女はアルデバラン・時計塔2階に来ていた。 彼女のお気に入りの場所だ。デザインや構造が良い。 しかし、彼女は観光の為に来た訳ではない。狩りの為だ。 そもそも時計塔2階は観光で来れる様な場所ではなく、 それは強大な力を持つ魔物の存在の所為だ。 魔物がいなければここは人気のデートスポットになるのだろう、と彼女は思う。 ハンターである彼女は、使い慣れた弓矢で魔物を殺しながら常々そう考えていた。 魔物との距離を取りつつ矢で射抜く、それを彼女は日常としている。 否、殺した魔物が落とすものを売り、日常を過ごしているのだ。 2階を歩き回り、彼女からすれば獲物の方が正しいだろう魔物を探す。 パンクと呼ばれるカビの塊の魔物を何体も殺し、カビの粉を拾う。何故か売れるのだ。 (こんなもの、何に使うのかな・・・) 気にはなったが、買い手に訊いた事はなかった。 彼女は人間関係を避けている。面倒な事だらけだと信じているのだ。 (紙切れや針なら使えそうだけど・・・) そんな思考をしながら、パンクを集中的に殺し歩いた。 少し疲れ、階段状になっている所に座り休む。勿論、警戒はしている。 殆ど単なるペットとなっている鷹を傍に降りさせる、頭を撫でてやる。 その時、気配を感じたので周りを見るとアーチャスケルトンがいた。あちらは気付いてないらしい。 (もう良いかな・・・) ハンターは立ち弓矢を装備し、その場から動かずアーチャスケルトンを射抜いた。 そしてアーチャスケルトンが崩れ落ちる際、箱の様なものが落ちるのに気付く。 ミミックだろうか?しかし、ミミックは自身で移動可能だ。それも素早い。 (だとすると、アーチャスケルトンの所持していた何かの道具・・・?) それが現実的だ、と彼女は思う。 しかし、その箱とは距離を置いたまま、鷹を地面に降りさせた。鷹に確認させるのだ。 鷹がその箱に近付き、20cm程しか距離がなくなった時に止まらせた。 鷹もハンターも箱に視線を当てている中、パンクが彼女の後ろから攻撃する。 「んっ!」 腰に細かな粉が凄まじい勢いで当てられる。そこには血が滲んでいる。 彼女は距離をおく為、パンク側へ振り向き地面を蹴り跳ねる。筈だった。 彼女が振り向いた瞬間に凄まじい鳴き声がする。否、音かも知れない。鷹の発したものだろう。 再度パンクに背中を向け、箱を見る。血と僅かな羽が箱の周囲にあった。 パンクからの攻撃を同じ部位に受ける。が、痛みはない。否、感じられない。 痛みを恐怖という信号がかき消している。 遅い確信だった---- その箱は間違えなく、ミミック。 ミミックとは、そう、擬態するもの。 アーチャスケルトンの所持する道具に擬態していた---- ミミックは振り向いたハンターの右腕に向かい跳ぶ。 反応が出来ない---- 一瞬の内に肘から下がなくなる。噛み千切られたのだろう。 「あ・・・、あぁぁ・・・」 すぐにパンク側に振り返る。違う、ミミックと反対側を向く。 (逃げないと・・・!逃げないとッ!) パンクの存在など彼女は忘れていた。実際、パンクは遅いので問題なく逃げられる。 問題はミミックだけだ。時間的にもう右腕を喰い終えるだろう。 早く---- 呼吸を荒くし、彼女は走り逃げる。後ろは振り向かない。否、don'tではなくcan'tだろう。 しかし右腕がない状態でバランスが取れない。必然的にスピードが落ち、 恐らく彼女の本来のスピードの7/10程度だっただろう。 既に右腕を喰い終えたミミックが迫る---- 明らかにハンターよりミミックの方が素早い。 私は喰われるの?クワレ、る?死、ヌ? 嫌だ!生きたい! イタイ!左の足首がイタイ! 恐怖で麻痺していた痛みが戻る。 右腕は?ナゼないの?喰わレたからダ! 突然左脚首を喰われたハンターは勢い良く床に倒れる。右腕がない事もあり受身が取れない。顔から鼻血が出ている。 そのまま涙や鼻水も溢れた。 「ハッ、ハァっ・・・イァぁ・・・」 5秒に1度ずつ、彼女の左脚は10cm程短くなっていた。咀嚼音がしているのかしてないのか彼女には解らない。 そして遂に左脚は完全に喰われた。そのまま骨盤を噛み砕いく。 「・・・っがぁぁイぃぃ!」 自らの指で処女を失った性器がなくなり、腸が露になる。そこでミミックは1度止まり、 今度は右脚を喰い始める。右脚は腿からだった。 「あ"ぁぁぁ!」 胴体と脚が完全に離れる時。 今度は痛みがなく、聴こえる。 見えないが、聴こえる---- 脚を喰われる音が---- 「や・・・めテ・・・私のアシ、食べチゃだメぇぇェぇ・・・」 しかしミミックは右脚を喰い終える。 そして---- 「ばぁぁァああ!」 見開いた目からは涙を流し、鼻からは血と鼻水の混ざったものを流していた。 口は笑っている様にも見える。もし彼女が今の自分の顔を確認したなら、醜い顔と言うだろう。 ミミックは彼女の腸を喰い荒らし、やがて内蔵を喰らい始める。 ハンターは絶命した。 その後、ミミックはハンターの全てを喰らい尽くし、残ったものは血等の液体だけだった。 人間との交流を避け続けた彼女が存在した事を証明出来るものは、 今はもうない。