水流れる音が、暗い地下の空間に響き渡る。 ここはプロンテラの地下水道。よく、下水などと呼ばれているが、これでも立派な上水道である。 ・・・まあ、今は盗蟲とよばれる、ゴキブリのような魔物や、ねずみなどが大量に発生していて、 上水道としての役割は殆ど果たしていないのであるが。  最近、この地下水道では一般公募より集まった初心者女性冒険者を狙った、 強姦事件が多発しているらしい。その調査のため、プロンテラ騎士団長の命により、私はここへやってきた。 私は本来、騎士団に所属する者ではないのだが、最近は西方のオークの動きが活発になり、 騎士団はそれの対処で大忙しで猫の手も借りたいありさまらしい。 私はクルセイダー。迫り来る聖戦に備える者。普段の役割は首都プロンテラや王城の守護などである。 「もう随分経つのに・・・相変わらずね、ここは」 私も昔、駆け出しの頃に、一般公募で地下水道の魔物掃討に応募していた。 しかし、騎士団や冒険者の努力も空しく・・・未だに魔物の数は衰えていなかった。 周囲に気を配りながら、私はさらに奥に足を進めた。 奥に行くに従い、魔物の数も増え、悪臭も酷くなっていく。 「きゃーーーーーーーっ!!」 突如、辺りに悲鳴が木霊する。 例の事件か、と緊張が走る。私は声の方に大急ぎで向かった。 すると、そこには盗蟲に群がられ、必死に叩いている女剣士の姿があった。 盗蟲は好戦的な魔物ではないが、仲間意識が強く、仲間が襲われると集団で襲い掛かってくる。 手馴れた冒険者なら取るに足らない相手だが、彼女はまだ駆け出しなのだろう。 剣捌きや身のこなしも、まだまだ初心者のそれだった。 このまま見捨てる訳にも行かないので、助太刀することにした。 「はぁぁぁぁ・・! マグナムブレイク!!」 闘気を溜め、一気に放出する。周囲に闘気の爆発が起こり、盗蟲たちは消し飛んだ。 彼女は暫くきょとんとしていたが、 「あ・・・ありがとうございます・・・」 彼女は涙目で、ぺこりと頭を下げた。 「無事でよかったわ。大したことない相手だからって、油断するとこうなるわ」 「は、はい」 びくっと、返事をした後続ける。 「お、お姉さんとっても強いんですね」 「あら、そうでもないわよ? あなただって、頑張って修行すれば強くなれるわ。頑張って!」 ぽん、と彼女の頭に手を乗せる。彼女は満面の笑みで、 「はいっ!」と答えた。  彼女に別れを告げ、私はさらに奥へと足を進めた。 事件は2,3日に一度くらいの割合で、今の時間帯に起こっていた。 巡回をしていれば、今日も現場に遭遇できる確率は比較的高い。 まあ、もちろんそんな事件起こらないに越したことはないのだが・・・。 被害者の証言から、犯人は複数のグループで、冒険者である可能性が高い。 マスクをしていて顔は分からないそうだ。 他にも冒険者がいくらでもいるここでは、現場を抑える以外に方法はなさそうだ。 一通り見回ったところで、私は歩みを止め、壁を背に一休みすることにする。 「ふぅ・・・ひとまずは大丈夫そうね」 安堵の溜息をついたとき・・・ どこからともなく、かすかに呻き声と水路のものとは異なる、湿った音が聞こえてきた。 「これは・・・まさか・・・」 私は神経を張り巡らせ、足音を忍ばせて音のほうに近づいていった。 徐々に音がはっきり聞き取れるようになる。呻き声は女性のもので、時折くぐもった悲鳴のようなものも混じっているようだ。 他にも男の下品な会話も聞こえる・・・ 間違いない。 私は一気に駆け寄った。 スマイルマスクやゴブリン仮面で顔を隠した男が三人、そして法衣をびりびりに破かれ、犯されているアコライトの少女の姿があった。 「あなたたち、すぐにその子を開放して投降なさい。従わないのなら、実力行使も辞しません」 突然のことに、男たちは驚いて振り返る。 少女も必死に助けを求めようとするが、口に何か詰められているのだろう。