨を力一杯引っ張った。 「ぎぅあ……が……」 ずるっ、という湿った音と共に背骨が、そして頭蓋骨すらも引き出されてきた。 体の支えと司令部を失った少女の体は力無く倒れ込み、二度と動くことはなかった。 彼は短剣に付いた血を拭った後、転がっている3つの死体を一瞥した。 そして、静かにその場から姿を消した。 彼が戻ってきたときにはあのプリーストの姿はなかった。 ベッドの上には先程と同じように包帯に包まれた彼の従妹が眠っている。 彼はベッドの隣の椅子に腰掛け、そっと彼女の手を握った。 「どんなことがあっても……俺が守ってやるからな……」 その言葉に彼女は答えなかったが、ほんの少しだけ彼女が手を握り返したように思えた。 彼にはそれで十分だった。