「おーけー、商談成立ね。…あっ、ごめんリボンHB今手元になかったよ…  倉庫に取りに行くからさ、ちょっとついてきてくれない?」 「は、はい、わかりました」 途切れることの無い人通り。数えきれない程の露店の数。夕方のプロンテラ大通りである。 いつも露店で賑わう通りの隅で、アコライトと商人のやりとりが行われていた。 商人は露店を慣れた手つきで片付け、アコライトに手招きをして歩き出した。 「倉庫ってカプラサービスじゃないんですか?随分遠いんですねぇ」 アコライトの少女がつぶやく。裏路地に入ってからしばらく歩いた。 もう通りの喧騒も聞こえなくなっていた。 「ごめんねぇ、でももうすぐそこだから。カプラだとさ、色々と不安なんだよねー管理とかがさ」 商人──こちらも年端も行かぬ少女だ──が振り向きつつ可愛らしい声で喋る。 明るい声と笑顔。分類するならば間違いなく美少女と呼ばれる部類だろう。 アコライトもこの笑顔に惹かれて、つい買い物をしてしまったのだった。 と、突然背中に冷たい感じを覚え、商人が立ち止まる。 いつの間にか、自分の喉にナイフが突きつけられている。 グラディウスと呼ばれるその短剣からは、濃い血の臭いがした。 「動けば殺す。声を上げても殺す」 耳元で男の声がした。完全に背後を取られているようだ。足音はおろか気配すら全く無かった。 心臓を掴まれているような感覚。商人の顔色は真っ青になってしまっていた。 「ふん…後ろの女がお前の『商品』か?どうやら間違い無いようだな」 「え…?な、なんですって?」 その男、ローグの言葉に耳を疑うアコライト。状況を把握するのに精一杯である。 「な、何言ってるのよ…あたしはただその子に商品を──」 「黙れ」 商人の言葉を遮り、男が唸る。 「お前が客を騙してアジトに連れ込み、性玩具として売り出しているのは調べがついている」 今度はアコライトが青ざめる。男の言うことが本当なら自分が餌食になっていたのだから。 商人は一言も発しない。ローグは更に言葉を続けた。 「本来、お前が何をどうして儲けようと関係の無い事なんだがな…もう少し相手を選ぶべきだった  1週間程前にお前が罠に嵌めた女、あいつはローグギルドの人間だ。  ギルドの仲間に手を出すということはボスの顔に泥を塗ることと同じだ」 まずい。まずいまずいまずい。商人は必死に打開策を考える。 ローグギルドを敵に回せば100%命の保障はない。24時間つけ狙われては死ぬしかないのだ。 男は商人の口元に布を当てた。しみ込ませた液体が彼女の意識を急速に奪う。 商人の鞄からポーションの瓶が落ち、ガシャン、と音を立てて割れた。 「あ…あれ…?いない…?」 アコライトの少女が瓶に気を取られた瞬間、二人の姿はかき消えていた。 商人は目を覚ました。何があったのかを思い出し、現状の把握に努める。 両手首がやけに痛むと思えば、両手を縛られ天井から吊るされている格好になっている。 縛られているロープの長さは充分にある。宙吊りになっていないのは不幸中の幸いだ。 薄暗い部屋を見渡せばいくつかの影。しかし、姿は見えても気配はかけらも感じられなかった。 「ようこそ」 唐突に男の声がした。一際風格のある男──おそらく彼が『ボス』なのだろう──が発したものだった。 本当に人間なのかと疑いたくなる雰囲気。その鋭い眼光に見つめられるだけで身がすくむ。 商人はとりあえず時間を稼ぐ事に決めた。生きてさえいれば逃げられるかもしれないし、許されるかもしれない。 「あ、あの女がこの組織の人だとは知らなかったんです…お願いします、助けてください…  あたしの出来る事なら何でもしますし、持ってる物なら何でも差し出しますから…」 半分は芝居だが、半分は本気だ。