上手く言葉が発せないようだ。 そのうちのリーダー風の男が口を開いた。 「おいおい、こちとらお楽しみ中なんだ。邪魔しないでもらえないか」 きっと鋭く睨みつけ、私はこう続けた。 「あなたたちですね、ここ最近の強姦事件の犯人は」 「だったら、どうだって言うんだい?」 「然るべきところに出て、罪を償ってもらうわ」 男たちは不敵な笑いを浮かべる。 「面白い・・・その実力行使とやらを、やってもらおうじゃないか。但し、この娘がどうなってもいいならな」 「く・・・その子を開放なさい」 「そうだなぁ、お前と交代っていうのはどうだい? そうすればこの子は開放してやるさ」 事件解決のためとはいえ、何の罪も無い被害者を犠牲にするわけにはいかない・・・。 少し躊躇したが、私は要求を受け入れることにした。 「・・・分かったわ。その代わり必ずその子は開放しなさい」 「ああ、いいぜ。あんたのほうが上物みたいだしな・・・へっへっへ。 さて、じゃあまずは、そのおっかない物を水路にでも捨ててもらおうか。後、服と防具も全部脱ぎな」 私は言われるままに剣を水路に投げ捨てた。続いて、ヘルムを脱ぎ、マントを外した。 マントを男たちの方に放って、その子に持たせるように付け加える。 防具を次々と外し、自分の服に手をかけた。 こんなところで、しかも下衆な男達の前で肌をさらすのはとても耐えられないが、 被害者を救うためだから仕方が無いと自分に言い聞かせる。 そして私は一糸纏わぬ姿となった。 「ほほぅ・・・これは思った以上に上物だな」 男はいやらしい笑みを浮かべるが、それを無視して私は続ける。 「約束よ、その子を開放して、全員離れなさい」 リーダー風の男が顎で指示をすると、他の男達は彼女を拘束していた縄を解いた。 そして私のマントを持たせると、男達は私のほうに歩み寄ってきた。  来るなりいきなり、私の胸を揉みしだき、尻を撫で、秘所に指を這わせた。 気持ち悪いにもほどがあるが、勤めて平静を装い、抵抗はしなかった。 彼女が私のほうを見て、不安げに言う。 「お姉ちゃん・・・」 それに対して、にっこり微笑み 「私は大丈夫よ、ほら、早くお逃げなさい」 彼女は頷くと、マントを羽織り、途中何度も振り向きながら走り去っていった。 押し倒され、男の手が、指が、舌が私の体中を這い回る。心底気持ち悪かった。 男達は口々に私の体を賞賛しているが、こんな連中に褒められても嬉しいわけが無い。 彼女が見えなくなってからも、暫くは抵抗をしなかった。追いかけて辱められる可能性も無くも無い。 彼女が見えなくなって、暫く経った後、私は口を開いた。 既に私の純潔は奪われ、体中が汚されていた。激しい怒りと悲しみが沸き立ってくるが、抑えて静かな口調で言う。 「さて・・・もう一度だけ警告します。大人しく投降しなさい。さもなくば・・・命の保障はできないわ」 男達はあざ笑い、そんな状態で何が出来る、等と口々に罵った。 「分かりました・・・」 とはいえ、さすがにこの状況では、まともに戦っても勝ち目はないだろう。私は最後の手段を使うことにした。 言い終わるが早いか、私は精神を集中し始める。闘気を全身に蓄積し・・・ 「神よ、力を・・・グランドクロス!!」 辺りを激しい光が包み、聖なる衝撃波が男達を襲う。男達は悲鳴を上げる間もなく絶命した。 この技は強力な反面、自分の身すらも傷つけてしまう。 技の反動で全身いたるところから出血しながら、私は肩で大きく息をしていた。 防具を一切つけていなかったからか、いつもよりもダメージが大きいようだ。 私は動くこともできないまま、周りの男達の亡骸と共に暫く横たわっていた。  そのとき、何か甲高い音が聞こえた。 意識が朦朧としかけていたのですぐには認識できなかったが、チューチューというねずみの声だった。 タロウ・・・と呼ばれるねずみのモンスターだった。 この種は大人しく、基本的に向こうから襲い掛かってくることはあまりない。 しかし、次の瞬間私は戦慄を覚えた。走り寄るそれは、タロウではなかった。 タロウと同じねずみの魔物・・・クランプだった。 タロウに比べ、一回り大きく、毒々しい紫の毛並みを持つ、獰猛な魔物だ。 小さい割りに強力な魔物で、一般人など襲われたらひとたまりも無い。  普段の私ならどうにでもできる相手ではあるが・・・今は状況が違った。  武器も防具も無く、陵辱され、肉体的にも精神的にも疲弊していた。  その上、グランドクロスに殆どの体力を使ってしまったので、もはや動くことさえままならない。 「く・・・そ・・・」 逃げようと必死に体を起こそうとするも、もはや体が言うことを効かない。私は死を覚悟した。 間もなく、凄まじいスピードで走り寄ってきたクランプは、男の亡骸には見向きもせず、私の脇腹に体当たりをくわえた。 「が・・・はっ・・・」 あばらが折れたかもしれない。とてもこんな小さな体がぶつかった衝撃とは思えない破壊力だった。 そして、私の腹の上によじ登る。歩くたびに、鋭い爪で皮膚が切り裂かれた。 キョロキョロと私の体を見回し、出血していた右の乳首に狙いを定めると、おもむろに近寄り、噛り付いた。 「きゃぁぁーー! や、やめなさいぃ・・・」 激しい痛みに襲われながら、私は必死に声を振り絞った。 が、そんなものが理解できるはずもなく、小さな両手で乳首をつかみ、何度も何度も噛り付いた。 そのたびに、私を激しい痛みが襲う。払いのけようと腕を動かそうとするも、もはやそれさえもままならない。 先ほどの体当たりがさらに拍車をかけたようだ。 私は、痛みに耐えながら、自分の乳首が食べられていくのを見守ることしか出来なかった。 「胸が・・・私の胸が・・・」  やがてすっかり乳首がなくなると、クランプはさらにそのまま乳房に取り掛かったようだ。 傷口にかぶりつく形で、どんどん食べていく。どうも、血に釣られてやってきたのかもしれない。 そのとき、私の耳に、さらにねずみの鳴き声が聞こえてきた。・・・幻聴であって欲しかった。 一匹や二匹ではない。ものすごい数のようだ。 視界にねずみの姿が入った刹那・・・凄まじいスピードで走り寄ったねずみの群れが私に噛り付いた。 十匹・・・いや、二十匹はいただろうか。 もう片方の乳首を齧るもの、指をかじるもの、腹をかじるもの、秘所をかじるもの・・・ その全てが、傷口だったようだ。 私は痛みのあまり悲鳴をあげることも出来ないまま、ただただねずみの大群に蹂躙されていった。 「くっ・・・ぁ・・・」  そのとき、ひときわ激しい痛みが私を襲った。朦朧としていた意識がはっきりとなってしまう。 あのまま死ねたら、まだどれだけ幸せだっただろうか・・・。 一匹のクランプが、クリトリスを噛み千切ったようだ。続いて、秘所に痛みが走った。どうやら中に入り込んだようだ・・・。 爪で傷つけられ、体の内側から齧られる。今までとはまた違った痛みに、私はただただ声にならない声を上げるばかりであった。 既に、両の乳房は半分ほど無くなっていた。指も何本か、先のほうから骨が露になっている。 体中食いちぎられ、全身真っ赤に染まっていた。 腹を食い破り、内臓を引っ掻き回しているものもいるようだ。 ・・・その全てが、他人事のように思えた。 消え行く意識の中で、私はふと、先ほどの自分の言葉を思い出していた。  ・・・「大したことない相手だからって、油断するとこうなるわ」・・・ そう・・・私はたかが地下水道、と鷹をくくっていた。犯人や盗蟲くらい、今の自分ならどうにでもなる、と。 まさか、クランプなどという魔物が住み着くようになっていたとは、夢にも思っていなかった。 「私も・・・甘い・・・わね・・・」 それが最後の言葉となった・・・。