この程度でもし許されるというのなら安いものである。 が、男は表情一つ変えずに語り始めた。 「俺達は、金や利益のため…あるいは狩りの獲物を横取りされたからといって  人と争ったり命を賭けたりはしない。争いなど馬鹿のすることだ」 金では動かない。そう理解した彼女は懸命に次の説得を考える。その間にも男の言葉は続いた。 「だが、『侮辱する』という行為に対しては命を賭ける  貴様は組織を侮辱した。我々が望むものはたった一つ…報復だ」 このままでは確実に殺される。商人は信じてもいない神に祈った。 すると、更に一人のローグが現れ、ボスらしき男に耳打ちをした。 そして遠くで爆発音。彼女が待っていたものはこれであった。 商人が捕まった場所はプロンテラの彼女のアジトのすぐ傍だったため、子分が異変に気付いていたのだ。 そして部下を引き連れここまで来たのだろう。混乱に乗じて逃げられるかもしれないという希望が湧いた。 ここでも表情は崩さず、ボスの男が静かに告げてきた。 「たかが60人やそこらでここに攻めて来るとはな…命知らずも甚だしい  お前のさしがねなのだろうが、数分もあれば片付くだろう」 遠くで悲鳴と怒号が聞こえる。が、それも程なくして消えていった。 僅かな希望はあっけなく砕かれてしまった。 ボスの男は次の言葉を最後に姿を消した。 「やれ。手段は任せる」 その瞬間、商人の首筋に小さい痛みが走った。 どうやら注射器を刺されたようだ。注射器の中の液体が彼女に流れ込んだ。 暫くして、頭痛と吐き気、めまいが商人を襲った。 と同時に、何故か神経が研ぎ澄まされていくのも感じた。一体何の薬だったのか。不安が彼女を包む。 目の前のローグが疑問に答えるように喋り始めた。 「これはバーサークポーションとアンティペインメントから抽出した薬だ  痛みを和らげ、全神経を覚醒させる。まぁ要するに簡単には死ねないということだ」 声からしておそらく自分をさらった男だろう、と商人は見当をつけたが全くどうでもいい事だった。 「説明するより体験したほうがよっぽど早いんじゃねぇ?」 先程の男とは別の、いかにも軽そうの雰囲気のローグが言ってくる。 その男が右腕を目にも止まらぬ速さで振るうと、いつ出したのか手に短剣が握られていた。 そして短剣の先には、滴る血と…眼球。 「こうやって眼ぇえぐっても大して痛かねぇだろ?」 言われて初めて痛みを自覚する。あの一瞬で左眼をえぐり取られたことにようやく気付く。 「きゃあああああああああああああああああ!!!!!!」 痛みはほとんどない。が、眼を潰されたという事実が表情を恐怖と絶望に染める。 「ちっ、うるせーな」 吐くようにそう言い捨てるとナイフの男が商人の顎を掴み、口を無理矢理開かせた。 「俺はうるせぇ女は嫌いなんだ。これでもくわえて黙ってろよ」 ナイフの先の眼を商人の口の中に押し込み、口を閉じさせる。 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。口を押さえられているため吐き出すこともできない。 「敵に射抜かれた眼を「勿体無い」って言って喰った人間の話もあるくらいだからよォー  お前もそれくらいやってみろよ。ほら、しっかり噛みな」 男が手を離すと、商人は猛烈な吐き気に勝てず胃の中身と目玉を床にぶち撒けた。 「うぅっ…おええぇぇ…ゲボッ、ゴホッ」 このあたしにこんなことして…絶対に生きて復讐してやる! 商人の心は折れていない。伊達に悪事を重ねてきてはいない、ということだろう。 「服が邪魔だなぁ。剥ぐか」 眼をえぐった男が面倒くさそうに呟きながら歩み寄ってくる。 裸にして犯そうとでもいうのだろうか。身体を傷付けられるよりはよほどマシだ。あたしも嫌いじゃないし。 そんな事を考えてる間に男の短剣が振るわれる。衣服はあっという間に細切れになり床に落ちた。 ふと周りを見ると、目の前のナイフの男以外は誰もいなくなっていた。 こいつさえなんとかできれば助かるかもしれない。これ以上身体に傷を負うのもごめんだ。 男が欲情しやすいよう、わざと陰部が見える姿勢で座り込む。 ローグもそれに気付いたようだった。嫌らしい笑みを浮かべ、視線を向ける。 「なんだてめぇ…誘ってんのかよそれは?」 「え…嫌…やめて、酷いことしないで…」 商人は内心しめた、と思いつつ、悲鳴を漏らす。こういうサディストは嫌がるほうが興奮するだろう、と。 ローグが商人の足を掴み、彼女の股間に指を這わせる。 気持ち悪い。同意を伴わない愛撫は不愉快なだけである。 そして、何かが挿入される感覚。痛みに下を見てみると── 女の秘部にローグのナイフが深々と突き立てられていた。 「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!!!」 喉が裂けるかと思う程の大きな悲鳴。痛みが小さい事が逆に恐ろしい。 「うるせーってんだよ…黙ってろ」 ローグが左手で商人の首を掴み、息を止める。と同時に短剣を握った右手を動かした。 まるで粗相したかのように、女の股間から多量の血が流れ出る。 部屋中に濃厚な血の臭いが広がり、床の血溜まりはどんどん大きくなっていった。 男は今度は紅く染まった腹部へと短剣を突き刺す。 女は反応もしない。眼にはもう光はなく、虚ろに空間を見上げているだけだった。 ローグは首を絞めていた左手を離し、女の腹の傷口に突っ込んだ。 引き抜かれた血まみれの左手には、商人の子宮が握られていた。 「これがお前の子宮だよ。見たことあるか?あるわきゃねぇよなぁヒャハハハハハ!」 女の眼に光が戻る。男の声は嫌でも耳に入り、言われている事を理解せざるを得ない。 「イヤアアアアアアァァァァアアアァァア゙ア゙ア゙!!!」 商人の悲鳴が気に障ったのか、ローグがイラついた表情を見せる。 「あーうるせぇうるせぇ。声帯があるからいけねーんだよな。取っちまうか」 男は素早い手つきで短剣を振るうと、あっという間に胸元から首にかけて切開されてしまった。 声帯を切り取られ、女は叫ぶこともできなくなった。呼吸することすら困難になる。 よほどナイフの扱いに慣れているのか、動脈には傷一つついていなかった。 ローグは口をぱくぱくさせる女を見て、満足そうな笑みを浮かべた。 男は商人を床に寝かせ、嬉しそうに『解体』してゆく。 胸を切り開き肋骨を全て取り去り、脈動する心臓を眺めては笑みを浮かべる。 薬の効果なのか、奇跡とでもいうのか、商人はこのような状態でもまだ生きていた。 もっとも、生きているということが必ずしも幸福とは限らないのだが。 意識はあるようだったが、正気を保っているはずはなかった。 その眼は何も見てはいなく、その口は空気を肺に運ぶためだけに動いていた。 そんな事は気にも留めないローグは女の腸を引きずり出し、そのまま力任せに引きちぎった。 どれ程時間が経ったのか。ローグの興味は最早失われていた。 胸、腹、腕、脚…あらゆる部分を弄び、刺し、バラした。残すは頭だけ。 しかし頭を切り開けば確実に女は死ぬ。ローグは死体には興味はなかった。 「この玩具ももう終わりだな…ま、中々楽しめたほうかな」 再び面倒くさそうな表情を浮かべ、心臓を掴んだ。 一瞬で心臓に繋がる全ての血管を切り払う。鮮やかな紅い血が噴出す。 血溜まりに横たわっていた商人はただの肉塊と化した。 ローグの手の中で脈打っていた心臓も、やがて動きを止めた。